工事開始
「ストルネ殿」
「アルフレッド殿!資材の方は大丈夫なのですか?」
「ええ。初回の目的量に達しているので、あとは都度供給するだけです。こちらは・・・順調ではないですね・・・」
「ご覧の有様です・・・。足を踏み入れれば沈み込んで身動きが取れなくなり、足場のために石を置くと沈み・・・作業が遅々として進まんのですよ・・・」
「流石に支持層は浅く位置していなかったか・・・これは・・・硬化の魔法かなぁ」
「申し訳ないアルフレッド殿」
「なんのなんの!見立てを誤ったのは、私の方ですから。それで・・・完全な干潮まであとどの位ですか?」
「・・・あと1刻半かと」
「わかりました。では、皆さんに海から上がるよう伝えてください。私が合図をしたら、足場と固定用の石材を並べ、木板を建てていってください。今回の工事は、500米四方ですからさほど魔力は使いません。ただ、時間との勝負なので」
「畏まった!皆の者!海から上がり、合図を待て!」
その言葉を聞いて、空までふわりと上がり港全体が見える位置に留まる。
『「アルフレッドサマノマホウデアレバ ヨウイニ カタガツクノデハナイデスカ」』
「うぅん・・・確かに早いんだけどさ・・・でも、自分たちで達成した方が、団結力も上がるし・・・なにより楽しいじゃない?」
『「タノシイ」』
「うん。皆で声を掛け合いながら、一つのモノを作り上げる・・・。元が家族みたいな海兵さん達だからかもしれないけどさ・・・団結力は高い。でも、普段は違う部署ごとで働いている。同じ場所で一塊になって、しかも何の気兼ねなく作業ができるし、完成していく様子も目で分かる。行き着く先が見えるって言うのはさ、希望が持てるじゃない?人って言うのはさ、小さな希望でもあるだけで前に進めるんだ。頑張ろうっていう気力が湧くものなんだ」
『「ソウイウモノナンデスカネ」』
「そう!だから私は手助けだけをするんだ。勿論、作業にも参加するけどね」
そういって、予定範囲の地盤を強固にする土魔法を展開。埠頭予定地に関しては、深く石材を埋めるて支持層に届かせるから心配は要らない。目下、水を堰き止めるための木板を固定するために使うだけだ。堰は工事にともなって、沖へ沖へと前進していく。都度地盤への土魔法を解いたりかけたりしながら。
「さぁ!木板を建てる作業を始めましょう!」
合図の花火を魔法で打ち上げると、眼下で一斉に作業が始まった。素早く動く様は、本当に凄い。区域内と区域外での動き方の差が顕著だ。
おっと!上から眺めてたら皆さんに悪い・・・
「っと」
「お見事ですアルフレッド殿」
「作業の進捗状況は如何です?」
「半分ほど終わりましたでしょうか。これなら間に合います」
「良かった・・・何とかなって」
「このままですと・・・木板が波に負けてしまうと思うのですが・・・」
「なので、大量の石材を必要としたのですよ」
「・・・?」
「木は水分を吸うと少し膨張しますね」
「はい。それは存じております」
「その板には勿論硬質化の魔法をかけるわけですが・・・それだけでは水の力には勝てない。なので、水門の沖側に石材を不規則に並べ、消波の役目を果たしてもらうのです」
「なるほど!我が国の港でも、港を囲む防波堤の沖側には設置されておりましたな・・・」
「はい。このあとの浚渫を行うために重要な役割を果たすので・・・一番の守りを固めないと」
「しかし・・・何故木製なのです?石製でも良かったのでは?」
「うぅん・・・考えたのですけど・・・あっそこもう少し左にずらさないと駄目ですよ!・・・何でしたっけ・・・あっそうそう!沖に沖にと工事範囲を拡げていくので、分解し、再利用しやすい木材を選びました」
「なるほど」
「それに・・・魔法もかけやすいですから」
石に魔法をかけることは難しくはない。ただ、自身の魔力の親和性を考えると、石よりも木の方が遙かに強固になる。と思う。森人族だからなのであろう木材以外に魔法をかけたことがないため、人命を守るという観点からも安全な方にしてみた。石工族となると逆なのだろうけれど・・・。
「─────あい分かった。・・・アルフレッド殿。工事完了です」
「では、硬質化させますので、門から手を離して待っていてください」
