自らの居場所
AT7「外出」
俺は寝坊したらしい。
起きたらそこは相変わらず白い俺の寝室で、俺はその扉がノックされる音で目覚めた。そして何でノック・・・・?と思ってる間にその扉が荒々しく開かれて。
「もう!いつまで寝てる気なのゼン!!」
すごい勢いで入ってきたのはレイだった。そう長くない髪を後ろで縛って、赤いTシャツにサマージャケットを羽織っている。下は黒の短いスパッツ。
そして何故かその瞳は両方とも黒だった。カラーコンタクトだろうか。しかし何でそんなもんを?
「もう九時だよ!みんな待ってるんだからさっさと着替えて身支度して外に出る!!」
わけのわからないまま引っ張り起こされて寝室から追い出される。なぜ叩き起こされたのか、なぜレイがここにいるのか、いろいろ謎はあったがとりあえず寝ぼけ顔のまま女の前にいるわけにもいかないので、浴室に行ってバスタブの蛇口から水を出して顔を洗い、寝癖を直した。そういえばタオルもなかったので仕方なく服の袖で顔を拭く。
そして浴室から出るとレイは仁王立ちで俺を待っていた。
「ほら!さっさと着替える!そのしわくちゃのシャツで外に出るつもり!?」
「そ・・・・・・外・・・!?」
「そうだよ!いつまでも真っ白な部屋で暮らすつもり!?今日は一日買出しだよ!!」
レイに背を押されて、俺はとりあえず急かすレイに疑問をぶつける。
「ま、待てって!金は!?俺一円も持ってないぞ!?」
「カズさんがいくらでも貸してくれるでしょ!」
「カズが!?」
カイ、と言われれば何とか納得はしただろうが、カズと言われれば話は別だ。あの煙草ばっかり吸ってる死神野郎が、人に金を貸すような神経を持ち合わせているようには思えない。
「カズさんは戦闘班のリーダーだから私たちの給料管理してんの!ちょっと借金して任務こなして返せばいいでしょ!!」
なんだそういうことか。ちょっとほっとした。だがすぐに次の問題に気付き、またレイに制止をかけた。
「待て!俺着替える服持ってない!」
これにはさすがに背を押すレイの力も止まった。
「・・・・・まあ、そうか。ゼン、いきなり拾われて来たからねえ」
それからレイは少し考えるような仕草を見せて、そして名案を思いついたらしく手をぽんと叩いて、何も言わず部屋を出て行った。
なんだったんだ?そう思う暇もなく、レイはあっという間に帰ってきた。
「ラクトが貸してくれるって。サイズもほとんど一緒だろうから」
「は?」
「は?じゃない!ほら、そうと決まったらさっさとラクトの部屋に行くよ!事態は一刻を争うんだから!!」
そんな切羽詰った状況には思えない。ただレイが何をしようとしてるのか、俺に何をさせようとしてるのか、よくわからなかった。いや、レイは俺に迅速な行動を求めているんだろうけど。
部屋から出るとそこにはハクユとラクトがいた。二人して「おはよー」と笑う。
そして二人ともレイと同じく、両目とも瞳が黒くなっていた。やっぱり、カラーコンタクトなんだろうか。
「今日はみんなで買出しに行くの。それにゼンもついていっていろいろ買うの。私たちも手伝ってあげるから。アーユーアンダスタン?」
「・・・・・・・・わかった」
それを最初に言って欲しい。
「よし。じゃ、ラクトの部屋に行こっか!!」
レイは一人、元気だった。
ハクユとレイを廊下に残して、俺とラクトはラクトの部屋に入った。
ラクトの部屋はさっぱりとしたラクトらしくシンプルなものだった。テーブルに椅子だったレイの部屋に対し、ラクトの部屋は背の低いテーブルにソファだった。ただソファの上のダイヴしたらもふもふしそうなどでかあざらしクッションが異様に存在感を放っていて、俺が絶句して見ているとラクトは「応募したら当たっちゃってさー」と笑った。
ラクトは奥の扉を開けて寝室に向かう。それに俺はついていく。
「別に何でもいいよなー?」
寝室のタンスをひっくり返しながら聞いてくるラクトに「ああ」と返す。
「じゃ、こんなんでいいか?」
しばらくして放られてきたのは白のTシャツに白に青いチェックのジャケット。それに適当なジーンズ。文句言うつもりはないから礼を言ってさっさと着替えた。だいたいサイズは合っていて、不自由はない。
