失敗は成功のもと
「─────うぉあぁっ!あちち!これは失敗なのじゃ!アル!」
カレンに夜が明けた事を告げられ、身支度と遅めの朝食(昼食かな?)を済ませたあと、庭に出て魔道具の試運転を行っていたのだが・・・濛々と湯気が立ちこめてしまった。
「うん・・・これは・・・失敗だね」
「最初は良かったのですが・・・」
そう。カレンの言う通り最初は良かった。人肌くらいの温度から、湯船に張れる位の温度までゆっくりと上昇。しかし・・・魔核の力が強かったのか、魔力が循環し始めると急激に温度が上昇して今に至る。
「・・・温度調節の機能は付けなかったのか?」
「うん。この大きさの魔核なら必要は無いかなぁと」
「まぁ普通は必要ないが・・・この島は誰が創った?」
「私だよ?」
「では、何故この場所に?」
「魔脈が通っていたから・・・」
「魔脈の太さは?」
「幼少期で覚えていないよ・・・」
「むう・・・この地の魔脈は、我が国の世界樹に通じておる魔脈の太さとそう相違ない。ワシが直々に調べたからな!と言うことは、世界に数ある本流の一本と言うわけじゃ」
「山で話しているときに、心ここに非ずだったのは、そう言うことでしたか・・・」
「と言うことは、小さくても相当な力を持っているって事か・・・」
「そういうことじゃ」
「そっか・・・少し待っててもらって良い?改良してくる」
「これは・・・また朝までかかるじゃろうな」
「ですね。何か身体を温めるものでも作っておきますか。2人の様子も気になりますし」
「うむ・・・ワシはまた火山の方にでも行ってくるかのぅ」
「わかりました。何か軽食でも作りますか?」
「嫌に優しいのぅ」
「火傷を隠していた貴女には言われたくないですね」
「露見しておったか・・・すぐに治したのだがのぅ」
「アルフレッド様は気付いていない様子でしたから。功労者は労わなければなりません」
「そうしたら────」
カレンとエレンから意見をもらって、工房へととんぼ返りし、早速作業に取りかかった。
「さて・・・予想外に熱量が内包されているから・・・抑制器をもう少し大きくして性能を上げて。あっそうだ!開閉器に捻るだけで水温を調節できる機能を付けよう!そうだ!送水管の部分にも水量を調節できる機能をつけて。それからそれから─────」
「───様!アルフレッド様!」
「・・・ん?かれ・・・ん?んんぅん!っと!今何時?」
「・・・8刻半です。相も変わらず熱中すると寝食を忘れるのですから」
「あぁ゛・・・久々に机に伏して寝てしまったから身体のあちこちが痛い・・・」
「あとで解して差し上げますよ」
「ありがとう」
「ところで・・・小さいものと大きいもの2つできているのはなぜですか?」
「開発に勢いがついてしまって・・・小さい方は昨日披露したものに、温度調節機能と水量調節機能を付けたもの。大きいものは、集合家屋や工場、大きな施設などでも使えるようにしたものなのだけれど・・・」
「両方とも開閉器がついていますね」
「そうなんだよ・・・小さい方は屋内に配置するから良いのだけれど、大きい方を屋内に配置することはできない。屋外に配置したとしても・・・」
「悪戯をされてしまったら供給が止まってしまう・・・」
「うん。まぁ小さい方だけでも先に普及させて、大きい方は追々かな」
「それが宜しいかと」
「それじゃっ外で確認してみようか」
「おぉ!これが新しいものか!───おぉ!丁度良いお湯が出てくるのじゃ!」
「つまみを回すと水温を調節できるし、送水管のつまみを回すと水量を調節できるよ」
「おぉ!これは良い!が、水量調節は、送水管ではなく、水の出口に付けた方が良いと思うのじゃ。水を使う手元にあれば利便性がよいからのぅ!」
「おぉ!そうか!考えもしなかった!」
「それと、水の出口はある程度可動性があった方が良い。固定式は確かに便利じゃが、水が欲しい方向に動くという方が便利なのじゃ!」
「おぉ!そうすることでお皿洗いとか楽そう!」
「それ以外にも濡らしたいものとそうでないものの区別も付けられるのじゃ!」
「うんうん!その考えをいただいて改造してくる!腕が鳴るぞぉ!」
「エレン・・・」
「っは!思わず焚きつけてしまったのじゃ・・・面目ない」
「はぁ・・・」
「なんですの?なんですの?何かあったのですの!?」
「・・・お主はアルの工房に近づくのではないぞ」
「なんでなんですの!わたくしもアル様のお手伝いをしたいですわ!」
「───貴女が・・・」
「ママ。アル様のお手伝いの前に、まず割ったお皿のお掃除よ。ここに来て何枚割ってるの!?」
「まだ二桁ですわ!」
「胸を張って言うことではないですよ・・・」
「そうよママ。せめて一日で割るお皿の数を一桁にしないと・・・」
「いやっ・・・0にしないとじゃよ」
「・・・ママにできると思います?」
「なんですの3人とも!その哀れんだ目は!止めてくださいまし!」
「兎にも角にも、ヴェルが手伝いに行くのは止めてください。アルフレッド様の悲しんだお顔を見たくはないでしょう?」
「うぐぅ・・・わたくしだってお手伝いしたいのに・・・」
「仕方あるまい。誰にでも向き不向きはある。アルの事じゃ。お主にしかできない仕事をそのうち振ってくるじゃろう」
「うぅ・・・」
「ママ。お掃除・・・しよ?」
「はい・・・」
「ふぅ・・・」
「娘が確りしていて助かったのじゃ」
「ええ。本当に」
「どうしたの?2人とも?」
「おぉ!アル!今回は早かったのぅ」
「うん。エレンから良い考えをもらったからね!みてみて!注ぎ口より手前を蛇腹構造にしたんだ」
「ほう!して素材は?」
「沼大蛇の腹だよ。勿論、綺麗に洗って内側と外側に薄く白狼石を塗布してる」
「文字通り蛇腹じゃが・・・。石がそこまで柔らかくなるのか?」
「うぅん・・・ここの白狼石は、私の魔力との親和性が特に高いらしくてね。想像したことを叶えてくれるみたいなんだ」
「ほぉ・・・流石は“狼”じゃのぅ」
「なんですかエレン。その目は」
「べつに?他意は無いのじゃ」
「ふん!」
「まぁまぁ2人とも。」
「ところで・・・これをどうやって量産するのです?」
「ん?あぁ。量産は・・・」
『「ワタクシニオマカセヲ」』
「と言うことで、さんちゃんが手伝ってくれるよ」
「では・・・設置は?アルフレッド様が手ずから行うので?」
「はいはいはぁい!わたくしも手伝いますわよ!」
「ママッ!駄目よっ!」
「うぅ・・・」
「・・・どうしよう」
しまった・・・設置までは考えていなかった・・・一軒に最低でも2箇所・・・。どうしよう・・・ん?
「どうしたのじゃ?」
「いやっ・・・土人形達が・・・えっ?」
「「?」」
「設置・・・やってくれるって」
「なぬ!土人形が自らの意思で意見を述べるとは・・・」
「うん・・・でもさ。渡りに船だから・・・お願いしても良い?」
「───!」
胸をドンと叩いて誇らしげに了解のサインを送ってくれる土人形達。このあとしばらくの間、また白い何かが家の中を動き回り、気付くとお湯が出る魔道具が設置されていたとかいないとか・・・ちょっした騒ぎになりました・・・はい。カレンさん。今回も申し訳ありません。報連相の大切さが身にしみました・・・。