王への手紙
『拝啓
桜花が散り始める季節となりました。如何お過ごしでしょうか。
私は、現在水路構築に温室設計。港の改修や乾船渠の建設など多岐にわたる計画を粛々と実行しております。
王都の経済や農業事情など民の生活に変化はありますでしょうか。こちらが一段落次第、一度王都に戻ります。立太子の儀予定日より数日早く戻る予定でおります。
さて、現在ライラック島で一緒に過ごしている方々から少々。いえ、かなりの問題になる話を聞きました。王都に戻り次第詳しく話させていただきますが、どうやら魔石燃料を使用した経済活動を行っているとのことです。
彼の地では、農作物に影響が出始めているとも話を聞いております。この島や王都にはまだ影響は出ていないかと思いますし、私の作成した結界が正常に作動している間は、心配は無いかと思います。しかし、結界外の開拓村や、山や川、林などには影響が出始めているかと愚考いたします。お忙しいとは存じますが、是非とも調査団を派遣していただければと。
追伸
この手紙を運んでくれたヴェレールとその娘、シュナを私が王都に戻るまでの間に育てていただきたく・・・。ヴェレールはご存じかと思いますが、シュナは神獣ですので身分上、扱いは難しいかもしれませんが、彼女は素直ですので、何事も素早く吸収してくれるかと思います。
何分人手不足で、2人には王宮での作法や侍女としての動き方などを徹底的に。特にシュナは生まれてあまり時間が経っておらず、島から出たこともないので、一般常識も合わせて教育していただけると助かります。
お願いばかりのお手紙で大変恐縮ではありますが、お身体に気をつけてお過ごしください。
敬具』
「────それで、お2人でこの王宮にいらしたと・・・。近衛たちを振り切って・・・」
「あの様な者達でわたくしを止めようなどと笑止千万ですわ!」
「ねっねぇ・・・母上、胸元のアルフレッド様からいただいた・・・」
「良いのですシュナ。侵入者2人も止められない近衛など意味が無いのですから」
「うぐぅ・・・」
「お久しぶりですわね隊長殿?この体たらくはいかにして挽回するのですか?」
「うぐぐ・・・腑抜けになりつつあるのは、常々感じておりました・・・。これより訓練を更に厳しく致します」
「それが宜しいかと」
「陛下・・・御前失礼いたします」
「うっ・・・うむ。程々にのぅ・・・。さて、お2人にはアルから教育を施して欲しいと」
「はい。カレンのもとで学んでおりましたが、彼女も忙しく、放置され気味でしたので。そこで、アル様がカレンに言われて書かれたその手紙をここに運ぶ役目を請け負いましたの。そうしましたら、アル様が慌てて追記されまして・・・あとは、そちらの手紙に書いてある通りですわ」
「───あいわかった。期限まであと一月ほどはあるからな。アスベル!」
「はい。陛下」
「ヴェレール殿にその娘のシュナ殿だ」
「ヴェレールですわ」「シュナです」
「ご挨拶痛み入ります。私はアスベルと申します」
「この者は、この王宮で侍女長として努めておる故、2人の教育係としても優秀である」
「・・・ヴェレール殿には骨が折れそうですね。昔、アル様からお話しは伺っておりましたので」
「其方にも話が行くほどに有名なのか」
「はい。ですが、教え甲斐がありそうです」
「シュナ殿には一般常識、一般教養も教えて欲しいと」
「畏まりました」
「わたくしは手強いですわよ!」「ママ!」
「はぁ・・・これは教育のし甲斐がありそうです。では、お2人とも陛下にご挨拶を」
「ではまた」「失礼します」
「お2人とも。今まではアルフレッド様のでしたが、この王宮の主は陛下です。斯様な挨拶は無礼です。背筋を伸ばして挨拶をしてください」
「アスベル・・・なにも初めから「陛下は口を閉じてください」はい・・・」
「挨拶は一番初め。ここで治さなければ、後々大問題にもなりかねません。あのカレンもあそこまでの礼儀を身につけられたのも、挨拶から徹底的に始めたからです。ほら。2人とも。陛下にご挨拶を」
「失礼致しますわ」
「御前失礼致します」
「・・・シュナは合格です。ヴェレール!もう一度!」
「ひぃぃ・・・!おっ御前失礼致しますわ」
「やり直し!語尾のわをとりなさい!」
「───おっ御前失礼致します・・・」
「よろしい。では陛下。御前失礼致します」
「うっ・・・うむ。頼むぞ」
「はぁ・・・アスベルは良くも悪くも仕事熱心で、忠実。アルにも理解のある者だからと、教育係としたが・・・大丈夫であろうか・・・。はぁ・・・っとそうであった。調査団の派遣か。誰か!冒険者協会長と軍務卿。それと内務卿を会議の間へ」
「───畏まりました」
「鬼が出るか蛇が出るか・・・非常に気になるところではあるが・・・頼まれた以上、確りと調べてやらねばな・・・」