領主の館 ⑦
長かった・・・。
『「ショウショウ オマチイタダイテモヨロシイデショウカ」』
「────!いったい誰の声ですか!?」
「ああ・・・」
『「モウシワケアリマセン デスガ コンゴノコトヲ カンガエマスト カンネサマニモ ワタシノコトヲ シッテオイテイタダイタホウガ ヨロシイカトオモイマシテ」』
そう言って、腕につけている簡易倉庫から飛び出してきたさんちゃん。いっつも思うけど、どうやって浮いているんだろう・・・。おっと、それよりもカンネさんが驚いているから説明しないと・・・。
「あのっ───!」
「カンネよ。あの浮いているものはアルフレッド殿の魔道具の一つである。他の者には他言無用ぞ」
「ハッ!」
おぉう。ストルネ殿がかばってくれた。目礼をすると、気にするなという意味で首を左右に振ってくれた。さすがは提督殿だね。
「頼むよぉ・・・さんちゃん」
『「モウシワケアリマセン」』
「で・・・どうかしたの?さんちゃん」
『「ワタシヲ カンネサマタチノサギョウゲンバニ ドウコウサセテイタダキタイノデス」』
「どうして・・・もしかして、できるの?見ただけで?」
『「ハイ ワタシノカメラヲゲンバニムケテイタダケレバ ガゾウデータトシテ トリコミ コマカイセッケイズノ サクセイガカノウデス」』
「あぁ・・・同一建物の建設が可能ではないのか」
『「イゼンニモモウシマシタガ アルフレッドサマガ ミズカラサクセイシタモノニカギリ サイゲンセイサクガ カノウナノデス ナノデコンカイハ セッケイズメンノサクセイノミトナリマス シカシ ジョウスイカンナド マイセツサレタブブンニカンシテノ ショウサイナズメンヤ タテモノヲワギリニシタズ フカンズ ナド サマザマナカクドカラ タテモノヲミルコトガカノウトナリマス」』
「でえた?とかよくわからないけれど・・・。要するに、さんちゃんに建設現場を見せていくと、配管位置や柱の位置等、工事が完了してからでは見られないものを見る事が可能になるってこと?」
『「オオムネ ソノゴリカイデヨロシイカト」』
「わかった。そうしたら・・・」
「・・・申し訳ありませんアルフレッド殿。その魔道具はどのようにお使いになるのですか?」
「えっとですね・・・さんちゃん、大勢人がいる場所に行くんだから、もう話しちゃだめだよ?『「ハイ」』カンネさん。この魔道具はですね──────」
「─────わかりました。この板の裏側にある鏡を建設現場に向けておけばよろしいのですね?」
「はい。大まかに映しだ後は、今のように自立して動きますので、お気になさらずに作業を続けていってください。決して邪魔になるような位置に行くようなことはありませんので」
「かしこまりました。もし万が一、破損するようなことがあった場合は・・・」
「破損に関しての心配は無用です。危険の察知と退避ができますから」
「わかりました。気を付けるべきことが少ないのは、建設現場を預かる身としては安心です」
「では、カンネ、プルーナ。工事に戻り館を完成させてしまおう」
「「ハッ!」」
「よろしくお願いします!・・・それでは、私たちも気を取り直して作業に移ろう」
「うむ!」「はい!」
それにしても、さんちゃんが自己主張してくるのには驚いたな・・・。今までこんなことはなかった・・・。あれ?結構あった?まっいいか。それよりも貯水塔を作らないと。さっきカンネさんに説明している最中にさんちゃんに作ってもらった魔道具をおいてっと。
「エレン!上水管の接続は上手くいきそう?」
「―――水路への接続完了したのじゃ!」
「りょうかい!カレン!貯水塔はどう?」
「―――貯水槽内部の粘土が乾燥しきれば作業は終了となります」
「わかった!ありがとう!もう降りてきていいよ」
さすがはフェンリル・・・。結構な高さでも、砂ぼこり一つ上げずに着地したよ。身のこなしが軽やかだ。お!エレンも戻ってきた。さすがにこちらは近いから歩きだけれど。
「なんじゃアル。その期待を裏切られたと訴えるような目は」
「・・・べつに・・・。トンデモドッテクルッテキタイナンカシテナイヨ」
「むぅ・・・目と鼻の先におるのに飛んで戻ってくるような無精者ではないのじゃ!」
「あはは・・・。ごめんごめん。カレンの着地があまりにも綺麗でさ。種族の特徴を生かして戻ってくるのかと期待してしまったんだ」
「まったく・・・。カレンは高いところにおったからじゃろうに」
「アルフレッド様が命じられれば、ここよりも高いところからでも綺麗に着地して見せますよ」
「むぅ・・・。その顔やめい。無性に腹が立つのじゃ」
「そうですかぁ?そぉんな顔してはいませんけどぉ」
「むきぃーーー!」
「はいはい。2人とも喧嘩はやめて。カレン、そろそろ大丈夫かな?」
「はい。もう頃合いかと」
「うん。・・・おっ!日没前に館が完成したみたいだ」
カレンとエレンが口喧嘩をしていた最中に館が完成したようで、信号魔法が打ち上げられた。あれは・・・以前ストルネ殿と話していた際に近くにいた魔術師の一人の魔力だなぁ。
「エレンは、館の方に行って水が流れることを知らせて、周知が終わったら風弾を空に。カレンは、水路の大元にある魔道具に行って、エレンの風弾を確認したら私が光弾を打ち上げるから、4段階目までの開放をお願い」
「わかったのじゃ」「かしこまりました」
エレンは、返事とともに文字通り館まで飛んでいき、カレンは魔道具の設置場所まで駆けていった。そうして、少しも待たないうちに風弾が空に上がったことを確認して、私が空に光弾を打ち上げた。水路の先から水が流れてくる音が聞こえてきたため、貯水塔下の魔道具も開放して貯水槽に水を送る。カレンが、私のところまで戻ってきたので、一緒に館まで飛んで戻る。
「おぉ!早かったのぅ」
「エレンが素早くみんなに知らせてくれたおかげだよ。ありがとう」
「それほどでもあるのじゃ!」
胸を張って、いるエレンの頭をなでていると、ストルネ殿とプルーナさんがやってきた。若干プルーナさんが物欲しそうな目で私を見ていたのが気になるけれど・・・。
「アルフレッド殿。首尾はいかがか」
「滞りなく。もう受水槽には水が到達しているはずです」
「そうですか!では、外にある水管を開いてみてくだされ」
「はい!」
「それでは・・・いきますよ!」
「───────あれ?」
その場にいた誰かが発したであろう疑問の声がであがったが、ごうという音とともにかき消された。水管からはすごい勢いで水が出てきてしまったからだ。それはそうだ。カレンが4段階目まで開放した魔道具の力に加え、私も水勢に不安を感じて魔道具の力を5段階すべて開放してしまったためだ。合計5の力で水が出るようにしたのに、9の力をかければそれはすごい勢いになってしまうのは火を見るより明らかであった。そんな失敗の中でも、設備に一つも被害が出なかったのは、白狼石のおかげか・・・。ただ一つ言えることは、水に濡れながらもみんなの笑い声が丘中に響き渡ったことだけであった。
館の工事。これにて終了です!