自由の身(室内に限るエディション)/シャワー
俺はあいも変わらず結衣の家のベッドに拘束されていた。
この光景が変わる時がいつかは来てくれるだろうか。
結衣は俺の隣ですやすや寝息を立てて寝ている。
幸せそうな顔しやがって、コンニャロ。
「ん……あ、おはよう♡聖くん♡朝チュンって奴かな♡」
「お前と寝た記憶は俺にはないです」
「酷い……忘れちゃったの?」
「存在しない記憶を作り出すな!」
結衣は悪戯っぽく笑うとベッドから降りる。
椅子の隣に置かれた椅子に座ると、俺の頭を優しく撫でた。
「やっぱり夢みたい……ずっと、聖くんが一緒に居てくれるだなんて♡」
「俺も夢みたいだ、幼馴染にこんな事されるなんて」
「これも私なりの愛のカタチだよ♡押し付けがましいかもしれないけど、聖くんを守る為なの。ね?♡」
結衣はニコニコと笑いながら、終始俺の頭を撫でていた。
正直、昔から結衣にはよく頭を撫でられていたので悪い気はしない。
だけど状況が状況、流石にちょっと怖い。
「今日は何しよっかなぁ……聖くんとなら何でもいいけど、聖くんが喜ぶ事が一番良いんだよね♡」
「俺が一番喜ぶのはこの家から解放してくれることだよ」
「それはだぁめ♡」
「さいですか……というか、手錠で大の字で俺を拘束するのだけは辞めてくれない? この体勢で寝るの中々辛いんだよ? わかる?」
「取扱説明書にはこう拘束しろって書いてあったから……」
「何の取扱説明書だよ……!」
こんな物、一体何処で買い揃えたのか。
通販だろうなぁ。
通販で手錠が買える時代か、悪しき進歩。
と言うか、この部屋で最も辛い事は娯楽がない事だ。
外の景色を見ようにも拘束されて見えないし、部屋の中を見るとしても俺しかいない。
色々辛いのである。
「手錠、外しても良いよ? うち、窓も扉も全部内鍵だし。鍵は私が持ってるあるから私以外出られないし。あと防音だから叫んでも聞こえないよ♡」
「俺を監禁する為の完璧な仕上がり、俺が大工だったらこの建築に見惚れてるね。なら手錠外してくれよ……」
「良いよ、でも……無駄なのに逃げようとしたら、わかるよね?」
結衣から圧を感じる。
小さい蜘蛛とか蚊とかなら殺せる程度の圧。
内鍵空いてないかギャンブルをしたかったが、その意思も圧でかき消された。
警察、頑張ってお仕事してくれよ……!
俺は色々と、諦める事にした。
だが些細な抵抗は辞めない。
俺なりの唯一の結衣への抵抗手段なんだ、辞めてたまる物か。
「はい、外れたよ♡これで自由の身だね〜♡」
「自由の身、室内に限るエディション。んじゃ、この調子で玄関の内鍵も開けてもらって」
「そんなに出たいのかな? ここが幸せだよね?」
「あっ、幸せですぅ……」
先程些細な抵抗はやめないと言ったばかりなのに、早速圧で萎縮してしまった。
結衣ってこんなに圧が強かったんだ。
「とりあえずこの部屋から出たい! 一面俺しか居なくて気が狂う!」
「私はこの部屋、好きなんだけどなぁ……」
「感性の違いレベルMAXって感じだな」
俺は部屋から出ると、爆速で玄関に向かう。
ドアノブをひねり、外に出ようとするが空くことは無い。
「こうなったら強行手段だ……! ドアノブに格闘マーシャルアーツ! ダメボ乗せ!」
ドアノブに向かって思いっきり蹴りをかます。
だがドアノブはビクともする様子が無く、逆に俺の足が傷んだ。
「ファンブルだよ……」
「ひ、じ、りく〜ん♡ 何やってるのかな〜?♡」
「これはですね……耐久テストというかなんと言うか……許してください!!!」
「次やったら、あの部屋にもう一回行こうね〜♡」
「はい……」
俺の無謀な挑戦は、儚くも大失敗に終わった。
──────
俺はリビングのソファに腰掛け、テレビを見つめていた。
テレビなんて見るのは久しぶりだ、大概動画配信サイトやSNSばかり見る物だから。
