事実確認とこれからのこと
「───とまぁ・・・何者かによる魔法の影響でクラーケンが倒され、こうして生きておる」
「それは分かりました。が、どうにも解せぬ事が・・・」
「殿下が気がかりなことは・・・」
「「どうやってここまで来たのか」」
「であろうな。しかしな・・・ワシにもよく分からんのだ・・・」
気が付くとと船が動いていた。最初は朧気ながら乗組員が動かしているのだと考えた。しかし、意識が覚醒していく中で周りを見渡すと、どうやら気が付いたのはワシだけだった。
「皆無事か!」
船内廊下に倒れていたワシは、廊下に響く声で呼びかけた。次第に乗組員が気付き、目を開け始め、皆動けることを確認し安堵した。しかし、艦が動いていることが非常に気がかりであったため、ワシを除いて15人ほどいた船員の中から8名を他の者の救助に。残る7人とワシで操舵室へと向かった。
「・・・中に反応はありません」
「ふむ・・・では・・・」
「私が参ります」
ワシが入ろうと言う前に、副官が操舵室に入っていった。索敵した者は探知に優れていたため、突入という形をとることはなかったが、慎重に入っていった・・・。
「提督!艦は何者の操作も受けつけておりません!」
「なに!ではこの艦はどうやって・・・」
そう。動力が動いていると言うことは無かったのだ。後から考えてみれば、クラーケンに破壊されている可能性があったのだから当然ではあった・・・。
「・・・す!・・ます!応答願います!」
「こちら操舵室!!無事だったか!」
甲板に設置された伝声管から報告が来る。何事もなく、命に関わるような怪我がなければ、外からの報告と言っておいた。どうやら船員達に大きな怪我をした者は居ない模様。一先ずは安心。しかし次の報告で心にあった安堵感は消え去った。
「船員は全員無事です!大怪我をした者も居ません!ただ・・・」
「ただ・・・なんだ?」
「何かがこの艦の下に居ます!艦の10倍ほどです!その何かがこの艦を運んでいます!」
「「───!」」
操舵室に詰めた8人に緊張が走った。艦の10倍の大きさ。どう考えても魔物だろう・・・。しかし・・・どう言った経緯でこの艦を運んでいるのか・・・。
「謎の生命体の目的は不明!攻撃しますか!?」
「提督!ご判断を!」
「・・・止まっている間に襲おうと思えばひと呑みだったはずッ!攻撃はせず監視を続けよ!」
「提督からの命令!攻撃はなし!監視を続けよ!繰り返す────」
「ワシらの艦に積んでおった食糧は、10日分だったが、何とか食いつないで20日分まで伸ばし、12日立った頃にこの島に着いたのだ」
「成る程。下の魔物らしき影は?」
「わからぬ・・・。島の海岸線が見えた頃には、急に推進力を失ったから・・・その時点では居なかったのだと思う。あとは、潮に運ばれ座礁した形となったのだ」
「ふむ・・・であれば、遭難者という扱いですね」
「・・・そうしていただけると有難い」
「ですが・・・この建物群は?」
「・・・我が艦には、ワシが一兵卒の頃からともに過ごした者が多く、兵役中に工作部隊におった者が複数人居た。後は彼ら彼女らを中心に人の住める場所を作ったのだ」
「港の倉庫は?」
「倉庫は、今居るこの場所と同じ。元は住居だったのだ。しかし、流れ着く者が増えたために、日用品等の保管場所として改築し、街を形成していったのだ」
「・・・理由は分かりました。」
「───では!」
「ですが、我が国の資源の乱用にあたりますので。その辺りをどのようにするかですね」
「・・・ッ!しっしかし・・・」
「えぇ。有事であり事情が事情なのは理解します。しかしながら、訪れた商人などに島が位置する国や地域を聞くことができたのではありませんか?」
「・・・うむぅ」
「それを怠ったと言うことは、領土の侵犯にあたると考えられます」
「・・・。」
「こちらとしては・・・即刻出て行くように・・・と申し上げても問題が無いことですが・・・」
「・・・何が目的か・・・」
「私はこの島を開発する命を受け参りました。本来人口は0であると情報を貰い」
「───!」
「私の目的は、この島を開発すること。幸いにも貴方の目の前に居る人物は、我が国の王族。何を要求するのか・・・お解りですか?」
「・・・労働力。それも手となり足となる」
「その通りです!素晴らしい!」
「・・・そのためにワシが必要か。人質として・・・」
「いいえ。私は人質が欲しいわけではありません」
「では何を求める。この様な者に」
「先程、提督はおっしゃった。流れ着く者を保護し、人口が増えている。と。」
「あぁ。それが如何した」
「貴方を守るために壁の裏にいた獣人族。誇り高い彼らまでもが心服する。そんな仁徳ある貴方にお願いがあります」
「・・・」
「提督に、この街の開発の指揮を執っていただきたい。指示は私が出しますので、現場監督と言った位置づけですね」
「・・・断れば如何する?」
「・・・それ相応の報いを」
「・・・。あい分かった。とは言いにくいが、ワシらの生活も保障されるのだろうか」
「勿論!開発が一段落したならば、母国への帰還を選択しても構いません」
「・・・わかった。貴君を信じ、我らの命を預けよう」
「ありがとう!提督!これで・・・」
「時にアルフレッド殿下。相当に腹芸が得意なようだが・・・」
「・・・腹芸?何のことです?」
「・・・ワシも長く生きてきたが、ここまでの御仁に出会うとは・・・しかし!」
「忠誠は誓わなくて構いません。あくまでも客人としてお手伝いいただく形で。」
「なんと!」
「軍人であれば当然・・・でしょう?」
「・・・ははは。あははは!これは敵わん!ワシらのことお使いくだされ!殿下!」
「・・・覚悟してくださいね」
提督の本心を知るために散々脅し文句を並べたけれど・・・いやぁ手強かった!でも、納得して貰えて何より!交渉は疲れるね・・・。当分はいいかなぁ。
しっかし・・・エレンは何でずっと震えてるんだろう・・・?まっいっか!
「ストルネ提督。皆さんに挨拶がしたいので・・・」
「うむ!畏まった!」
これで島に居る全ての人と会えるかな・・・。少し休憩・・・。
「アルフレッド様。お疲れ様でした。久々の本気の顔を見ることができました」
「久々って・・・褒めてる?」
「えぇ。勿論。ストルネ様を味方に付けるとは・・・」
「まぁ・・・客人扱いだけど。それでも500人の人員が付いてくるのは大きい。人集めに奔走しそうだったからね」
「そうですね。ですが・・・どう陛下にはご説明なさるおつもりで?」
「あぁ。遭難した他国船を保護した。と連絡するよ。着いてから連絡・・・ハッ!」
「マルゲリテに着いてからも。出立してからもご連絡してはおりませんね。」
「かれんー!知ってて黙ってただろ!?」
「いぃえ。忘れるアルフレッド様が悪いのですよ。しかし・・・エレン?何故貴女は一言も話さないのですか?」
うわぁ・・・話題を急にそらされた!でも、エレンが話さないのは、私も気になる・・・。
「いやっ!とっ特になにもないのじゃっ!」
「・・・そうですか?体調が悪かったらすぐに言ってくださいね?」
「分かったのじゃ。」
「おぉういアルフレッド殿下ぁ!」
エレンが同意したのと同時に、ストルネ殿の呼ぶ声が・・・。あっ!明らかにエレンが安堵した。これは何かやらかしてるな・・・。
後で聞かないと───。