結界式温室
「アルフレッド様。お帰りなさいませ」
館まで走って帰ると、門扉の近くで掃除をしていたカレンにであった。
「ただいま。カレン!ん・・・良い匂いがするけれど・・・」
「馬鈴薯で餅を作っていたのですよ。ただ・・・」
「ん?どうしたの?」
「馬鈴薯で作れるモノにも限界が有り・・・できればそろそろ小麦などを使用できるようになればと・・・」
「そっか・・・完全に忘れてた・・・。プルーナさんも水路ができたら小麦をって言ってたしね・・・。人が増えれば、川の向こうの湿地帯を開墾できるんだけれど・・・」
「川向こう・・・ですか?一体何を・・・あぁ!」
「そう!小麦よりも収量が安定していて、連作障害も灌水するために影響が少ない・・・我らがエルフ麦を育てたい。のだけれど・・・」
「今はまだ人員が少ないですね・・・」
「そうなんだよね・・・湿地だから水を貯める事に不安はないし、自然堤防があるから洪水の心配も薄い。だけれど水の引き込みから排水、畦を作ったりとやることは多い」
「そうですね・・・。エルフ麦と言えば、白の勇者様が何か違う表現をされていましたね?」
「あぁ!あの方が仰っていたのは確か・・・“コメ”だ!」
「そうでしたね。湿度や温度の管理を徹底することで、味は落ちるが食糧としては使えるとも・・・」
「うん。王国周辺の農地ではもう手狭だから。エレンが湿地帯を見つけてからはずっと構想を練ってはいるんだ」
「そうでしたか。───それで、急いで戻られたようですが?」
「あぁ!そうだった!畑に行ったら良い考えをもらったから実行しようと思って!」
「そうでしたか。では、私は2人が現在行っている作業の進捗状況を確認いたしますので。因みに、作業は裏庭で行われるのですか?」
「うん。10米四方の実験畑を作る予定さ」
「畏まりました。後ほど、馬鈴薯でできた餅をお運びいたします」
「うん!」
カレンと別れた私は、早速さんちゃんにお願いして、白狼石の煉瓦を生成して貰った。全ての面の煉瓦を二重にして、結界に漏れ出る熱をできる限り小さくして環境負荷を軽減。まぁ結界に損傷が無い限り熱は出ないと思うけど・・・ヒトが行うことに絶対はないから。用心してと。
「良し!できたっ!これで・・・さんちゃん。ここを農地として誘致をお願い」
『「ソレハデキカネマス」』
「えっ!?どうして?」
『「ココハ ボーナスセツビ ナノデ タノシセツヲ ツクルコトガデキマセン」』
「そうなの!?」
『「デスノデ コノリョウイキ カラハナレタ イチニ イドウヲ オネガイシマス」』
「そっかぁ・・・。じゃぁこのまま普通に育てようかな。そっちの方が色々な観察もできるだろうし」
『「アルフレッドサマガ ヨロシケレバ オチカラニナレズ モウシワケアリマセン」』
「なんのなんの!いつもありがとう。さんちゃん」
『「キョウシュクデス」』
さぁて・・・予定が狂ってしまったけれど・・・まぁゆっくり育てていけば良いよね?プルーナさんが言っていた温熱器を設置してと。白狼石には“遮”の文字を入れておいたから・・・。あとは結界に内部の熱をある程度保つ魔術式と、放出の際に外気と同じ温度にする魔術式をいれてっと・・・。
「よしっ!発熱と熱交換で簡単な結界式温室も創れるけど・・・それじゃぁ実験にならないしね・・・。これでどれだけ内部の作物に影響がでるか・・・ここでも芒果と糸瓜それに大豆と茄子もって・・・欲張りすぎかなぁ・・・。でもまぁ治癒魔法でどうにかできるし。やってみて損はないよね!」
「アルフレッド様。少しご休憩なされては?」
「ありがとうカレン。これが例の餅?」
「はい。餅と言いましても、馬鈴薯を蒸かして潰し成形して焼いたものになります。味付けは塩のみですが」
「うん。芋本来の甘みがあって・・・そうだ!温室近くでで甘藷を育ててみよう!熱が漏れていれば、蔓ばかり生長するだろうし・・・採れたら採れたで、美味しくいただけるし」
「良いですね!」
「そうと決まれば・・・」
熱が漏れているかどうか・・・環境の変化に敏感な作物というわけではないけれど・・・甘い芋も食べたくなってしまった・・・。この土地に向くとは思うのだけれど、収穫の予定は5ヶ月後だから。それまでは皆に内緒にしておこう。
「カレン。皆にはまだ内緒ね?」
「畏まりました」
内緒と伝えると、カレンがはにかむような笑顔を向けてくれた。思えば2人だけの秘密ってしてこなかったか・・・なんか私も照れちゃうな・・・。
「アルフレッド様。このあとのご予定は?」
「特別ないけれど?」
「そうしましたら────」