前へ次へ
50/203

水路建設

「おはようございます」


開口一番の挨拶は、目の前に集まった工兵の方々に向けてのものだ。夜通し魔道具を創ったことが功を奏したのか、明け方にストルネ殿が人員が整ったことを教えてくれた。そのため今はこうして、皆さんの前で挨拶をしている・・・一寸眠いけれど・・・。


「こちらの3人が土と親和性の高い者達で、こちらの3人が建築設計を行った経験のある者達です」


「「「よろしくお願いいたします」」」


「こちらこそ。では手はず通り、私が前者の3名と。ストルネ殿が後者の3名とともに工事をお願いします。あっ!魔道具の方は予定地に置いてありますし、設置位置の可視化も行われますので、建屋も含めてお願いします。向こうにはカレンがいますので、何かありましたらカレンに伝えてください」


「・・・?畏まりました」


離れた位置にいるのに何故?と言う顔をしながらも予定地に向かっていった4人。さぁ!私も予定地に向かわないと。


「エレン。以前見つけてくれた滝の位置って?」


「ここからじゃと、大凡3粁ほど離れておる。そこに行くのじゃな」


「うん。案内を頼むね」


「任されたのじゃ!」



険しく未舗装の坂道を登っていくこと約2刻。流石は軍人と言った所か、誰一人息切れせず、予想よりも早く到着した。


「おぉ!火照った身体に丁度良い。・・・結構な流量だね。これはもう少し下ったところから工事かなぁ」


私は滝の前を軽く見渡し、川が緩やかな右曲線を描く基点の位置に取水口を設けることにした。


「─────アルフレッド様。1つ質問を宜しいでしょうか」


「はい。どうぞ」


「提督からは粘土を使うと聞いていたのですが・・・なんともうしますか・・・そのぉ」


「材料がない・・・と」


「・・・はい。不躾な質問、申し訳ありません」


「いえいえ!ストルネ殿にも伝え忘れていた私の落ち度ですので。お気になさらず。材料の粘土に関しては私が作り出しますので、その粘土を内径30糎、厚さ3糎。長さ10米ほどの筒に整えていって欲しいのです。」


「本数は・・・」


「取りあえず100本ほど。曲線の物も場合によっては作らなければなりませんので」


「畏まりました」


そう言って私は、粘土を魔法で作り出した。少し小山のようになってしまったそれは、工兵たちを驚かせるのには充分だったらしく・・・目を見張る姿が見られた。少し混乱している隙にプルーナさんにお願いをしよう。


「プルーナさん」


「なになに?」


「さんちゃんと話しながら作業をするので、工兵たちを監督してください」


「あいあいさー!」


陽気に返事をして、呆けている3人の所へ向かうプルーナさん。叱責の声が聞こえる・・・そんなに厳しくしたら・・・驚かせたことを反省して、エレナに誰か来ても退らせるようにお願いして、さんちゃんを取り出す。


『「トウジョウニ スコシ マ ガアリマシタネェ」』


「・・・?なんのこと?」


『「イエイエ コチラノハナシナノデ オキニナサラズ」』


「・・・。変なさんちゃん」


『「ソレデ ゴヨウケンハ」』


「そうそう!水路を造りたいんだけど・・・落ち葉とか埃とかで汚れるのが嫌だから・・・地中に埋めたいのだけど・・・どうにかなる?」


『「ソレデシタラ スイテキ ノマークニフレテイタダキ ツツ ノマークニフレテクダサイ」』


「ん・・・おぉ!?さんちゃんを通すと地面が半透明になった!・・・このうっすらと見える線は?」


『「センニカンシテハ ヒョウコウニナリマス イワユル トウコウセン トイウモノデスネ」』


「なるほど!水は高いところから低いところへと流れていく・・・だからこの等高線が必要になる訳か・・・」


『「ソノトオリデス デハ スイロヲキズキタイミチスジヲナゾッテクダサイ アカルイ アオ イロデヒョウジサレタバショニ スイロヲキズクコトガデキマス ハンタイニ アカ デヒョウジサレタバアイハ コウジフカ トナリマス」』


「明るい青は大丈夫。赤は駄目。うん!わかった」


さんちゃんからの指示を受けて、青い線を描いていく。製材所予定地までは大凡1粁。途中にあった岩は魔法で崩して退かす。しかし、標高の関係なのか曲がる箇所が複数有り、少々大回りになってしまった。さんちゃんをあまり多くの人に見られたくはないため、カレンにだけ聞こえるよう念魔法で声を飛ばした。


