領主の館 ③
「さぁ!小休止も終わりだ!今日中にできるところまで終わらせようぞ!」
「「おおーー!」」
ストルネ殿のかけ声とともに、作業が開始された。日没まであと1刻と半・・・。日が暮れれば足下が覚束なくなり、転落などの危険が増大する。それまでにできるところまで・・・って・・・あと壁を作るだけなんじゃ・・・。
「ストルネ殿・・・あとは壁だけかと思うのですが・・・」
「いえ!それは違いますぞ!内装も含めての館の建設です。時にはご助力願う場合もございますが、我々でできるところは全て・・・外観から内装まで行いますぞ。そこまでせねば───」
「恩が返せないって!アルくんも提督の気持ち分かってあげて?」
「あっうん・・・なんかストルネ殿が形容しがたい体勢でさめざめと泣いているけれど・・・」
「気にしない気にしない!それでさ・・・相談なんだけど・・・水路と繋げたときに館内の水利もよくしたいんだけど・・・」
「そうしたら・・・この間の敲き土で細い管を作れば・・・」
「いやぁ・・・2階にも引き込みたいんだよね・・・それと下水にも繋げられるようにしたいんだ。まだ骨組みだから間に合うと思って・・・」
「うぅん・・・柔らかくて丈夫って言うことだよね・・・土よりかは金属・・・希白金はどう?」
「・・・貴重すぎない?」
「皆さんが頑張ってるから・・・それに応えるためにね。それに・・・多分だけどこの島でも採れる気がするし。まぁ・・・持っている分全て使うわけじゃないから。鋳型を造って流して固めて取り出して・・・軟質化の魔法で曲げたら硬質化の魔法で固定、定期検査も殆ど不要で錆びない・・・。うん。多分大丈夫」
「・・・なんか・・・もっと皆が張り切りそうだよ」
「そうしたら・・・外壁より庭とか塀、門扉の方を頼まなきゃ!」
「───!そうだね!止めないとできなくなっちゃう!」
「急ごう!」
プルーナさんの考えを聞いて、急いで梁の上で指揮を執るストルネ殿に呼びかける。
「ストルネ殿!」
「────!どうされました?っと上からものを言っては申し訳ない。少しお待ちくだされ」
そう言ってストルネ殿は、梁の上から地面に降り立つ・・・2階の床にあたる部分から飛び降りて砂埃上げずに着地とは恐れ入る・・・。本当に普人族なのだろうか。
「・・・?それで?何か問題でも起こりましたかな?」
「──────と言う訳なのですよ。なので、塀や門扉の方に取りかかっていただければと」
「ほぅ!それはよい!後々のことを考える。素晴らしいことだぞプルーナ!」
「えへへ・・・」
プルーナさんを褒めながら頭をワシワシとなでるストルネ殿。宛ら孫娘と祖父のような関係だ・・・。
「んんっ」
「おっと・・・失礼した。そう言うことなら塀や門扉に取りかかります。皆のもの!館本体の工事は一時中断!塀と門扉の構築にかかるぞ!」
「「はっ!お任せください!」」
「では・・・大変厚かましいのは重々承知なのですが、アルフレッド殿に一つお願いが・・・」
「なんでしょう?」
「希黒鉄で麦の茎のような棒鋼を造っていただけませぬか?」
「可能ですが・・・ちなみに何に使うのですか?」
「塀を強化するためにですね。白狼石に棒鋼を入れることによって、倒壊などの危険性を低下させることができるので。ただ、この島には鉄がなく・・・希黒鉄を用いて代用しようと考えたのです」
「なるほど・・・では、私の魔法で粘土も創り出しておきますね。白狼石の接着に必要だと思うので」
「それは!とても助かります!色々と要求してしまい、申し訳ない・・・」
「いえ!建物を一から造る・・・それも参加までできると言うのはとても楽しいので、お気になさらず。大体の太さと、必要とする本数はどのくらい必要ですか?」
「そうですな・・・長さ40糎。高さ20糎の白狼石を使うので・・・高さを2米にするので・・・太さは4糎で。本数は・・・組み上げの際に2本棒鋼を入れて補強すると考えると・・・不測の事態も考えて、6400本ほど造っていただきたいのですが・・・」
「───多いですね・・・」
「カンネが言うには、白狼石を間隔を開けて柱のように積み上げ、塀を支えると言う方法だけでも可能とのことなのですが・・・強度的には心配があると。なので、棒鋼を入れたいとのことです」
「うぅん・・・今手元にある分で造るとなると4000本が限界かなぁ・・・あっでも、太さもあるから2000本が限界かもですね」
「明日もお造りいただけるので?」
「ええ。帰って倉庫を確認してからになりますが、足りると思うので・・・造りますよ!」
「おぉ!助かります!では早速カンネに伝えてまいります。御前失礼致します」
「そんなに畏まらなく・・・行っちゃった」
「アルくん大丈夫?」
「あぁ・・・うん。大丈夫。プルーナさん。お願いがあるのだけれど」
「なぁに?」
「カレンとエレンを呼んできてもらえるかな。夕食作りで忙しいのは承知の上で」
「わかった!呼んでくるね!」
ストルネ殿はカンネさんのところへ。プルーナさんは2人のところへそれぞれ移動していった。私もやるべき事を成すため、腕輪型簡易倉庫から希黒鉄を取り出して、棒鋼を造り上げていく・・・ストルネ殿が具体的な形を分かり易く伝えてくれたため、創造に時間はかからなかった。ただ希黒鉄製のため、非常に重く仕上がってしまった。
「アルくん!2人を呼んできたよ!」
「ありがとう!カレン。早速で悪いのだけれど、倉庫に希黒鉄の在庫はあるかな?」
「確か・・・まだ大分余裕がありますが・・・ん?これは?希黒鉄で造られたのですか?」
「うん。塀の倒壊を防ぐための棒鋼。鉄がないから希黒鉄で造ったんだ」
「なるほど。確かに希黒鉄が必要なことが分かります。在庫を調べてまいりますので、少々お待ちください」
「助かるよ。いつもありがとう」
そう言うとカレンは、軽くお辞儀をして丘を降っていった。・・・道路のおかげか、何時もより数段早く走っている気がする・・・。
「してアルよ。儂も呼ばれたのじゃが・・・これに重力魔法をかけて軽くすれば良いのじゃな?」
「うん!察しが良くて助かるよ」
「ほむ!もっと褒めても良いのだぞ!」
「はは!いつもありがとう」
「むふふ」
「・・・アルくん!アタシは提督達を呼んでくるね!」
「うん!お願い!あっ・・・粘土も造らないと・・・」
棒鋼と粘土を準備し終わったと同時にストルネ殿達がやってきて、塀の工事を始めた。先ずは道路に面した門扉周辺から二手に分かれる形で工事を始めて行くとのことだ。資材を予定地に運び始めたところでカレンが戻ってきて、希黒鉄の在庫に問題か無いことを話してくれ、ストルネ殿とカンネさんに伝えると、大喜びで作業を進めて行ったが、陽が海に沈んだため、この日の工事はここで終了となった。
「皆様、本日はお疲れ様でした。細やかながら、アルフレッド様より夕食の提供がございますので、お持ち帰りいただきご自宅でお召し上がりいただければと存じます」
カレンとエレンが調理してくれた夕食は、1人1人に配られていった。中身は、馬鈴薯でできた丸パンに、魚介で出汁をとった身入りの汁物。それに焼き魚。全てのモノに保温の魔法がかけられていたため、皆笑顔で受け取って帰宅していった。きめ細やかな気配りをしてくれた2人にはあとでお礼をしないとね。