前へ次へ  更新
60/199

領主の館 ①

手紙が届いた明くる日、私は仮住まいの今で2人と立太子の儀について話していたその折、扉を叩く音がし、カレンが開けるとストルネ殿が来訪したと言うことで、一端話を終えて彼を招き入れた。


「────そうですか。一時滞在が認められたのですね」


「はい。正式に国王陛下から認められました。この島に暮らす全員分の証書も作成中とのことです。早ければ来月の初旬。何か起きたとしても再来月には必ずお手元に届くはずです」


「そう・・・ですか。良かった・・・」


そう言って安堵した様子で深く頷くストルネ殿。やはり心の何処かでは不安に思っていたのだろう・・・。カレンには頭が上がらないな・・・。


「ところでストルネ殿。何かご用件がお有りでは?」


「おぉ!そうでした!そうでした!アルフレッド殿」


「はい。」 


「そろそろ・・・館を持ちませぬか?」


「・・・というと?」


「港の工事に関しては、次の大潮を待たなければなりませんので、現状は工事が止まっておるのはご存じのはず」


「ええ。それは勿論。それと何の関係が?」


「これを機に、皆がアルフレッド殿に恩返しがしたいと。以前にも申しましたが、貴方様には返しきれない恩があります。そのご恩を少しでも返したく・・・」


「えっ・・・しっしかし・・・」


「言わんとしていることは分かります。ですが、不法滞在者であった我々を、使い潰すのではなく、食と住の保障。そしてなにより、我らを還すために動いてくださっている・・・これに報いぬ訳にはまいりませぬ。どうか皆の気持ちを受け取ってはくださらぬか」


「・・・分かりました。皆さんのお気持ちしかとお受けいたします」


「おぉ!良かった・・・。して、場所などのご希望は?」


「では──────」













「おぉ!この地に建てるのか!」


「風が気持ちいいです」


私が希望したのは、港町を最初に見た丘の上であった。街と海が一望できる場所。そして何より────。


「ねぇねぇアルくん。こんな丘の上で良いの?」


「ん?」


「だってさ・・・色々と不便じゃない?街からも少し距離があるしさ・・・」


「まぁね・・・でもさ・・・あの街が拡がると、大きな館を壊したり移したりと色々と手間じゃない?それよりもさ・・・この丘の麓・・・うぅうん。この丘の上まで街が拡がる未来を考えるとワクワクしない?この丘の上の館から街を見ると、人々の生活や拡がる街の様子・・・。災害にだって気付くことができる。まぁ私達の移動は、転移陣を置くようにするからそれで解決だよ」


「おぉ・・・流石は森人族・・・。でも確かに、街がここまで拡がるって考えるのは楽しいかも!」


「考えるだけじゃない・・・ここまで必ず拡げてみせるよ!」


「そっか・・・アルくんはもう未来を思い描いているんだね・・・」


「うん。この島を。この地域を発展させないといけないからね」


「そっか・・・」


そう返事をしたプルーナさんは、建設用の資材の様子を見てくると言って去ってしまった。


「なんじゃ?プルーナのヤツ・・・少し気分でも悪いのかのぅ」


「あっ!エレン。・・・何か考え込んではいたみたいだけど・・・。まぁあっちにはストルネ殿が居るからね。気付いて声はかけてくれると思うよ」


「ふむ・・・なら良いが・・・」


「あまり、彼女に深入りはしない方が良いかと」


「「カレン!」」 


「彼女も何やら自分の答えを探し求めている様子ですので・・・今はそっとしておきましょう」


「うん」「うむ・・・」


「あっ!そうだ!単刀直入に聞くけれど、ここはどう?住みやすそう?」


「ふむ・・・街へは遠いが、それは我らの魔法を駆使すれば何ら問題ないじゃろう」


「私にとっても良い運動となりますので、異論はございません。ただ・・・」


「ただ?」


「水利の問題がありますね」


「うぅん・・・そうだよね・・・。それに関しては、下水整備と同時に行うから少しの間待ってて欲しいかな・・・。暫くは水魔法で代用かなぁ」


「そうですね・・・水魔法は水分は摂れるのですが、何だか味気なくて・・・」


「うん・・・。皆さんに余裕ができたら早急に生活基盤を街と同時に整えよう」


2人と館ができたあとのことを話し合っていると、ストルネ殿とプルーナさんがやってきた。


「アルフレッド殿!少々問題が・・・資材の運搬に関してなのですが・・・」


「あぁ・・・この辺りは道路が通っていないですね・・・」


「そうなのです。少し運搬に時間がかかっておりまして・・・」


「うぅん・・・道路も作っちゃいますか!」


「人も沢山おりますし、やってしまいましょう!」


「さんちゃん」


『「キイテイタノデ ダイジョウブデスヨ スデニ ドウロエンチョウニカンシテ サギョウガメンヲキドウシテオリマス」』


「助かるよ!そうすると・・・港からの一本道と街門から横道に逸れて、この丘に通じる道を整備っと・・・」


「ストルネ殿」


「委細承知!皆と道路整備をしてまいりますぞ!」


「お願いします」


意気揚々と道路作りへと向かった皆さん。これは・・・館工事の前に腹拵えが必要かなぁ・・・


「カレン・・・」


「問題なく。エレン、プルーナ様。手伝いをお願いできますか」


「うむ」「うん!」


「では、暫く失礼致します」


「ごめんね。お願いするね」


昼食の準備のため、3人も丘を降りていった。その時、さんちゃんが私に話しかけてきた。


『「アルフレッドサマ ヤカタヲ タテルトイウコトデスガ ボーナスタテモノ トイウモノガアリマス」』


「ぼーなす?建物?」


『「ハイ トクテイノ ジンコウヤ コトガラ ナドガ オキタサイニ タテラレルモノデス コンカイハ アルフレッドサマノ ヤカタ ガ ガイトウシマス ソクジケンセツト ユウチケンセツ ガエラベマスガ」』


「勿論、誘致建設で」


『「ナゼデスカ」』


「だってさ、これだけ皆さんが私のために動いてくださるのに、居ない間にできましたって・・・なんだか、親切心を踏みにじって仕舞う形になるし・・・なにより、できていく過程を見られないと言うのが残念というか何というか・・・だから、せめて皆さんの負担にならないように、誘致でお願い」


『「 カシコマリマシタ」』


少し広めの庭と、2階建ての館を作ってもらえればそれで満足。私のためにって言うのは嬉しいけれど、なんだか面映(おもは)ゆいな・・・

前へ次へ目次  更新