港工事~着工~
「あっと!ストルネ殿。一寸待ってくださいね」
「如何されました?」
「荷車を作ってもらっていましたので、その確認と・・・カレンが昼食を作っていますので、皆さんを呼び戻していただけますか」
「承りました。しかし・・・30粁程先の者達を呼び戻すには少々時間が・・・」
「曲がりくねった場所もありますが、移動速度が速くなるようにはなっていますので、そこまで心配は要らないと思います」
「分かりました。では、人を出してきますので───」
「私は荷車の方を確認し、カレンに声をかけてきますね」
そう言って私とストルネ殿は二手に分かれた。道路に関しては、直線で採石場と港を結ぼうと思ったけど・・・さんちゃんが“技術者と道具がたりない”なんて言うから諦めて、山道を蛇行しながら上り下りする道路となってしまった・・・。今後の課題だね──────。
「カレン!準備はできた?」
「はい。アルフレッド様。」
「おぉ!これは凄いね・・・」
「皆様に振る舞うとなると、使える素材は自ずと限られてしまいますが・・・。お褒めいただき光栄です」
「でも、このパンのように見える・・・と言うより、もうパンにしか見えないけれど」
「こちらは、馬鈴薯を一度粉末にして練り上げて焼いた物になります。そこに馬鈴薯を潰し、胡瓜を混ぜ込み、塩で味を付けたモノを挟みました。もう一つは、魚のほぐし身を挟んだものですね。それと付け合わせに、塩で簡単に味を付けた青椒炒めをお作りいたしました。皆様が喜んでくだされば良いのですが・・・」
「これは絶対に喜ばれるよ!すごいよこれは!人数分以上あるし・・・短時間でここまで。本当にありがとう」
「勿体なきお言葉でございます」
「さぁ!皆さんに食べてもらおう」
「はい」
「アルフレッド殿!皆戻りましてございます。いやぁあの道は素早く移動ができる・・・昨日ここまで来た労力の半分以下で戻ってくることができるとは恐れ入りました」
「ストルネ殿!道を整備して良かったでしょう?それにしても丁度良かった!カレンが皆さんの昼食を準備してくれたから、早速食べましょう!」
「こちらは・・・見るからにパンなのですが・・・小麦は一体何処から・・・」
「いえ。ストルネ様。こちらは馬鈴薯の粉で作りましたパン擬きになります」
「なんと!このようなことが・・・」
「馬鈴薯には様々な使い方がありますので、この様な加工も可能となります。ただ、小麦のような香や風味には及ばないと思うのですが・・・」
「いえっ!ここまで見事に再現されているので・・・パンなど久しく食べてはおらなんだ・・・」
「積もる話はあると思いますが、早速食べましょう。ストルネ殿。皆さんにもお声がけを」
「はっ!そうでしたな!───皆の者!昼食じゃ!カレン殿にお作りいただいた!カレン殿に感謝して食すのだ!」
「「感謝を!」」
「なんだか・・・むず痒いですね・・・大勢の方に感謝されるというのは」
「はは。これから増えていくことだと思うから・・・。これだけの準備、本当にありがとう。私からも感謝を」
「───はい」
食事は大盛況。片手で食べられると言うこと以上に、パンを食べることができるという喜びに溢れていた。ある者は泣き、またある者はカレンに作り方を聞き、大切に包んで持ち帰る者までいた。慌ててカレンが持ち帰りようも準備する事態となり、私も少なからず手伝いをした。力の要る作業であったり、焼き加減を気にしたりと工程も多く、発酵がなくとも手間がかかったそれは、本当にカレンに感謝しかなかった。一通り食べ終わると、口々にカレンを褒める言葉が直接彼女にかけられ、赤い顔をしながらずっとむず痒くしている彼女の姿が何だか愛おしかった。
「さぁ!荷車もできました!今度は港用の採石を開始しましょう!」
「「おぉ!」」
「港用にはかなりの量が必要です。先に置き場を確保してきますので、ストルネ殿は怪我ないよう皆さんの指揮監督をお願いします」
「心得ました」
「じゃぁカレン。行こうか」
「畏まりました」
そう言って、ストルネ殿に現場を任せた私達は、作りたての道路を使って港まで降っていった。
「さんちゃん。ここの位置に資材置き場を作ると、資材供給は出来そう?」
『「ココダト スコシハンイガイ ニナリマスノデ モウ ニヒャクメートル ヒガシ ニズラシテクダサイ」』
「・・・ここで大丈夫?」
『「ハイ ダイジョウブデス コンカイハ ショウキボノシザイオキバ デ ヨロシイデスカ」』
「うぅん・・・今後のことを考えるともう少し大きい方が・・・今回は露地式で今後は建屋にできるくらいには大きめにとりたいな」
『「ココデスト ヒロサガ タリマセンネ」』
「そうかぁ・・・じゃぁ露地式の中規模を設定してっと」
『「カシコマリマシタ」』
「あとは・・・港・・・あぁ!この辺りの道も整備しないと・・・」
「この資材置き場から石材の供給が可能になるので、焦らずとも大丈夫なのではないですか?」
「・・・それもそうだね。この資材置き場を道路の終端に持ってきて正解だった・・・ありがとうカレン」
「いえ」
「そうしたら・・・港も誘致して・・・およ?」
『「スデニミナトガアリマスノデ コンカイハ カイシュウ ト カクチョウニナリマスノデ ソチラヲタップシテクダサイ」』
「こう?」
『「ハイ ソウシマシタラ イツモノヨウニ ハンイヲ キメテクダサイ」』
「ふむふむ・・・こうだね。おっ!?」
港の改修と拡張の設定を行うと、指定範囲が緑色に変わった。さんちゃんに聞くと、資材供給範囲内に入っているという証拠だそうな。
「おっ?アルにカレンではないか!」
「あぁ!エレン!散歩?丁度良かった。お遣い頼まれてくれない?」
「ふむ・・・夜の甘味を一皿増やしてくれれば」
「エレン・・・貴女・・・」
「良いよ!そうしたらさ、この道の先で作られた荷車を製材所に5台ほど持っていって、3米四方の板を製材して、この紺色の資材置き場に運ぶように伝えてくれる?」
「・・・意外にやることが多いのじゃ・・・しかし・・・契約してしもうたからのぅ。仕方がないやっておくのじゃ。運んだ木の板は上に何か掛けるかのぅ?」
「すぐに使うから大丈夫!それに水門にするから、雨が降ったとしても問題ないからね」
「分かったのじゃ・・・うおっ!なんじゃこの道は!・・・しかも白狼石ではないか!何と贅沢な・・・はやくあるけるのじゃぁぁぁ・・・」
「道路の効果は絶大なのですね」
「・・・あそこまで速く歩けるとは・・・私も驚きだよ」
「石材はここで宜しいので?」
「はい!ここに置いてください。あっ木の板もこちらに」
エレンのお陰で、木の板も石材も揃ってきた。石材はあと数往復で貯まるかな。潮が引いている今のうちに水門を作ってしまおう。
「ストルネ殿。何名かで水門を作っていただきたいのですが」
「承りました。では、向かいます」
「あれ?ストルネ殿。水門の方は・・・」
「板を固定するのに石材が必要とのことで取りに来たのです。大分貯まりましたな」
「えぇ。次で最後です───おっ!来た来た!それでは、ストルネ殿。続きをお願いします」
「畏まった!」
ストルネ殿って・・・血が滾るのか、作業中は普段よりも張り切りが違うなぁ。
水門ができれば、潮が満ちても排水作業に手を煩わされずに済むね。
漸く、基礎の改修だ!