《カレン・・・聞こえる?》


《!?「はい!聞こえます」・・・馴れませんねこの魔法にだけは・・・》


《急にごめんね・・・そっちはどう?順調?》


《はい。あとは水路の接続待ちという段階です》


《おぉ!はやい!こちらは水路用の筒を作ってもらってて・・・予定路をさんちゃんと一緒に引いているから・・・》


《分かりました。早めの休憩と言うことで、現場からは離れていただきますね》


《うん。そうしてもらえると助かるよ。それじゃぁまた》


《はい。お気を付けて》


話が早くて助かるっと・・・着いた。けど・・・地下を通す分、水圧をかけないと駄目だなぁ・・・思った以上に曲線が多い。少し練り直しが必要だなぁ・・・。





「おっ!お帰りアル」


「ただいま。皆の様子は?」


「・・・見れば分かるのじゃ」


「・・・?」


エレンに言われて、滝近くの作業場に向かうと、3人の工兵が疲れ果てた様子で倒れ込んでいた。


「おっ!アルくんお帰りぃ!どう?できた?」


「あぁ・・・うん。何とかね。しかし・・・相当扱いたね・・・」


「だって・・・作業が遅いんだもん・・・。ちょっぴり厳しくしちゃった。てへっ」


うぅん・・・予定数の3倍はできてる・・・一寸過酷だったのかもしれないけれど・・・皆満足気だから飴と鞭の使いかたが良かったのかなぁ・・・。


「皆さんのおかげで何とかなりそうです!あとは私の方で、硬質化の魔法をかけるなどの作業を行います。僅かながら食事もご用意しておりますので、ゆっくり休んでください。エレン。用意を頼むね」


「カレンほど上手にはできないのじゃ。期待はせんでくれよ」


「大丈夫。きめ細やかな手配が得意なのは知っているから。エレンなら平気さ」


「・・・そう言うところなの・・・」


「ん?何か言った?」


「何でも無いのじゃ!見事な配膳で驚かせてくれるわ!泥船に乗った気でいるのじゃ!」


・・・それじゃぁ沈んじゃう・・・って言っちゃった。滝壺から少し離れた位置を整地して、直接土に座らないよう大きめの布をひいている。一人一人に丁寧な所作で配膳もしている。普段の姿からは想像できないから、プルーナさんも驚いている。彼女の自信にもなるし、良いこと尽くめかな。




「さて、と。完成した土管に、“清”と”修“。それに“耐”の文字を入れてっと。あっ!あと、取水口になる枡形水槽は・・・私の方で創るか」


取水口に当たる部分も、川に直接繋ぐのではなく、万が一流量が減少したときのことも考え、枡形の深い水槽を配置する。土管との接続部分はなるべく深い位置に開けてっと・・・。こっちには“浄化”、“修復”、“除去”の文字を入れておこう。


『「デハ アルフレッドサマ カンセイシタ ドカン ヲ アオイライン ジョウニ オイテクダサイ」』


「了解」


久々に使うけど・・・よし!全部位置に着いたかな。浮遊と移動の魔法は使い勝手が良いけど、少しばかり集中が必要で困る・・・。


「ほぉ!壮観じゃのう!土管が一直線に並んでおる」


「あっエレン!休憩は終わったの?」


「いんや?魔力の発動を感じたから来てみたのじゃ。あっ!皆にはデザートまで供したから安心せい」


「そこは大丈夫。そうだ!曲線の所に行かなきゃいけなかったんだ」


「ならワシも着いていこう。ちと待っててくれ。プルーナに言ってくるのじゃ」


エレンが少し私に着いていくことをプルーナさんに伝えて戻ってきた。プルーナさんは空いた時間で少し身体を動かすとのことだ。工兵たちをあまり苛めなきゃいいのだけれど・・・。


「おっここだ!ちゃんと曲がってる!」


「おぉ!凄いのじゃ!彼らが作っていたのは、直線の土管だったと記憶しておるが・・・これも?」


「そう。さんちゃんのお陰さ」


『「オホメニアズカリ コウエイデス」』


「これを・・・」


《アルフレッド様!!》


おぉう・・・耳が・・・耳が・・・


《どっどうしたの?》


《どうしたもこうしたもありません!急に土管が現れたものだから驚きました!見ていたのが私とストルネ様だったから良かったものの》


《ごめんごめん》


《人が立っていたら少なからず惨事になってたのですからね!》


《確り確認はしていたけど・・・事前に伝えなくてごめんね》


《次からは報、連、相を確りしてくださいね!》


《はい・・・》


「・・・お小言じゃな」


「うん・・・まぁこればかりは私が悪いからね」


「ふむまぁ致し方ないのぅ」


「たはは・・・そうだ!途中に水の勢いを強くする装置を作らないと・・・たしか・・・おっあった!」


「ん?あぁ希白金(ミスリル)か。それを加工するのじゃな?」


「うん。薄く伸ばして、風弾(ウインドバレッド)の魔術式を組み込んで。四角く加工して、土管の接合部を作る。地上に出る部分には、強さを変えられるように五段階調整の(てこ)をつけて。魔力認証機能も付ければできあがり。取りあえずは、私とエレン、カレンの魔力認証だけしておこう」