そう言うと、ストルネ殿が合図をし、皆が一斉に門から離れた。・・・そこまで離れなくても良いんだけどな・・・。
門は、これから浚渫を行う海底を0とすると6米程の高さにまで高くなっていた。これなら満潮になっても越水はしないだろう・・・。その前に作業は終わるけれど・・・。
「はい。終わりました」
「少してが光っただけで・・・」
「試しに叩いてみます?」
そう言って、私はストルネ殿に希黒鉄でできた槌を手渡した。
「思い切り叩いてみてください」
「・・・宜しいのですか?」
「ぜひ!」
そう言うと、槌を片手にひょいと支持岩に飛び乗り、一呼吸置いて槌を振りかぶるストルネ殿。身のこなしが軽い!まだまだ現役なんだなぁ・・・。
「ふうぅん!!」
途轍もなく大きく鈍い音が港中に響いた。あまりの音に耳を塞ぐほどに。それでも凜然と佇む門に皆は安堵の溜息をもらした。それと同時に、安心感が与えられたようで、若干不安に思っていたであろう人々の顔も明るくなっていた。
「───この歳でここまで強固なものと相対するとは・・・いやぁ世界は広い!」
「・・・腕は、自分で言うのもなんですが・・・大丈夫ですか?」
「なんのなんの!皆に希望を与えるならこれ位安い出費ですぞ」
「痛いんじゃないですか!見せてください!」
そう言ってストルネ殿の腕を診ると、両腕とも赤紫色に腫れ上がっていた。慌てて治癒魔法をかけると食い縛っていた口元が緩んだ。相当痛かったのだろう・・・。治療後に無理をしないよう諭すと、笑いながら視線をそらされた。
「まったく・・・槌を勢いで渡した私も悪いのですけど・・・なにも本気で叩かなくても・・・」
「希少な道具。見た目は木だが、硬いと言われる素材。そして優秀な治癒魔法士がいれば、全力で叩かないのは、儂の名が廃るというものですよ!はっはっは!さぁ皆の者!この号砲とともに浚渫の開始だぁ!」
そうストルネ殿が叫ぶと、立てかけていた槌をつかみ取り、思い切り水門を叩いた。鈍い音が鳴り響くと同時に、浚渫の作業が開始された・・・。
「まったく!なんでこう無茶をするんですかねぇ!」
「いやはや・・・面目次第も無い。しかし、久々の全力は気持ちが良い!」
「・・・治すこちらの身にもなってくださいね!」
はっはっはと右の頬を掻くストルネ殿。全く反省していないな・・・あとでプルーナさんに伝えないと・・・。
「───お話し中失礼致します!浚渫によって発生した土砂は・・・」
「あぁ!伝えていませんでした!少しお待ちください。準備ができましたらお声がけしますね。ストルネ殿、失礼します」
「畏まった。では指示があるまで─────」
「カレーン!」
「はい。ただいまこちらに」
「うん。素早くて助かる。カレンの倉庫内の墨には余裕ある?」
「少々お待ちを・・・。こちらになります」
「うぅん・・・微妙だけど・・・何とかなるかな。一寸借りるね。それじゃぁ・・・ここに平らな土板を創造してっと・・・必要なのは〖解〗〖抽〗〖離〗〖乾〗〖凝〗でいいかな・・・」
「塩分はどうされますか?」
「うぅん・・・今のところまだ製塩ができない分、貴重だから・・・取り出したいよね」
「では・・・土を釜で煮ますか?」
「うぅん・・・あぁ!じゃぁ・・・もう一枚土板を創ってっと・・・こっちには〖塩〗〖離〗と書いて、分けられた土を更に先に書いた土板に置いて、行程を2つに分けよう」
「それが宜しいかと」
「ストルネ殿ぉ!じゅんびができましたぁ!こちらに土を運んでくださぁい!」
「こころえましたぞぉ!」
声が聞こえたと思うと、凄い勢いで土が運ばれてくる。止まるよう声をかける前に、運んできた皆さんが綺麗な縦列をつくって土板の前で停止した。
「ご指示を」
「では最初に、〖塩〗〖離〗と描かれた板の上に土を。塩との分離が終わった土から隣の土板に移していただき、乾燥して固まった土を今度は資材置き場に運んでください。敲き土の基材とします。なので・・・何名かは敲き土の制作に入っていただければと思います。敲き土ができたら、埠頭予定箇所に石材と交互に使用して下さい。あとは、誘致地で理解と行動ができるかと思います」
「「ははっ!」」
指示をすると、素早く班を組み直して行動をするストルネ殿旗下。訓練が行き届いているのと同時に素晴らしい連帯感。こうして満潮を待たずに、浚渫と埠頭延長の第一段階が完了した。