「なかなか似合ってんなー。あ、あとこれも忘れちゃいけないな」
不意にパフ、と頭に帽子をかぶせられた。同時に視界もさえぎられて、俺はそれをかぶり直す。
「あー、でも髪長いから帽子じゃ隠せないのか。どーすっかなー」
この帽子はやっぱり俺の目立ちすぎる髪を隠すためのものらしい。外に出る以上、緋粋やクラスメイトに見つかるわけにはいかない。
「ゴムとピンないか?それで束ねるから」
「ん?ああ、それならハクユが持ってんじゃないか?」
ちょっと待ってろ、と言い残してラクトは寝室を出て行き、そして大して待たないうちに帰ってきたその手にはゴムとピンが握られていた。
「これでいいか?」
「ああ」
短い返事をして、おれは手早く髪を結いピンで留める。ラクトは女みてーと笑ったが気にせずうるせーと返して帽子をかぶった。
「あとこれな」
「あ?」
最後に差し出されたのは、暗い色のサングラス。これは意図がわからなかった。
「目。それもバレたらまずいだろ」
あ。そういうことか。
出かけるとき髪は大抵こんな風に束ねて帽子をかぶって隠すけど、目は髪に比べて大して目立たないから気にしたことはなかった。帽子を目深にかぶってしまえば隠れるし。
でも今は絶対にバレるわけにはいかない。俺は黙ってサングラスを受け取りジャケットの胸ポケットに突っ込んだ。
そういえばレイもハクユもラクトもカラーコンタクトをしているのはこういう訳だったのか。しかしラクトの灰色の髪も目立つと思うが、隠すつもりはないらしい。知人が東京にはいないのか、・・・・・・・もしくは知人自体いないのか。
「よし。じゃ準備オッケーだな!」
だけどラクトは、にっこりと笑って俺の背を叩いた。
ラクトは元気だった。
俺の金の管理はレイが受け持つことになった。
不満はなかった。カズから借りてきた二十万という大金を持ち歩く度胸もなかったし、家具家電を買うような大きな買い物はしたことがなかったから、レイにいろいろ教えてもらういい機会だった。
そして俺はレイとハクユとラクトと共に、初めて地上一階へ行くエレベーターに乗った。
そのエレベーターを降りたところは、倉庫のような物置のようなそれでも何もない部屋だった。目の前に扉がひとつあるだけで、本当に窓ひとつない。
レイたちが歩き出したのについていって、俺たちは扉の向こうに出た。
目を差した一筋の光に、思わず目を細めた。
それはずいぶんと懐かしく思える太陽の光だった。
そこは薄く日が注ぐ裏路地。だけどそこの曲がり角を出れば喧騒の真っ只中に入るようなそんな裏路地。そこに、レイとハクユとラクトとそして俺が立っていた。
思わず後ろを振り向いた。今いる場所があまりにも日常に近くて、またしても名残惜しく今までのは幻だったのではないかと思ってしまったからだ。
俺たちが出てきた扉は、確かにそこにあった。その先には俺たちが上ってきたエレベーターがあって、その下には白一色の壁に囲まれたAFOWのアジトがあって、その中に昨日もらった新しい故に何もない俺の部屋があるんだ。
「この扉、『力』の幻術で見えないようになってんだ」
扉に振り返った俺が、こんなところに何故扉があるのか疑問に持ったとでも思ったのか、ラクトは不意にそう言った。
「だからここから誰かが出てきても、見えないしもちろん気付かない。見えたとしてもオロドジウムの感知センサーがあるから、開ける前にロックがかかるけどな」
ふーん。と俺はラクトの言葉にそれだけの感想を覚えた。どちらかというと幻術という言葉のほうが気になった。そんな「力」もあるのか。
「・・・・・・あ!!やっと出てきた!!」
不意に右手から底なしに明るくそしてでかい声が降ってきた。びっくりしてそっちを見ると、目が覚めるような桜色の髪をした女が元気に手を振っていた。
女の横には二人の男がいる。一人は女と同じ年頃の黒髪の男で、俺と同じぐらいの年に見えた。こいつは女と同じようにこっちに手を振っている。
もう一人は二十歳を過ぎたあたりのやはり黒髪の男で、もう春だというのに冬用の黒いロングコートを着て壁に背を預け、こちらを見ようともしない。
「久しぶりね、ユオウ」
誰だ?と俺が思っている間に、レイはそう言いつつ桜色の髪の女の元へ小走りに駆け寄る。
え?
