港町での出会い
「おぉー!着いたぁ!」
「疲れたのじゃぁ・・・。」
「貴女はアルフレッド様のポケットの中に居ただけでしょうに。それにしても・・・」
森を抜けると、小高い丘の上であった。眼下に広がるのは、大きく湾曲した入り江と港。そこから扇状に広がる町。
「さぁ!どんな人が居るのか楽しみだ!」
丘を下り、扇の要部分にあたる位置に存在するアーチをくぐり抜け、町へと入った。
「・・・なぜ、あの様なところに石造りのアーチがあるのです?」
「ワシも気になるのじゃ!」
「それはね。この島に火山が有るのは上陸時に見たでしょう?」
「あの山ですね」
「ソレがどうしたのじゃ?」
「あの山もエレンと同じで、精霊の住まう山として信仰があったんだ。今は廃れてしまったけれどね。」
「なるほど。では、今くぐったアーチが・・・」
「そう。登山道の入り口。なんで保存されているかは分からないけれど・・・」
「ほぉん・・・精霊・・・ね・・・」
「どうしたエレン?」
「何でも無いのじゃ」
「それにしても・・・活気が・・・」
「人が居ないね・・・」
アーチから港に真っ直ぐと抜ける一本道。目抜き通りであり、商店街であろう石畳が整備されたそこには、お昼時だというのに人影が全くない。
「うぅん・・・これは困った・・・。この町の長的立場の人に会いたいのに・・・」
「そうですね・・・。ただ・・・。」
「うん」
「あまり歓迎されている雰囲気ではないのぅ・・・」
微かな敵意を感じる視線。勿論三人も分かってはいる。町の入り口ではない場所から、普段見ない三人組が入ってきたら・・・警戒することは当たり前。
そんな視線を感じながら、表に出ている人が居るであろう港へと足を運んだ。
港は、この島が信仰されていた時から築かれていた。そう語るアルフレッド。それでも、港の桟橋は古い時代のモノを基礎として、よく手入れされていた。岸壁の石も補修されており、平時には活気あふれた港であることが窺い知れる。
エレンは、潮風で髪がぁ・・・とぼやきながら倉庫群を眺めながら歩き、カレンは潮の匂いを感じながら、歩いていた。ふと目線を動かしていると、桟橋の端に座り込んでいる人影を見つけた。
「アルフレッド様。あそこに人が・・・」
この岸壁、修復にはどこの石を使ったのか・・・等と考えていたアルフレッドが、カレンの言葉に顔を上げる。
「ん?───本当だ。行ってみよう」
打ち付ける小波。歩くとギシギシと泣く木でできた桟橋。横幅が広く作られており、大きな船が荷揚げをするには便利に作られていた。
「なんだぁおめえらは。どこから来たんだぁ」
釣り糸を垂らし、その先を見つめながら、やってきたアルフレッド達に声をかける。少々、訛りの酷いソレは、聞き取り辛くはあるものの、理解できない程ではなかった。
「お初にお目に掛かりますわた────」
「そぉんな丁寧な挨拶よりよぅ。釣り人に対する詞ってぇのがあるだぁろぉ?」
「失礼した」
「アル。なんか、この人間失礼なのじゃ・・・」
「しっ。エレン。黙って様子を見ましょう」
「どうです?釣れてますか?」
「いんやぁ・・・今日は潮がわるぅて釣れんわ。まぁ・・・こぉんなに日が高ければ、釣れんわなぁ・・・んでよぅ。お前さん方は何しに来たんだぁ?」
「王都より」
「王都だぁあ?昨日は、外海が荒れてて連絡船が来てねぇってぇのにかぁ?」
「えぇ。私たちには独自に海を渡る術がありますので」
「するってぇとよぉ・・・兄ちゃんたちは、小舟できたってぇのか?」
「いえ。別の方法ですよ」
「はぁん・・・んで、王都のから来た兄ちゃんたちが、この島に何の用だぁ?」
「それは・・・貴方とお話をするためですよ。町の長殿」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げて、視線を集めたのはエレン。突然な事であったために、羞恥の余り、顔を赤くしてしゃがみ込み、うぅうぅと唸り始めてしまった。
「エレン・・・」
残念なモノを見るような目でカレンがエレンを見下ろす。
「はっはっは!」
「これは・・・連れ合いが失礼を・・・」
「いんやぁ。めんごい娘だこって。しっかしよぐわがっだなぁ」
「えぇ。貴方の存在感がただ者ではなかったのでね」
「・・・そうかぁ・・・幾分と小さくしたつもりだったんだがなぁ」
「それに・・・誰一人として町に居ないのに、貴方だけが外にいる。怪しさ満点ですよ」
「赤目の娘さんもぉ鋭いなぁ・・・まぁ言われてみりゃぁ確かに。怪しいよなぁ・・・」
ほっ。と言って、を腰を上げた人物は、この町の長であった。町のもんには少しで歩くように言っておけば良かった。と後悔を口にしつつ、釣り竿を右肩に置き、アルフレッド達に向き合う。
「おらぁ、ズッキネってぇもんだ。この町の長をしとる。第一王子殿。」
「ほぅ・・・」
「はっはぁ!そっちが気付いていてコッチが気付かんとでも?」
「いえ。そこまでは」
「まぁ・・・突飛もない方法で上陸しとったからなぁ・・・」
「まっ・・・まぁ。確かに」
「闇に紛れて上陸。そっちの方が怪しさ満点だがなぁ・・・おれたちもぉ、話すことがぁ山ほど有るからなぁ・・・まずは、おれのぉ家に来てくれやぁ」
ズッキネもアルフレッド達のことに気がついてはいた様子であった。ただ、日陰のない桟橋に
長居をすると、いくら春の陽気とは言え倒れる危険性があるため、ズッキネの家に案内される三人。
「気付いていたら教えて欲しかったのじゃ」
と羞恥から立ち直ったエレンが呟くも、
「普通は気付くでしょうに」
とカレンから素気なく返され、頬を膨らませながらカレンの背中をポカポカと叩き、アルフレッドに泣きついた。
まぁまぁと。何時ものように二人をなだめながら歩く。喧嘩と宥めながらも歩いていた三人に器用なことをするなぁ。とぼんやりと思いながら歩くズッキネであった。