生態系
「ふぅ・・・」
「それで・・・この辺りに魔物が棲息していないというのは・・・」
ストルネ殿は、随行員の皆さんに休むよう声をかけ、私達の小屋へとやってきた。あまり大仰な話しではないんだけれど・・・まぁいっか。
「ストルネ殿。先に訂正を。この辺りではなく、この島に魔物及び動物は一切棲息しておりません」
「・・・!?ここまで緑溢れる島・・・なのにですか?」
「ええ。いません・・・ね」
「それはどうして」
「いやぁ・・・少し誤解といいますか・・・早とちりと言いますか・・・。端的に言うと、この島の生き物を一切滅ぼしてしまったのですよ」
「「───!」」
「ちょっ!カレン!紅茶が器から溢れてるよ!」
「あっあぁ!失礼致しました!」
「もう・・・“時間遡行”」
「申し訳ありません。アルフレッド様」
「おぉ・・・元通りに・・・。その魔法を使えば・・・あっいやっ。命は禁忌でしたな。これは失礼」
「カレン。次は気をつけてね?ストルネ殿。確かに生命を魔法で操作することは禁忌です。もし実行しようとしても・・・時間が経ちすぎていますよ」
「時間・・・。ですが、アルフレッド殿程の力があれば・・・」
「それでも。ですよ。戒めのためと言うこともありますが、時間が解決するとも考えてしまっていた・・・あの時は幼かったですから」
「いやはや。まだまだ、アルフレッド殿はお若いでしょう」
「いえ。ストルネ殿より大分年上ですよ」
「またまた・・・ご冗談を」
「「・・・」」
「───本当に・・・?」
「「コクコク」」
「────俄には信じられませんが・・・。カレン殿が首を縦に振ると言うことは・・・」
「えっ!私の事信じてない!?」
「はっはっは。少々揶揄いが過ぎましたな。何となくその様な気は致しておりましたのでな。況してや森人族。長命な方であることは自明の理です。それで・・・お幾つなのですかな?」
「今年で2300です。まぁ森人族の中では若僧ですよ」
「ほっ・・・ほぅ・・・。っと言うことはですよ・・・貴方様があの・・・」
「誰を指しているかは存じませんが・・・黒の勇者様が書き残された文献をお読みになったことがあるのであれば・・・」
「───そうでしたか・・・。我々を・・・人類を・・・。そうでしたか。貴方様が」
「もっもぅやめません?背中がむず痒くて・・・」
「はっは。英雄殿も形無しですな。───ところで話しは戻りますが、この島に起きたこととは」
「それは・・・」
「それは?」
「私の魔法実験と勘違いによるものです」
「へ?」
「私が人魔大戦に参戦する・・・と言うよりも、まだ何もわだかまりがなかった時、この島で私自身の魔力量の調査を兼ねた魔法実験を行っていました」
「「・・・」」
「当時はまだこの島は、高い木が生えていない。それこそ火山活動が落ち着き、土だけの小さな無人島でした。周囲には何もない絶海の孤島。この地で魔力量の底を知るために、島自体を改造していったのです」
「・・・お待ちくだされ!この島・・・ライラック島は、アルフレッド殿の魔力によってできた島なのですか!?」
「大元はそうです」
「「・・・?」」
「父上や母上、家庭教師達に教えてもらった魔法を使いたくて使いたくて・・・沢山の魔法を放ったのです。それこそ隕石堕としまで・・・」
「「───!」」
「しかしそれがいけなかった・・・。何発かのうちの一つが、海底火山を目覚めさせ噴火させてしまった・・・。その影響でできたのが」
「「ライラック山」」
「───その通り。幼い私は怖くなり、文字通り慌てて飛んで帰りました。そして・・・父上と母上にこってりと絞られました・・・。全て王都からも見えていたそうです」
「「(・・・叱られて当然)」」
「この山につられて、たちどころに周囲の火山も噴火し、群島があるこの海域が生まれました」
「なるほど・・・では・・・もとから生き物は居なかったではありませんか」