まさか・・・・・・仲間?
仲間だとは思わなかった。だって目は両目とも黒いし・・・・・・あ、カラーコンタクトか。
「ちょっとゼンの準備に時間かかっちゃって。ごめんね」
「うん。大丈夫。私たちもセトさん引っ張り出すのに苦労してさ。出て来たのついさっきなんだ」
レイとユオウと呼ばれた女がそんな他愛もない話をしている間に、俺たちはみんなに歩み寄る。
「あ!この人がゼン?」
不意にユオウが俺の存在に気付き、にこーっと笑みを向けて手を差し出した。
「私ユオウ!同じ戦闘班のメンバーだよ。よろしくね」
「・・・・・・ああ。ゼンだ。よろしく」
少し無愛想な挨拶だと思ったけれど、それはユオウが元気なせいだと思うことにしてユオウの手を握る。
俺に比べて小さい手だ。年は同じぐらいだと思ったのに。
そういえば女と握手するなんてほとんど初めてだ。こんな機会があるとは思わなかったのに。
ユオウの桜色の前髪はピンで留めてあって、そのむき出しになった額から見えるのは、おそらくオロドジウムが混じった―――AFOWの一員である証のタトゥー。それはハクユのそれに似た水晶のような鱗のような模様が、花のような形をかたどったタトゥーだった。
「ゼン。ユオウのことは前にも話したよね。ほら、私の相方最長記録保持者だって」
横から割り込んできたレイの言葉に、ああ、と急に腑に落ちたような感じがした。
ユオウってどっかで聞いたことあるなあとは思っていたけれど、あの噂のユオウだったとは。
「あと、ゼン。こっちはキョウ。若いけど改良班の頭」
レイに紹介された男――キョウというらしい――は「よろしく」と頭を下げた。
キョウのタトゥーは服の下の見えないところに彫ってあるのか、俺の目が届く場所にはなかった。俺も一応、少しだけ頭を下げた。
「そしてこの人がセトさん。処理班の一員。セトさんには今日は一応の保護者としてついてきてもらうから。ほら、一応私たちみんな十代だし」
さっきユオウ、セトを引っ張り出してきたって言ってなかったか?でもセトは嫌がってるような仕草を見せないし、気にしないことにしよう。
不意に壁に寄りかかって横顔しか見せなかったセトが、壁から背を離して体ごとこっちを見た。今まで見えなかった左目に眼帯をしている事に気付いた。
次に気付いたのはセトの異様さだった。
俺より少し背が高い。セトは俺を見ている。ちょっと見下ろしている。
その黒い右目に、おおよそ生気とか光とか言われるようなものが全く見当たらなかった。こういう目を、虚ろ・・・・・・というのか?
それにセトは何も言わない。薄く赤い唇は引き結ばれたまま微動だにしない。しかも何だ?その動かない唇の端からだらりと垂れた白い・・・・・・ひも?
そして次にとったセトの行動に気付かされたのは、セトのおかしさだった。
不意にだらりと下げられたセトの右手が動き、ゆっくりとロングコートのポケットにもぐりこむ。しばらくごそごそを何かを探るような動きをしたあと出されたセトの手には、ひき飴がつままれていた。幽鬼のような白く細くそして長い指が白いひもをつかみ、そのひもに下がっているのは緑色の・・・・・つまりメロン味の飴。
それをセトは右目の前にひどくゆっくりとした動きで持っていった。
そしてその飴が視界に入った瞬間、セトの顔に浮かんだのは、笑顔、だった。
右目がそっと細まり、今までぴくりとも動かなかった唇が小さく笑みの形をかたどる。その目は、虚ろでは・・・・・ない。
そしてセトはその笑顔のまま、そのひき飴を俺に差し出した。
・・・・・・・は?
