簡易浴場
水が自由に使えるとなると・・・やはりお風呂。ですよね・・・。
「───まさか・・・天幕にこの様な使い方があったとは・・・」
「持ち運びが簡単で、大規模な工事もいらない。流石に常設はできませんが・・・」
「いやいや・・・水だけで身体を洗う生活から少しでも脱したと言うのは、大きな活力に繋がりますよ。アルフレッド殿・・・ありがとう」
「とんでもない!皆さんが水路を作ってくれたからこそ実現できたのです。塩水を沸かすのと真水を沸かすのでは、やはり違いますから・・・。この簡易天幕浴場を作ることができたのは、皆さんのおかげですよ。ストルネ殿」
私たちは今、天幕の前で話している。天幕といっても、会議を行ったり寝泊まりをするために張ったのではない。天幕の中に簡易的な浴槽を作ったものだ。私の魔法で作り出した泥に焼いた石を並べたものである。流石に完成当初は、沸騰して誰もはいることができなかったが・・・。
「順番制にしてはおりますが、皆浮き足だっておりますな」
「久々のお湯ですからね。ストルネ殿も・・・気分が浮ついていらっしゃるようで」
「それはもちろん!艦の浴場設備は、動力を動かさないと水しか出ませんから・・・井戸水ではなく、お湯で身体を洗う。浴槽に浸かる。というのは久々で・・・年甲斐もなく気分が高揚するものですよ」
「しかし・・・良かったのですか?普通上官が先に入るものかと・・・」
「儂は最後で良いのですよ。力仕事や畑仕事。海での食糧調達まで。肉体労働は常に儂よりも下士官たちが主に担っています。そんな彼ら彼女らを差し置いて、上官が一番にと言うのは何とも烏滸がましい。実際に動いている者たちこそが、疲れを癒やす特権があるというもの」
「ご立派です。私もそうあらねばなりませんね」
「何を仰る!この地で一番に身分の高い貴方様が、細部に至るまで我々に助力してくださっている・・・本当は一番に浴槽に浸かってもらいたかったのですよ?」
「あはは・・・まぁ私は皆さんが確りと温まるよう温度を調整してますから・・・。ストルネ殿も空き次第入ってくださいね」
「ありがたく」
「アル!」
「アルフレッド様」
「おっ!お帰り2人とも!首尾はどう?」
「大丈夫なのじゃ」
「滞りなく設置できました」
「?一体何を・・・」
「あぁ!浄化の魔道具と循環の魔道具の簡易版を作って、浴槽に繋げてもらったのです。流石にこの人数が入るので、お湯を浄化、循環させないと気分が悪いでしょう?まぁ簡易的に造ったものなので耐久力は今回のみですが・・・」
「───いやはや・・・なんとも・・・」
「役目を終えると自然に還るようになっていますので心配ご無用ですよ」
「───驚きすぎて言葉が出ませんな・・・」
「───いやぁ・・・いいお湯だった!」
「生き返った気分だわ!」
「ひっさびさのお湯!浸かれる浴槽・・・くぅ!」
「水浴びだけでは物足りなかったから・・・」
「全身って言うのがやっぱりいい!」
「明日からまた頑張れるわ!」
「「「うん!」」」
入浴人員の交代時間となり、天幕から出てきた一団が、口々に感想を述べていた。私たちは入り口の真横にいたため、姿は見られず。一団も気付くことなく自分たちの仕事場へと戻って行った。入れ替わりでやってきた一団は、先程の様子を見て、笑顔で楽しみだと周りと話ながら天幕の中へと消えていった。
「皆さん。笑顔ですね」
「うん。でも・・・よくこの大きさの天幕を持ってきていたね?」
「それは、アルフレッド様のお父上が・・・んん!」
「ん?父上が?」
「いえ。何でも・・・」
「アルの父は変わらず過保護じゃのぅ」
「・・・ははは」
「アルフレッド殿は愛されていらっしゃるのですな」
「あはは・・・親馬鹿なのが玉に瑕ですが、とても良い父親ですよ」
「はっはっは!───いつかお目にかかりたいものです」
「落ち着いたら王都にいらしてくださいね!」
「もちろん!お伺い致します」
「てーいーとーくー・・・」
「おっ・・・おいプルーナ!全身真っ赤だぞ!」
「本当だ!どうしてそんなになるまで入っていたのさ!」
「だってぇー・・・ひさびさのおゆだったんだもんー・・・ながくはいらないと、そんだとおもってー」
「はぁ・・・まったく」
「うひゃぁ!ひやっこい・・・かれんちゃんひやっこいよぉ」
「少し身体を冷やして・・・」
「ほれ。水分も補給するのじゃ」
「えれんちゃんもありがとぉ」
「まったく世話が焼ける。申し訳有りません。アルフレッド殿。カレン殿。エレン殿」
「なんのなんの!ここまで喜んでいただけて何よりですよ!」
若干の問題が発生したけれど、大好評の内に天幕風呂が終了となった。明日は魔核を探さないと。それと・・・浴槽に浸かる時間は、逆上せないように、程々にね!