見ている理由は至極単純、行方不明の情報が出ていないか確認する為。
まぁ、たった一日帰って来ない程度で行方不明なんて冗談も甚だしいと思うが。
「聖く〜ん♡シャワーの時間だよ〜♡」
「良かった、人間としての最低限の生活は保証されてる。トイレには着いてこられるけど」
「お風呂にも着いていくよ♡」
「ワッツザット!」
この家にいる限り絶対に俺に自由は無さそうである。
結衣に手を引かれ、お風呂場に連行される。
「聖くん、私の裸見たい?♡」
「隠してくださいお願いします」
「聖くんになら全部見せても良いのに……最近買った水着で良いかな♡」
「それでお願いします……」
風呂に一緒に入らないで欲しいのが最大の願いなのだが、俺に結衣の選択を断る権利は無い。
俺は風呂場のよくわからんうちのはいつもカビてる椅子みたいなのに腰掛け、結衣を待つ。
「お、ま、た、せ♡じゃじゃ〜ん! どう、かな♡」
結衣の水着姿はそれはそれは抜群のプロポーションで、世の中の男子なら猿に退化してしまうに違いない。
だが俺にはあまりにも「無」であった。
何故なら性の欲求より自由への欲求の方が勝っているから。
「ニアッテルゾー」
「ぶぅ……何で棒読み? まぁ、それも聖くんらしくて良いけどね♡それじゃシャンプーしよっか♡頭貸してね♡」
「シャンプーくらい自分で出来るよ……おわっ、触るな触るな!」
結衣が心地よい力加減のシャンプーを泡立たせた手で頭をごしごしと洗い始める。
そのテクニックはまさに極上、スパとかにいる気分であった。
すげぇ……本当に頭洗うの上手い人ってこんなに力加減上手いんだ。
俺の結衣への好感度が5くらい上がってしまった。
このままでは結衣のスーパー彼女パワーで俺は攻略されてしまう。何とかせねば。
「大丈夫、こっから先は俺が洗うよ……」
「だ〜め♡聖くんは全部私にお世話されなきゃダメなんだよ? それがこれからの聖くんの当たり前になるから♡」
「嫌だよ! 俺赤ちゃんじゃないよ!」
「私にとっては可愛い赤ちゃんみたいな物だよ♡」
「はい……」
俺は黙って結衣に頭を洗われる。
凄く気持ちいいが、羞恥心が出始める頃だ。
同年代の幼馴染の女の子に水着姿でシャンプーされるなんて、普通の男子なら垂涎モノであろう。
実際にやられてみると、凄く恥ずかしい。
「はい、あわあわになったよ〜♡それじゃ、シャワーするね?」
「おう……アッ゛! 冷たい! 結衣、出始めは冷たい!!!」
「聖くん、ごめ〜ん! 聖くんにこんな事出来るって思ってたら嬉しくて細かい所に気が向かなくなっちゃった……これからいっぱい愛してあげるから、許してね♡」
心臓がどこかに旅をし始めてしまうくらいビックリした。
結衣はたまに、こうやってたまに抜けてる所がある。
俺の監禁に関しては完璧だったが、いつも通り抜けていて欲しかった。
「はい、暖かいよ〜♡しゃわ〜!」
「何その擬音……ふぅ、やっと終わ」
「もう一回洗う?♡」
「いや〜! 本当に最高のシャワーだったな! これ以上とない!」
結衣にシャワーを浴びさせられながら、軽く話し合う。
この光景だけ見れば微笑ましいだろうが、俺は今監禁されているんだ。
絶対に絆されてはならない……絶対にだ。
シャワーから脱衣所に戻ると、結衣にタオルで頭を拭かれる。
優しい手つきで拭く物だから、俺はさっきから異様に眠くなってきてしまっている。
「結衣、俺眠いから寝ていいか……」
「良いよ♡一緒にお昼寝しようね♡」
結衣に無理矢理手を繋がれながら、俺が最初に拘束されていた部屋のベッドに戻り、勢いよく横たわる。
結衣も隣に横たわり、優しい吐息を立て始める。
ここから脱出する策はまだ無いが、俺は絶対にここから出てみせるぞ。
そう考えながら、俺は目を閉じた。
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