「セトさんなりの挨拶だよ。受け取ってあげな」
戸惑う俺に、レイは助け舟を出してくれた。
これが挨拶・・・・・?と思いながらもひき飴を受け取って、包装紙などに包まれているわけではないひき飴をポケットなどに突っ込むわけにもいかず、仕方なく俺はそれを口に放り込んだ。ひもまで口の中に入れないから、俺もセトのように口の端からだらりとひもを垂らすわけになる。口の中に広がるのは、甘い、メロンの味。
それを見てセトの笑みが深まったように見えたのは・・・・・・気のせいだと思っておこう。
「一応言っとくけどね、セトさん、しゃべれないの」
「・・・・・・え?」
ぼそりとささやかれたレイの言葉に、思わず声を漏らした。
「しゃべれないんだかしゃべらないんだかよくわかんないんだけど、今のところ私たちの中でセトさんの声を聞いた人はいないの。それにどういうわけか動きもゆっくりしてて鈍いし、それに一時的だけど時々目が見えなくなっちゃうこともある。けっこう頼りになる人なんだけどね、ちょっと体とか不自由な人なの。できればあんまり気にしないであげて」
「・・・・・・ああ」
身体障害者か。哀れむのはなんかいいとは思えないから、さっきみたいに奇妙な奴、とでも思っていればいいんだろうか。それもなんだかな。
セトはハクユやラクトに俺と似た動きでひき飴をあげていた。二人とも嬉しそうにひき飴を口に含んでいて、その様子をやっぱりセトは笑みを深めて見ていた。
・・・・・・奇妙だけれど、いい奴なのかもしれない。
「よーし!じゃ早速行こっか!」
ユオウは元気にそう言った。
いくら髪や目の色を隠していても、七人もの若者がぞろぞろと歩いていく姿はちょっと目立ったものだった。それにそのうちの二人は帽子とサングラスでなんか怪しい俺と、春なのに黒いロングコートでどこか怪しいセトだ。なかなか目立つ。
ということで目的別に二組に分かれることになった。食材調達目的のハクユとラクトとユオウとキョウの四人と、俺の家具家電調達目的の俺とレイとセトの三人。レイは俺の金持ってるしいろいろ教えてもらうつもりだったからいいけど、・・・・・セトはさっきからひき飴ばっか食って後ろをついてくるだけだ。役に立つのか。
「おっきい買い物するんだから大人いたほうがいろいろいいのよ」
とレイは言うけど。「それにセトさんは頼りになるって言ったでしょ」
とりあえず俺とレイとそれにセトは、昨日なくて困った皿やテーブルやタオルを買おうと適当な百貨店に向かった。そこで買ったのは平皿と小皿と小鉢とお椀と箸を一つづつと、足が折り畳める白いテーブル、それとタオルとバスタオルを一枚づつ。とりあえずそこではそれだけを購入して、次は洗剤とかスポンジとかシャンプーだね、とレイと相談しながら店を出たとき。
不意に後ろを黙ってついてきていたセトが、足を止めた。すぐに俺たちもそれに気付いて立ち止まる。
「セト?」
振り返るとセトはひどくゆっくりと首を振る。それが何を意味しているのか、俺にはわからなかった。
「セトさん、また目が見えなくなっちゃったんですか?」
「・・・・え?」
困惑する俺を余所にセトはまたゆっくりとうなずき、なぜかロングコートの前を開いてそこから白い杖を取り出した。それは携帯用らしく短く畳んであって、せとは長く伸ばしたそれで地を突く。そして杖で地を突きながら踵を返してふらふらとどこかに歩き出してしまった。
「あ、おい、ちょっと・・・・・・」
目が見えないのに・・・・と言いかけたところを、大丈夫だよとレイに制止される。
「セトさんは目が見えなくなっても多分大丈夫なの。耳がいいから人とぶつかることないし、ここら辺の地形完璧に覚えてるから建物とかにもぶつからない。まあセトさんの場合人は向こうからよけてくれるから建物とかに気をつけていればいいんだけどね」
まあ確かに奇妙なセトの周りには誰もいない。よけるというかさけてる。セトなら目が見えてても見えてなくても気にしなさそうだけれど。
「それにセトさんけっこう小さい頃から目が見えなくなっちゃうときあったらしいし、杖があるから大丈夫よ」
小さい頃からってことは目が見えないことにも慣れてるってことか。案外セトも苦労してるのかもしれない。関節でも悪いのか動きは鈍いし、目は見えなくなるし、しゃべれないんだかしゃべらないんだかわからないけど何も言わないし。目に生気とか光とかが見えないのは、そういう生活を続けてきた結果なのか。
「じゃあ、次は家電でも買おっか」
