鋸の創作
「うぅん───ここがこうで───これがあぁで───」
「悩んでおるのか?」
「あぁ。エレン・・・」
「何に悩んでおるのじゃ?」
「・・・歯を出す部分と動力部、魔核からの魔力供給部は完成したんだ」
「ほぅ」
「刃の部分はね、小石大の穴の横に縫い針程の穴を大きな穴を挟むように2つ開けて有るんだ。長さは、大きな穴から出る氷が長くて、細い方が短い。こうすることによって、木の繊維に負けない刃ができる。動力部には、とても少ない魔力でも動くように増幅装置を取り付けて、魔核からはほんの少しずつ魔力を吸い取っていく。これだけ純度を高くしてもらったから、半永久的に内蔵魔力を使うことができる。そして何より、どうしても漏れ出てしまう魔力を使って、原料を刃まで滑らせる傾斜の氷を維持させることで、無駄のない運用が───」
「わかったわかった!もう分かったのじゃ!」
「───もっと素晴らしい部分が沢山あるのに・・・」
「────それで、何に悩んでおるのじゃ?」
「───ないんだ」
「ん?」
「刃を回転させる機構が思いつかないんだ・・・」
「ほぅ・・・アルが思いつかないとは珍しいのぅ」
「いやっ・・・材料があればすぐに作れるんだけどね・・・丈夫な木の皮か動物の革さえ有れば・・・帯革が作れるんだけど」
「ふむ・・・ワシはどちらも持ってはおらなんだ」
「だよね・・・」
「ただいま戻りました・・・如何致しましたか?」
「あぁ。お帰りカレン。いやぁ・・・帯革を作ることができなくて・・・」
「───でしたら、街へ出て聞いてみましょう。彼らは軍人ですから、何かしら使わない物を持っているかもしれません」
「「おぉ!」」
「なっなんです?エレンまで・・・」
「いやぁ・・・三人寄れば何とやらだと思ぅてのぅ」
「それじゃぁ出かけようか」
「革ねぇ・・・」
カレンの考えで街の人々に聞いて回ったのだけれど、あまり良い回答は得られなかった。革でできた物は、プレズモさんとの物々交換の時に出してしまったとのことだった・・・。
「申し訳ありません。アルフレッド様」
「大丈夫!カレンに責任はないよ」
と言ったものの見つからないとなると新しい物質の創造だけれど・・・
「あぁ!そう言えば・・・艦の中に使われていない幌布が・・・確か・・・ヒュドラかなんかの革だった気が・・・」
「それはっ本当ですかっ!」
「あっあぁ・・・ただ、提督に聞かないと・・・」
「わっかりました!ストルネ殿に聞いてみます!ありがとうございます!」
「あぁって・・・もう行ってしまった・・・」
「ストルネ殿!」
私はノックもそこそこにストルネ殿の家宅に入った。不躾だけれど、解決の糸口を見つけたことが嬉しくて仕方が無かった。隣では盛大にカレンが溜息をついているし・・・エレンは少し運動不足・・・かもしれない。
「おぉ・・・アルフレッド殿。如何致しました?」
「街にいた士官殿に、艦の中にヒュドラの革があると!」
「・・・確かに小型のヒュドラの革がありますな。海に迷い込み、漁場を荒らしていたモノを退治したモノですな。それがなにか?」
「鋸を動かすために、少しお譲りいただきたいのです!」
「ふむ・・・分かりました。プルーナ。これが保管庫の鍵だ。ご案内を頼む」
「あいあいさー!行こうアルくん達」
「ありがとうございます!必ず有効に使わせていただきます」
「頼みますぞ」
ノックがおざなりになってしまった非礼を詫び、ストルネ殿の家宅をあとにした。
「おぉぉ!近くで見るとやっぱり大きいなぁ!」
私達は、砂浜に座礁しているストルネ殿の艦の前にやってきた。
「ベレンラント級第一艦。・・・ベレンラントは提督の領地ね!全長250米。幅は45米。我が国最大の戦艦なんだ!」
「間近で見るのは、今日が初めてだけど・・・大きいなぁ・・・」
「ふむ確かに大きいのぅ。まぁ艦全体。下から上まで全てか見えておるのだから当然か」
「これだけ大きい艦ですが・・・動力源は・・・」
「ん?最新の魔石燃料動力を備えているよ!高出力、高馬力。少ない量でも高速航行が可能なんだ!」
「「「───!」」」
「プルーナさん!今なんて!?」
「ん?高速航行?この大きさで・・・」
「違う!」
「ふぇっ・・・?」
「あっ・・・大きな声を出してごめんね・・・。燃料についてもう一度教えて欲しい」
「あっうん。驚いちゃった・・・燃料は魔石燃料だよ」
「そうか・・・聞き間違えじゃなかったんだね・・・」
「我が国や周辺国の主要燃料は魔石だよ?工業力は魔石燃料によって支えられているんだ」
「そうか・・・」
魔石燃料を大量消費・・・まだ大量消費と決まったわけではないけれど・・・拙いかもしれない。
私達はプルーナさんの案内のもと、保管庫まで行きヒュドラの革を予定通り手に入れた。大きさは予想よりも二回り大きく、幼生体ではなく若年体だった。よく討伐できたね。とプルーナさんに聞くと、得意げに「アタシが何発も弾を撃ち込んだ」と語っていた。戦功第一だからプルーナさんを案内人にしたんだね。
その後、艦から別れ、帯革を作り上げて魔道具に装着し、一応の完成とさせた。
頭の片隅に暗い影を落としながら・・・。