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白兎の森

「そう言えば・・・なんで市場で馬が暴れたりしたんです?こんなに大人しい馬なのに」


白兎の森に向かう道中、ふと疑問に思ったことをプレズモに問うアルフレッド。


「あぁ。村のブルーブルを取り扱ってるって言ったろ?」

「うん」

「丁度卸していた時に、二頭いた内の一頭の角が別の荷物に当たってな。ソレが崩れて驚かしたって寸法よ」

「ふぅん・・・でも、普通の荷物が崩れたぐらいじゃ驚かないでしょ?長い付き合いみたいだし・・・」

「おっ!分かるか?こいつは一人前に認められた時から一緒なんだがな。崩れた荷が悪かった」

「何が崩れてしまったのですか?私にも聞こえませんでしたし」

「あぁ!カレン嬢は耳が良かったな。・・・崩れたのはコッチに来る前に仕入れた木炭だったんだ」

「木炭ですか?そこまで音がしないと思うのですが・・・」

「ソレがよぅ。良い木炭でな!火力は良いし、水で消してもなかなか崩れないってんで、よく売れる。いつも得意先のパレルモに第一に卸してるんだ。だから、あん時は俺のミスだったんだよ・・・ブルーブルの大きさを見誤っちまってな・・・こいつを怖がらせちまった・・・」


そう言って優しい瞳で荷車を曳く馬を見つめるプレズモ


「それって・・・特別な“樫”で作られる木炭のこと?」

「おぉ!そうだぜアル坊!」

「あれば・・・確かに馬には厳しいかもね・・・」

「アル。その木炭には特別な何かがあるのか?」

「アル様。木炭は木炭ですよね。」


普段は余り興味を示さない、燃料のことをアルフレッドが知っているそぶりを見せたため、カレンもエレンも興味を持った。プレズモは、自身の扱っている商品の理解者がいることに喜びつつ、アルフレッドの話に耳を傾けた。


「あぁ・・・ある“樫”で確りと作り込まれた木炭はね、他の木炭と比べて燃料効率が良くて、崩壊もしにくい」

「それはプレズモ様がおっしゃておられました」

「あるぅ・・・勿体ぶらずに教えるのじゃ」

「アハハ・・・そんなに興味ある?」

「「もちろん!」」

「作物や植物。特に生きているモノにしか興味を示さないアル様が」

「知っているというのが驚きでのぅ」

「僕の扱いって・・・」

「ガハハハ!いいじゃぁねぇかアル坊!美女二人から興味を向けられってぇのはよぅ。羨ましい限りだぜ」

「笑い事じゃないよぅ・・・」

「はよう続きを!」

「わかったわかった!その木炭の特徴の一つに、ぶつかり合うと、キーンと高い音が鳴る性質があるんだ。ソレがどのくらいの量かは分からないけれど、耳もとで起きたら、馴れた馬でも流石に驚くよ」

「なんじゃ。その程度のことなのか。もっと魔術的な物かと思って期待して損したのじゃ」

「魔術的って・・・」

(もっと凄い事なんだけどなぁ・・・まぁいっか)


そんな木炭の話をしている内に、目的地である白兎の森に着いた。


「おう。着いたぜ白兎の森に」


白兎とは、その昔に存在した神獣のことを指す。が、今現在は琥珀海に繋がる小規模な森である。海まで繋がる道は、踏み固められており容易に歩くことができるが、馬車で行くには少し狭い。

真の目的地が琥珀海であることを告げると、プレズモは「乗りかかった船だ!最後まで着いてくぜ。大人がいた方が安心だろ」と言って着いてきた。

ここから一気にライラック島へ向かう予定だったので着いてきては欲しくなかったと言うのが

正直な思いであったアルフレッド。


プレズモが馬を荷車から外すから。と言ったので、これ幸いと小声で三人は話し始めた。


「仕方ありません。この方は悪い方ではありませんし、一層のことバラしてしまうのは如何ですか?」

「うぅん・・・」

「ワシもカレンに賛成なのじゃ。どうせここで別れるのじゃから、正体をバラしても問題はあるまい」

「そうなんだけどさぁ・・・なんか騙していたようで・・・」

「そこは、身分を隠してたからと言ってしまえば良いと思いますよ。パレルモの店内でも勝手に納得していただけていましたし」

「なんじゃと!お主らはあのパレルモに行ったのか!?」

「えぇ。まぁ。ソレは置いておいて」

「むきぃー!あそこの料理に外れはないと言われているほど味が良く。入るには常連の連れ合いがいないと門前払いされるほどの店だというのにぃ」

「えっ・・・そうだったの!?」


ひょんな事からパレルモの格式が判明したのだが・・・当初の目的から脱線したので、話を戻そうとアルフレッドが口を開こうとしたその時、相棒の馬を連れてプレズモがやってきたため、話し合いを止めて先に進み始めた。


森と言っても、人の手が加えられているため、夕暮れ時特有の太陽と月の明かりが辺りを照らす・・・?


「森ってぇのは、こんな時間でも明るかったか!?」

「この森は、光を溜め込み夕暮れ時になると溜め込んだ光を放出し、辺りを照らす地衣類が生えているのじゃ」

「ほぉん・・・エレン嬢も物知りなんだな」

「いやぁ!それほどでもあるのじゃ」

「エレン。調子に乗らないでください」


昔アルフレッドから聞きかじった知識を披露して得意げな顔をするエレンに対し、カレンは呆れ顔で釘を刺す。


「ブルル。ブルフゥ」

「へぇ!色々苦労したんだねぇ」

「ブルゥ。ブヒヒン」

「でもさ、プレズモさんはいい人でしょ」

「ブフゥ」

「はは!まぁソレは玉に瑕だけど・・・でも、飽きないって良いことだと思うよ?」


いつの間にか馬の相手がプレズモからアルフレッドに変わり、アルフレッドは馬と少し会話していた。馬の名前はリットと言うらしい。自己紹介の後、彼女は自信の相棒の愚痴をこれでもかとアルフレッドにもらす。適度に相づちを打ちながら会話をしていくが、伝えてくる思いの端々にプレズモへの信頼を感じた。

この二人の相性は最高なんだなぁと思いながら前を行く三人に着いていく。


さざ波の音が聞こえてきた。琥珀海はすぐそこだ───。

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