セトの背中が人垣の向こうに消えて、レイは気を取り直した風ににっこりと笑って言った。
結局その後買ったのは炊飯器と小型テレビとカーペットと本棚だった。
「今回はこのくらいにしとく?そろそろハクユたちも買い物終わってるだろうし」
「・・・・・・・ああ」
「あ、でも服とか買ってないね。近くにあったっけ」
「いい」
「え?」
「家に取りに行く」
最初からそのつもりだった。家に日常品ならいくらでも置いてあるんだ。金はできるだけ使いたくない。今なら緋粋は学校だしお袋も仕事だ。鍵はかかってると思うが風呂場や台所なら窓から入れるだろう。
泥棒みたいなことをやろうとしてる自覚はあるけれど、気にしないことにした。
「ああ、そっか。家、近くにあるの?」
「ああ。板橋だ」
ここは新宿だ。東京の中心と言っていいここに、AFOWのアジトはあった。
「そう。でも先にハクユたちと合流しちゃお。もうすぐお昼だし」
「・・・・・・ああ」
レイの後ろをついていって、俺は少し憂鬱にため息を落とした。
どうやら俺の知らぬ間に、レイはハクユたちと待ち合わせの場所を決めていたらしい。その証拠にレイは何の迷いもなく目的地にすたすたと歩いてゆく。
「なあ、待ち合わせ場所ってどこなんだ?」
「んー?えっとね、ゲームセンター」
何故にゲームセンター?と思ったが別に口にだろうとは思わなかった。
「もうすぐ着くよ。あ、ほらあそこ」
そう言ってレイが指差したのは、なかなか大きなゲームセンター。そしてその入り口付近に、ハクユたち五人が集まっていた。途中で別れたセトもいる。
「、あ。やっときたよ」
一番最初に気付いたのはユオウだった。
「もー遅いよレイ!待ちくたびれた!」
「ああ、ごめん。ゼンの買い物が多くて」
レイとユオウはまた他愛のない話を始める。やっぱり仲がいいのだろうか。
その間に、俺はしゃがみこみガチャガチャに引っ付いて不審な人物になっているラクトを見つけた。
・・・・・・・・・・なにやってんだ?
ラクトは俺に気付かぬ様子で、真剣にガチャガチャの中身を見つめている。
よく見るとそのガチャガチャにあるのは「肉食帝国フィギア200円!」の文字。
「肉食帝国」?どっかで聞いたことあるな、と一瞬小首を傾げたがすぐラクトが毎週見てるというアニメのことだと思い当たった。
・・・・・・・・・そういうことか。・・・・・・・・・もはや何も言うまい。
「ゼン。買い物済んだの?」
不意にハクユが話しかけてきて、「ああ。まあな」と適当に返事を返す。
「じゃ早速お昼食べにいこっか。近くにおいしいラーメン屋さんあるんだ」
何故ラーメン?と思ったけれど、みんなそんな疑問は持たなかったようでむしろユオウなんかはやった!と歓声を上げる。
もしかしたらみんなでこうやって外出するときは、よく行く店なのかもしれない。もしくは有名でほんとにおいしいラーメン屋さんだったり。俺はここら辺の地理に詳しくないからよくわからなかったけれど。
みんな意気揚々と移動を始め、俺もそれについてゆく。
こうしていると先日まで散々悩み考えていた「自分たちは普通の人間じゃない」という事実が馬鹿らしくなってきた。確かに自分には人間ではありえない力があって、それを悟られてはいけないかもしれない。こうして外に出るときはカラーコンタクトなんて付けて目の色を隠さなきゃいけないかもしれない。
でもそれだけで何も気にせず外を歩けるし、仲間たちとどこへでも行けるし一緒に話をして笑いあったりもできる。
普通の人間と、何も変わらない。
「どうしたの?ゼン」
物思いにふけっていたらいつの間にかみんなから遅れていたらしい。みんなが振り返って、俺を見ている。
みんなが。仲間が。
思えば、俺にはこんなにもたくさんの仲間ができていたんだ。表の世界に居た頃は・・・・・学校に通ってた頃は、仲間なんて一人もいなかった。みんなが俺を恐れ近づこうともしなかった。
だから俺は孤独を愛して毎日不良と喧嘩しまくって怪我してもふとした瞬間に悲しくなっても一人で強く生きていようと決めたんだ。
でも。
ここは違う。
ここでは俺は弱くて小さくて情けなく、とんでもない世界に振り回されてるたった一つの存在だけど、それでも隣には仲間が居た。
表じゃ強く独りでいなければならなかったけれど、ここは弱くても独りじゃない。
「・・・・・いや、なんでもない」
案外こっちのほうが性に合ってるのかもしれないな。
だから俺は、新しい初めての仲間に笑みを向けて、精々かっこよく見えるように胸を張って歩み寄った。