とある作家と編集者の一コマ
とあるオフィズビルにて、とある作家ととある編集が次回作に向けて話し合いをしていました。
「佐藤先生お疲れ様でした。無事シリーズも完結しましたね」
「ええ、僕も無事に終わらせることが出来てほっとしてます。これも竹内氏のおかげですよ。」
「いえいえ、佐藤先生の努力があってこそですよ。さて、それじゃあ次の話はどんな内容にしましょうか?」
「あっ、早速次回作の話ですね。早いですね0」
「ええ、やっぱりこういうのは早め早めに手を打たないといけませんからね。読者は流行に敏感ですし」
「そうですね、それじゃあ今流行の異世界転生モノなんてどうですか?今まで僕が挑戦したことの無い全く新しい分野だと思うんですよ!」
「またテンプレ的なものですねぇ・・・・・・、まあ佐藤先生は前作も異能学園ファンタジーでしたし、そういった話の方が向いてるんでしょうね。」
「でしょう?それで、やっぱり転生モノですから、オレTEEEEみたいなチートは外せないじゃ無いですか」
「ん、まあ、そうですね。っていうか前回もそうでしたよね?主人公めっちゃ無双してましたよね?聖剣振り回して、敵キャラばったんばったん倒してましたよね?」
「それにやっぱり奴隷ですよね。ご主人様に絶対服従する獣耳の可愛い美少女奴隷も絶対外せません!」
「んー、まあ確かに。っていいうか前回も出てましたよね?異世界から学園に召喚された主人公の奴隷の獣メイドちゃん達。ウサミミにネコ耳に犬耳にキツネ耳と種類も豊富だった気がしますけど」
「後はやっぱり、ハーレムですよね。これは外せません。やっぱりテンプレだとしてもハーレムこそ異世界転生モノの華ですよ」
「ええ、そうですね。・・・・・・っていうか前回も完全にハーレムでしたよね?しかもみんな主人公が話しかけたり、触ったり、ページ進むだけで落ちちゃう超ちょろインでしたよね?」
「・・・・・・・・・なんですかさっきから?何かトゲというか、一言多いような気がするんですけど・・・・」
「いえ、別にそういうつもりは無いんですが・・・・・・、ただ、その何というかもうちょっと新しい感じの話にしてみてはどうかなぁと。あまりに前作と似た媼雰囲気だと読者にも飽きられてしまいますし。それに佐藤先生自身新しい自分を開拓したいと先ほど仰っておりましたし。」
「うーん、確かにそうですね。それじゃあこんな感じでどうですか?」
「どんな?」
「月が導く異世界道中でありふれた職業で世界最強になった勇者四人に巻き込まれたユニークチートは異世界行ったら本気出して謙虚堅実をモットーに第二の人生で魔法を極めるけど八男ってそれはないでしょう、みたいな感じでどうでしょうか?」
「却下っ!!!」
「どうしてですかっ!?」
「どうしてもこうしても無いですよ!!完全にぱくりじゃないですか!完全にどっかのサイトの人気ウェブ小説大量にパクっただけじゃないですか!?アンタ作家生命終わりにしたいんですかっ!?」
「そこはインスパイヤァって言ってくださいよw」
「貴方には作家としての誇りってモノが無いんですか!?盗作は作家が一番やっちゃいけないことでしょう?」
「ばれなきゃ犯罪じゃ無い」
「ばれますよ!ネットの情報網舐めないでください!あっ、という間に拡散しますからね」
「どうせスレの連中なんてまともに感想書く気なんて在りませんよ。荒れれば良いと思ってるんですよどうせあいつらは。」
「そういうのは思ってても言っちゃいけません!何年作家やってんですかっ!読者を大事にしてくださいっ!」
「えー、どうせ読者なんて絵でラノベ買うんですし、パロったもん勝ちだと思うんですけどね」
「そういうのも言ってはいけません。確かに絵に関しては否定できない部分もありますが、ソレはあくまで内容が伴わないと意味がありません。表紙買いしてorzしたなんてことはコミケではよくあることなんですよ」
「竹内氏も結構過激な発言だと思うんですが」
「あくまで私個人の意見です。」
「実体験ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・違います」
