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マルゲリテ②

「んんぅん・・・ここは・・・」

「おはようございます。アル様」

「おはよう。カレン。あぁ・・・パレルモの宿か」

「はい。デザートに出た林檎のコンポートに使われた葡萄酒の酒精に酔われていたようで此方までお運びいたしました」

「ありがとう。だからか変身魔法(ミラージュ)が解けているのは」

「掛け直しますか?」

「そうだね。子どもとその従者が入った部屋から成人男性が出たら驚かれるだろうしね」

「そう・・・ですね。一騒(ひとさわ)ぎありますね」


昨夜リストランテの厨房を大騒ぎにさせているので今更感があるのだけれど・・・


「服は・・・あぁちゃんと切り替わってるね」

「アルフレッド様が創られた魔道具は本当に優秀ですね。無意識下でも機能しているのですから」

「うぅん・・・できることをやっているだけだから・・・凄くはないよ。───さて。と。朝ご飯を食べて行かないと」

「そうですね。折角プレズモ様にご紹介いただいたのですから。行かなければ失礼ですね」

「うん!じゃぁ一寸姿を変えてくるね」

「畏まりました」


変身魔法を使い、朝食を階下のリストランテで済ませ(食事量はカレンも自重)、朝市へと繰り出した───。


「いやぁ・・・王都に負けず劣らず活気があって良いね!」

「そうですね。王都と違って商人が多い。と言う違いがありますが」

「まぁね!ここは港町からそんなに離れていないし・・・舶来品や海産物の集積拠点だから。商業衛星都市マルゲリテ。そう呼ばれている場所だし」

「だから道幅も広くて整備も行き届いているのですね───」

道路の幅は約6米。煉瓦で舗装されており、荷車が通る専用道が真ん中に。その両脇を歩行者専用通行路が設けられている。

市場にあたる二街区と三街区は車両の通り抜けが制限されているようであった。

「へぇぇ!車道にも露店が並んで、歩行者が立ち入れるんだ!」

「特別な日なのですかね」

王都では見られない光景に感心しながら目的地へと向かう二人───。


「この辺りなんだけど・・・」

「やっと来たな!アル坊、カレン嬢!こっちだ」

自分たちを呼ぶ声の方向に歩みを進めると、この場所を教えたプレズモが露店を開いていた。

「プレズモさん!やはり貴方の店でしたか」

「おうよ!アル坊には世話になったからな!あの馬が曳いていた荷物を見てもらうにゃぁこの場が一番だったからよ」

「しかし・・・見慣れない葉が多いですね」

「そうかぁ?昨日カレン嬢がしこたま食べてた料理に使われていた代物だぜ?」

「えっ!これ総て香草なのですか!?」

「ほぇぇ・・・すっごい数」

露店の棚上には見本なのであろう数々の香草が並べられていたが、それ以上にプレズモの後ろには沢山の箱が積まれていた。

「おう!俺の後ろの箱は、リストランテやお貴族様に売ったあとの空箱だがな」

「大きな取引が多いんだね!」

「まぁな!珍しい香草を扱ってるからな!金に糸目をつけないで買うヤツらが多いんだ」

「成る程・・・。これ総てをお一人で?」

「いんやぁ。ちゃぁんと従業員はいるぜ?ただまっ・・・ウチは動く商会[アルガ・マリーナ]ってんだ」

店の名前を聞いた途端、アルフレッドは昔のことを思い出た。

(あぁ…あぁ!あのアルガさんのところの商会だ!たしかに・・・一カ所でとどまれるような性格ではなかったなぁ)

「有名な商会なのですか?」

「そうさなぁ・・・普人族の自由都市では有名だな!カレン嬢は自由都市に行ったことはって・・・アル坊もないよな」

「うん」「残念ながら」

「そうか。学園を卒業したら是非とも来てくれ!案内するからよっ!」

そう言ってプレズモは、懐から割符を出しアルフレッドに手渡した。

「それが有れば、自由都市の出入りが可能だ。なくすなよ?」

(懐かしい・・・アルガさんの字だ)

「ご先祖が書いたモノだからってどうしたアル坊?呆けた顔して」

「あっ・・・スミマセン・・・一寸寝ぼけてたみたいで」

「アル様。いつもはもっと遅い時間まで寝てますものね」

「余計な一言は良いのっ!」

「ガハハハ!朝から仲が良い主従だ。───その足で白兎の森は遠いだろ?近くの村まで乗せていってやるよ」


「いやっそこまでお世話になるわけには」


どうしようカレン。という目をアルフレッドが向けると、お世話になってしまいましょうと言わんばかりに強く頷かれてしまった。


「ありがとうございます」

「良いって事よ!丁度商いも終わったしな。このレモングラスはアル坊にやるからよ」

「えっ!」

「なんだぁ?自分たちの足よりコッチの方が嬉しかったのか?ガハハハ!」

「アル様・・・ハァ」


興味があったレモングラスに目を輝かせながら受け取ったアルフレッドにプレズモは笑いながら。カレンは呆れながらも笑みを浮かべた。当のアルフレッドは、羞恥心からか、顔を真っ赤にしながら蚊の鳴くような声で「だって」と連呼していた。


「───っし!善は急げだ!空箱は周囲の露天商に配ってっと」

「持ち帰らないのですか?」


カレンが素朴な疑問を呈する。

「ウチは動く商会。荷物になるモノは現地で処分するんだ。もっとも、商品は処分せずに持ち帰るが・・・こういう木箱とかはよ。まだ作ったり、買うことができない商人に渡すんだ」


そう言って周囲に木箱を配り始めるプレズモ。カレンは

「慈善家なんですね」

と感心していたが、アルフレッドが

「箱の四隅をよく見てご覧。商会の焼き印が小さく入ってる。あれはあれで宣伝効果があるんだよ。ウチの箱は壊れにくい。商品は丁寧に扱いますって」

「なるほど・・・流石は商人。利に聡いですね」


アルフレッドが言うとおり、木箱の四隅には『アルガ・マリーナ』を示す商会の焼き印が押されていた。

荷物を軽くするのと同時に、木箱を配ることで箱の強さと商会の知名度を上げていた────。

(ソレなりに影響力も大きいだろうけどね・・・)


箱を配り終えたプレズモに呼ばれ、彼の馬車に乗り、衛星都市マルゲリテを出発。目指すは白兎の森近郊。


「さぁ!気張っていこう!」

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