ズッキネと言う人
「着いたぞぉ。ここが俺のぉ家だ」
そうズッキネに案内されてきた場所は、港のすぐ近くの倉庫街にある平屋建ての家屋であった。
平屋建てと言っても、倉庫と同じ高さがある。ハッキリとした違いがあるとしたら、入り口は間口が狭い取っ手の着いた扉とはめ殺しの窓がある事であった。
「ふむ。ズッキネ殿はこちらで港の管理を?」
「あぁ。俺ぁ高いところが苦手でよぅ。地に足が着いてねぇと不安なんだぁ。立ち話もなんだからなぁ。中に入ってくれ」
「「「失礼します(のじゃ)」」」
建屋の中は、温かみのある木の色で統一されており、入ってすぐの応接間と、奥に一部屋。ズッキネの寝室兼書斎が有るのだろう・・・。
そうぼんやりと想像していると
「茶ぁでも飲むかぁ?つってもいいもんは出せ無いんだかなぁ」
「いただきます」
こぽこぽと音を立てて注がれるお茶。この辺りでは見ない深い赤色をしたものであった。辺りに漂う香りは華やかで、何か香り付けをしているようだった。
「俺ぁ。この茶が好きでよぅ。ここらじゃ飲めないのが辛いんだがぁ・・・。きょぉはお客が来たからなぁ。飲んでみてくれ」
そう笑顔で言われ、アルフレッド達はカップに口をつけた。芳醇な香り。何かハーブだろうか。微かに感じる茶葉独自の甘み。緑の茶を飲む事が多くとも、良さを感じる。宛ら紅茶と言うべきか。
「この葡萄の香りがするこの茶が好きでなぁ」
成る程。葡萄か。話を聞いて合点がいく。二口ほど飲んでほうと息をつき、本題に入る。
「ズッキネ殿。向かいの壁に居る人々を下がらせていただきたい」
「んんー?俺の家はこの部屋と奥だけだぁ?」
「・・・ご冗談を」
「向かって左手の壁に3人」
「右手の壁には、魔法を使える者が2人と力自慢が3人。かのぅ」
「・・・フム。もし、本当に居るのだったらぁ・・・ワシの目的は何だと思うんだぁ?」
「このお茶には何もされていなかった。カップにも。・・・であるならば、信用に足る人物かどうか。若しくは、私が身分を偽って居るかどうかを見るため・・・でしょうか」
「はっはっは。甘いのぅ・・・。兄ちゃんらを遠くに売り払うことすらも可能だとは思わなかったのかぁ」
「・・・それはないかと」
「何故かは教えて貰えるかぁ?」
「人身売買をするには倉庫の規模が小さい。この辺りの地盤は緩く、地下を掘ることは叶いませんから。あの倉庫街は軽い物資。食料や日用品を保管しておく場所なのでしょう?であれば、人など入れられはしませんよ。まっ・・・大きな船が停泊していたら別ですが。そんな余裕はないのでしょう。当地に流れ着いた方々なのだから」
「・・・ソレをどこで聞いた・・・」
流れ着いたと言う言葉に反応したズッキネは、低い声で、情報の出所を話すようアルフレッドを追求しようとする。
「───話しの前に、下がらせてください」
隠れた人間を退室させろ。と力強い目で訴えられたズッキネは、軽く舌打ちをしながら手を叩く。すると、両壁にあった気配が遠ざかるのが分かった。
「あの程度の輩なら、なんともないのだがのぅ」
「エレン。私たちが暴れると、アルフレッド様にご迷惑がかかりますから。ただ・・・」
「実力差を舐めた行動は釈然としないのぅ」
「えぇ。同意します」
気配が遠くなったのだが、自身に纏わり付いていた不快な視線を思い出す2人。
あとで締める。そう決意した様子を、程々にねと言う目線を後ろの2人に向け、ズッキネに向き直すアルフレッド。
「・・・よしっ」
「何をした」
「盗聴防止にこの部屋のみ防音結界を。大丈夫。私達は貴方に危害を加える気はないですから。況してや、貴方が想定した最悪の人員でもないです」
「はぁ・・・。そこまで読まれていたか。仕方ない・・・ワシの首一つで勘弁してはくれないか」
「・・・確かに。我が国の領土を不法に占有し、街まで作り上げている。───首一つで収まるかどうか・・・」
「───しっしかし・・・ワシらにはもう・・・行くところが・・・」
「北方連邦国海軍提督」
「・・・!」
「ズッキネ・・・いや。ストルネ殿」
「・・・何処がお荷物王子だ。こんな人物だったとはしらなんだ・・・。数々のご無礼お許しを。如何にも、ワシは元北方連邦国海軍提督。ストルネと申す。貴国の領土を侵犯し、剰え占有したと言う事実。申し開きもない」
「あはは。そこまでご丁寧に。私達は・・・名乗りましたから割愛しましょう。・・・でも、なぜこの島にこの人数で?」
「最初は───」