「・・・鼻歌を歌いながら、希白金を設備もない外で加工するなど、アルにしかできない芸当じゃのう。しかも、これ不壊の魔術も使っておるのじゃろう?」


「うん!水は生命線だから。何かあってからじゃ遅いからね。近々住宅に供給を考えてるしね」


「なるほどのぅ。先も考えておるのか。じゃが・・・この道筋じゃと畑にいかんのではないか?」


「そっちも考えてはいるんだけど・・・排水路を作らないとね」


「製材所は?」


「そっちは、完全循環型にしてあるから・・・最初に水を入れたら、さっきの梃で水を止めてお終いさ。あとは凍って溶けての繰り返し。貯水できるように空間魔法も使ってあるから、ある程度減少するまでは追加の水は要らない感じ」


「土管の中に滞留する水は?腐るのではないか?」


「心配ご無用!それも考えて、土管に“清”の文字を入れたから。常に綺麗な水になるようにしてみたんだ。枡形水槽にも“浄化”の文字を入れたしね。蒼の勇者が伝えてくれた文字は凄いよね。1文字1文字に意味があるのだから・・・」


「そうじゃのう。魔術も大幅に発展したしのぅ。少ない力で最大の効果を得られるようになった。ありがたい事じゃ」


「うん。さぁ・・・戻ってこの土管を埋めてもらわないとね」


「うむ」







「─────周!」


「「「ハイィーーー!」」」


「返事が弛んでいるぞ!」


「「「ハイッ!」」」


うわぁ・・・突然の訓練。しかも。滝壺を・・・水の中を走ってるよ・・・確かに足腰は鍛えられるけど・・・疲労が・・・止めさせようかなぁ。


「プルーナさん。ただいま」


「アルフレッド殿が戻られたッ!しばし休憩!───アルくんお帰りー!」


(((たっ助かったぁ)))


・・・なんか感謝の念を送られてる・・・大丈夫。あとでとっておきの治癒魔法かけるからね。


「・・・余計なことはしないほうが良いと思うのじゃ・・・」


広域治癒(エリアヒール)


「「「おぉー!」」」


「これで、大丈夫かな・・・。工兵の皆さん。この青い筋の中に入ってください」


「「「はっ!って・・・おぉ!」」」


「なんだこれ!頭の中に」


「すごいっ身体を動かしたくてうずうずする!」


「道具?いやいや素手でもいける!」


「素手は流石に・・・円匙(えんし)を用意しましたので、こちらで」


「もしかしてと思うのじゃが・・・アル・・・あの金属部分は・・・」


「もちろん!希黒鉄(アダマンタイト)だよ?」


「声が大きいのじゃ!まったく・・・貴重な金属を次々と・・・」


「うぅん・・・たしかに産出量は激減したけど、収納庫には文字通り腐るほど有るし・・・それにアレは貸与だから回収するから大丈夫」


「なら良いのじゃが」


「それに、あれも希白金程では何しろ魔力との親和性が高いからすぐに・・・」


「ねぇアルくん。話してるところ悪いんだけど・・・工兵達・・・行っちゃったよ?」


「おぉ・・・追いかけないと!」


《アルフレッド様!!》


《うぉ!・・・もしかして?》


《ものすごい勢いで、そちらの方から3名の工兵が来ましたよ!》


《分かった・・・すぐ行くよ》


「・・・もう着いたって」


「はやっ!四半刻も経ってないじゃん!なんだぁ・・・そんなに体力あるんだったら・・・」


「プルーナさん・・・お手柔らかにね?」


「フフフフ」


「駄目じゃ・・・聞こえておらん。それよりアル、途中で水を流すのか?」


「いやっ接続を確かめてからにするよ。一先ず向かおう!」


こうして、製材所まで急いで下っていった私達は、皆と合流した。魔道具と土管の接続を確かめ、エレンが水を流す手はずを整えた。水勢は中でと言ったけれど、思いの外梃が軽かったらしく、ものすごい勢いで水が流れてきた。慌てカレンが水を止めたが、貯水用の魔道具には余裕があったため、ストルネ殿たちが目を見開いて驚くという一幕があったのはご愛敬。


「ストルネ殿。この開閉器の梃を上げてください。そうすることで、鋸が動きます。そして、案内路にも氷が張ります」


「儂で宜しいのですか?」


「もちろん」


「では・・・」


ストルネ殿が開閉器の梃を上げると、鋸に刃が生まれ、案内路に氷か張り、予め置いていた丸太が滑り落ちてきた。鋸を通過する際にギンッという音を立てて滑り落ちてきた木は、見事に角材へと姿を変えていた。様子を見ていた私達は大きな歓声をあげ、工兵達は肩を抱き合いながら喜びを分かち合っていた。これで、家の修復や港の工事、他の施設の建設に取りかかれる!勿論、木を無駄に使うことはできないから、林の整備も両立しないとね。・・・畑に水を通すのは、もう少し待ってもらわないとね・・・。

前へ次へ目次