「いえ・・・。生命魔法を試したく・・・好奇心に勝てない私は、次々に木を植えて行きました。それにより、緑溢れる島々になったのです」
「島ごとに・・・ですか?」
「いえ。最初は一本ずつ丁寧に生やしていたのですが、途中からは空にのぼり、まとめて生やしました。その光景を見ていた聖女神教の者達が、私を神と勘違いをして、この島の奥地に祠を建て、その門前街としてあの港周辺の建物群を建築していったのです」
「なるほど・・・ん?でも、山が信仰対象と・・・」
「私が山陰に降りていったように見えたのでしょう・・・実際は、魔法の及ばなかった違う島の方へと向かっただけなのですけどね。─────その後、鳥やら小、中型の動物。それを追うように大型の動物が島伝いにやってきました。当時は今よりも干満の差が激しく、干潮時には陸続きになっていたことも要因です」
「「・・・」」
「暫くは、信徒も動物たちも互いの生存圏を脅かすことなく平和に暮らしていました。しかし・・・」
「動物たちの魔物化が始まった」
「そうなのです。しかしながら、この島はとても広い。共存は可能だった筈なのですが・・・。私が久々に降り立った時に、魔獣に襲われる寸前の少女がいたのです。そして・・・私は間違いを犯した」
「「・・・」」
「今考えれば、多少魔力で威嚇して退かせれば良かったのに、あろうことか滅却の魔法をこの島の人の姿をした生き物以外全体にかけてしまった・・・。それこそ植物にまで影響が出ました」
「「・・・」」
「信徒達は災厄の前触れだと騒ぎ、皆こぞってこの島から脱出していきました」
「・・・後ろにいた少女は」
「消えていたのです。灰になって」
「むっ・・・」
「私は後悔しました。それこそもう魔法は使いたくないと思うくらいに。しかし、緑まで失ったのはあまりにも辛く、木々を生やしてこの島を去りました。せめてもの償いとして」
「「・・・」」
「折しも人魔大戦が始まり、環境の変化も起き、干潮時でも島は地続きにはならなくなった。そのことが分かったのは、ずいぶん後になってからですが・・・」
「それで・・・」
「一縷の望みは抱いていたのです。また、生き物が棲む豊かな島になっているだろうと。しかし結果は違った・・・」
「どうしてそれを?」
「島である言葉を聞いたからです。“獣肉を食べたい”と。・・・やはりこの島には動物が戻ってはこなかった。と衝撃を受けましたよ」
「「・・・」」
「だからこそもう一度、この島を生命溢れる島にしたいのです。勿論・・・家畜等になってはしまいますが・・・。海を渡れる鳥たちが休める場所としても発展させていきたいと考えています。その為にも、祠に設置した私の魔道具の回収も行わなければならないのですがね」
「───魔道具ですか」
「ええ。少し細工を施した物があります。っとまぁその前に、皆さんを母国に無事還すという大仕事が待っていますが」
「・・・」
「どうしました?」
「いえ。アルフレッド殿の歴史の一端に触れたので少々感慨深くなってしまいました」
「あはは!大袈裟だなぁ。でもだからこそ、私は“活気”と言うものを大事にしています。生物が棲息することで、海や山が賑やかになるように、人が生活することで街が生きる・・・。私達が持つ生命力というものは、周りにある様々なモノによって支えられ、また、提供しています。明日からはこの島が持つ生命力の一つである岩をいただき、私達の生活の一部として活用させていただきましょう」
「ですな」
「さぁ。ストルネ殿。今晩はゆっくり休んで英気を養ってください」
そう言って、ストルネ殿と別れ自室へと向かった。その際、ずっと俯き加減で側を歩いていたカレンが気にかかった。
何時も、趣味や妄想全開の拙作をお読みいただきありがとうございます。
彼や是やと試行錯誤しながら書いております。今後とも温かく見守っていただければ幸いでございます。