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製材を作ろう②

「うぅん・・・」


私は、ストルネ殿が以前用意してくれた元倉庫に戻り、考え込んでいた。


「あの後何があったのです?」


「製材所を建てると言う点では、少し手狭じゃが良い土地が見つかった。しかし・・・肝心の製材器具に関して悩んでおるようなのじゃ」


「それはなぜです?」


「・・・木を水で切るわけにはいかぬであろう?」


「そうですね。折角乾燥させた木が水刃で切ってしまうと湿ってしまいますからね・・・」


「そうなのじゃ。どうやらアルはそこを失念しておってのぅ。新しい魔道具が創れると言うことで、気分が上がっていたようなのじゃ・・・」


「まったく・・・まぁ食事の合間にでも話し合ってみましょう。三人集まればなんとやらと言うようですし・・・」


「なんとやら・・・に入る言葉が気になるが・・・。ところで、今日の晩ご飯はなにかのぅ」


「今日は蒸かした馬鈴薯と、魚の塩焼きです。良い鯵が手に入ったと言うことで、3尾いただいたのですよ」


「ふぅ・・・今日も馬鈴薯か・・・偶には違うものを食べたいが・・・魚があるだけ良しとするかのう」


「空腹でクラーケンを襲った人が言うセリフですか?」


「うぐぅ・・・何処でそれを・・・」


「あの時の態度を見ていれば、自明の理ですよ」


「むぅ・・・」


「馬鹿話はこれ位にして・・・アルフレッド様。御夕食の準備ができましたよ」


「───。───!───」


「アルフレッド様!」


「うわぁあぁ!なに?なになに?あぁ・・・カレン。耳もとで叫ばないでよぅ」


「呼びかけてもお返事気有りませんでしたので」


「・・・ごめん。それで?用件は・・・あっ!晩ご飯ね。何時もありがとう。エレンも待たせてごめんね」


「良いのじゃ」


「おっ!蒸かした馬鈴薯に鯵の塩焼きか・・・。いいね!それでは・・・いただきます」


「「いただきます」」




「───それでアルフレッド様。何を悩まれていたのですか?」


「ん・・・ふと我が国ではどのようにして製材を行っていたかなぁって・・・今でこそ、旧魔族達の高度な技術を使って様々な建築を行っているけれど・・・」


「・・・丸太を組み合わせていたのでは?」


「うぅん・・・弓とか丸太そのままでは作れないから・・・。確かな技術があったはずだったんだけど」


「───んぐっ。切った傍から材にしていたのではないのかのぅ」


「うぅん・・・そうかも知れないなぁ・・・」


「何なら聞くか?」


「えっ?」


「やっやめっ・・・」


「もう呼んだのじゃ」


─はめ殺しの窓ガラスがけたたましい音と共に木っ端となり、一陣の風が室内に吹き込んできた。どうやらエレンは風の精霊を呼んだらしい──。


「うわぁ・・・」


室内が滅茶苦茶だよ・・・。あっ・・・カレンが震えてる・・・。


「───ふむ。ほうほう!成る程のぅ」


実体を伴わない精霊は、私でも意思疎通が難しい。大精霊のエレンがなせる技?だけれど・・・早く謝った方が良いと思うなぁ・・・。


「助かった!教えてくれてありがとのぅ。ん?そうじゃな。帰りは静かに帰るのじゃぞ」


またしても一陣の風が吹き荒れた。割れた窓から出て行ったのは良いけれど・・・室内の惨状は・・・。


「───っのぉ」


「ん?なんでカレンは小刻みに震えておるのじゃ?まぁよい!アル!分かったぞ」


「分かったぞ!じゃないですよ!この有様、どう後始末するのですか!えぇ!誰が直すのだと思っているのですか!」


「そっそんなに近づかんでも・・・」


「今日という日は許せません!外に出なさい!今までの分まで折檻です!」


「んなぁ!ワシはただ、アルの役に立つようにしただけじゃ!褒められこそすれ、怒られるいわれはないのじゃ!」


「んなぁ!・・・このぉ!大馬鹿者!」


「馬鹿とは何じゃ!馬鹿とは!この筆頭宮廷魔術師のワシに向かって馬鹿とは!」