「ずいぶん間がありましたね」
「・・・・・・気のせいです」
「そうですか。まあ、あまり深くは聞きませんけど」
「そうしてください。ああ、話がだいぶそれましたね。ソレで次回作の内容なんですけど」
「異世界転生モノで」
「そこはどうしても譲らないんですね」
「はい」
「はぁ・・・・・・分かりました。それじゃあ、とりあえずソレで一本書いてください。とりあえず今日は大まかなプロットだけ決めて、それで佐藤先生が書き上げてからと言うことにしましょう」
「分かりました。それであらすじなんですが」
「・・・・・・さっきみたいなやつは無しですよ?」
「分かってますよ。それでですね、魔王も勇者も戦争も無い平和な異世界に転生した主人公が自分に宿ったチートを利用して世界を支配するって話にしたいんです。」
「成る程、ダークヒーローのような路線で行くと?」
「はい。主人公がありとあらゆるド汚い手段を使って絶望をまき散らしながら異世界を侵略する感じで」
「う~ん、読者層が限定されそうな気はしますが、それでも上手くハマれば一定の固定客を掴めそうな感じはしますね」
「でしょう。とりあえず主人公は初っぱなからヒロインをレイプします」
「ええっ!?」
「んで、国のイケメンは全員死刑、ブスも死刑、老人も死刑、美女、美少女、美ロリとショタだけを残して残りは全員殺します。ここまでで起承転結の“起”の部分ですね」
「ドンだけ鬼畜な主人公!?しかもショタって!?えっ、主人公男ですよね!?両刀なんですか!?導入部分だけで酷いな、おい!?」
「んで、他国に戦争ふっかけます。もちろん主人公圧勝。二秒で大国に勝利」
「早い!主人公強すぎませんか!?っていうか二秒ってそれどう描写しても二行位で終わりますよね!?」
「大丈夫です、カルピス小説なので」
「ラノベでカルピスってしちゃいけないでしょうっ!」
「そして、大国に勝利したところでライバル登場」
「ようやくですか。やっとまともな・・・・・・」
「主人公の弟」
「ああ、良かった。割と普通だ」
「そして、主人公自身でもある」
「なんか哲学的な存在になった!?」
「弟の決め台詞“いつから私が弟だと錯覚していた”は絶対流行らせる」
「もうホント師匠に土下座しろよお前」
「そして兄弟の決闘」
「ふむふむ」
「弟の勝利」
「主人公負けたっ!?」
「そして、弟はヒロインをレイプ」
「兄弟そろって鬼畜過ぎる!?ヒロイン報われなさ過ぎでしょう!」
「そして、ヒロインは死ぬ。名前も出ないで」
「予想以上に救われないっ!ていうかせめて名前は出しましょうよ!」
「そして弟は知らなかった。兄は実はまだ生きていたと言うことを」
「あっ、良かった主人公死んでなかったんですね・・・・・・あれ?死んでた方がよっかったのか?」
「そして、再びの決闘」
「ふむふむ」
「死闘の末、兄弟は世界の八割を崩壊させ和解する」
「王道だ!王道だけどなんかこの場合間違ってる気がする!世界ももはや産廃レベルになってるし」
「そして、兄弟仲良く異世界を支配して幸せに暮らしましたとさ」
「う~ん、なんか色々釈然としない様な気がしないでもないですが」
「でも、絶対面白くなると思うんです!」
「一体その自信はどこから出てくるんですか。・・・・・・はぁ、分かりました。では、それで大まかで良いので書き上げてきてください。」
「了解です。」
そして、数日後
「竹内氏、書き上がりました」
「お疲れ様です。それでは早速読ませて貰いますね」
「はいっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・佐藤先生?」
「何ですか?」
「これ打ち合わせの内容と全然違うんですが・・・・・・」
「ええ、うちに帰って冷静に考えてみたらアレは無いわーって思いまして」
「ですよねー」
こうして、新しく刊行された佐藤先生の新作“どうやったって妹には勝てないよっ!”は絵師さんの力もあり八巻まで発行、アニメ化もされそこそこ売れましたとさ。
完