「ふっ2人とも・・・もう止めようよ・・・夜も遅いし・・・ね」


「「アル(様)は黙ってて!」」


おぉふ・・・2人とも我を忘れてる・・・仕方ない・・・。


「あぁ・・・秘蔵の菓子。1人で食べちゃおうかなぁ」


「「・・・」」


「結構量があるんだけどなぁ・・・。王都で人気の菓子なんだけどなぁ・・・甘いんだけどなぁ・・・」


「「むぅ・・・」」


「良いのかなぁ・・・食べちゃうよぉ?」


「・・・以後気をつけるのじゃ」


「はい。呼ぶなら外に出てお願いします」


「うん!仲良きことは良いことかな。建物の中は私が直すから」


そう言って指を弾くと・・・なんと元通り!時魔法はなんて便利なんだろう。


「相変わらずアルの魔力はでたらめじゃのう・・・ワシがやったら倒れてしまう魔法を一瞬で行使するとは・・・」


「まぁまぁ・・・気にしない気にしない!────それじゃぁ皆でこの焼き菓子を食べよう」


「ほぉ!濃厚な香りじゃ」


「はい。ふんだんに使われた牛酪に卵。そして何よりこの甘い香り。これは確か・・・」


「黒の勇者が伝えたハイムお店の〈木の焼き菓子(バウムクーヘン)〉さ!」


「おぉ!これが!王都では知らない人は居ないと言われるあの!」


「しかも焼きたてじゃないか!アルよ!どのようにしてこれを・・・」


「ん?あぁ・・・街に出たときに買ったんだ」


「アルフレッド様・・・」


「そっそんなに厳しい顔をしなくても・・・」


「はぁ・・・良いです・・・。この様な菓子を振る舞っていただけるのですから・・・不問に致します」


「相も変わらず手厳しいのぉ」


「むっ!」


「まっ・・・まぁまぁ・・・。とりあえず食べようよ」


「うむ」「はい」


「・・・ところでエレン。先程の精霊はなんて?」


「おぉ!そうじゃった」


私は〈木の焼き菓子〉を食べながら、エレンの話を聞いた。どうやらその昔、我が国では、近くに居る精霊に協力してもらい、必要最低限の木を風刃(ウインドカッター)で切り倒し、枝を落とし、精霊達が直後に乾燥。そして皮を剥ぎ、棘を削り取り表面を滑らかにし、建材として使っていたとのことだ。なるほど・・・現場ですぐに済ませるのであれば工場は要らないか。私が生まれる前の話とのことだ。通りで記憶にないわけだ・・・。ただ、現状ここは普人族が暮らしている。やはり金属を使わないと無理なのかなぁ・・・。


「アルよ。何故金属を使うことを躊躇うのじゃ?」


「うぅん・・・点検や交換に時間や資源を使うでしょ?使うモノは全て再利用できる形にしたいんだよね・・・若しくは半永久に使用ができるようにしたいんだ」


「成る程のぅ」


「でしたら・・・やはり氷刃(アイスカッター)を使用したら宜しいのでは」


「そう思ったんだけど・・・少ない魔力で溶けないようにするには・・・って考えると難しくて」


「おぉ!そうじゃ!ここにお誂え向きのモノが有るぞ!」


「ん?」


「・・・あぁ・・・成る程。確かにあれなら相性は良いかもしれませんね」


「なになに?」


「おっ!有った!これじゃ!クラーケンの[魔核]じゃ」


「うそっ!これをどこで!?」


「まっまぁ・・・少し前にのぅ・・・どうじゃ?これでどうにかならんか」


「うん!これなら・・・あっでも・・・」


「分かっておる。ワシの方で限りなく不純物は零にする」


「それなら。うん!安定的な魔力を供給できるし半永久的だ。後は、回転軸と歯に関しては私の魔法で何とかして・・・」


あとは・・・簡単な回路を作って誰でも扱えるようにして・・・いける!いけるぞ!


「あぁ・・・アルがまた思考の海に」


「何時ものことです。それよりこのお菓子・・・美味しいですね」


「うむ。アルの分は・・・」


「冷めてしまうと勿体ないので────」


よしっ!ってあれ?私の分は?おぉい・・・2人ともぉ────!

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