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第97話 恍惚至極のトリップ状態と生姜を欲する心意気!

「そっか。ジャスミンって凄い考えを持ってるんだなぁ~。話聞いてたら、なんだか(スケール)っつーか、その大きさに圧倒されちまうよ」

「うにゃ? にゃははっ。そんなことないよぉ~、お兄さん。ボクは商人だからさ、仕事柄色々な人と商売をしながら実際にこの目で見たり、この耳で聞いたりしてるからそう思ってるだけなんだよ。だってさ、人それぞれ違った考え方や思いがあるわけでしょ? だったらそれに対する正解なんてもちろん存在しない(・・・・・)わけだしさ、結局は自分自身を信じるしかないんじゃないのかな?」

挿絵(By みてみん)


 俺は今ジャスミンに対して懐いている思いを口にすると謙遜なのか少し照れながらも、「お兄さんはお兄さんのなりの答えを見つければいいんだよ♪ そしてそれを信じること。それに尽きるとボクは思うよ!」っと励ましてくれていた。


 確かに世の中のすべてにおいて、『良い』か『悪い』その両極端だけでは語れないことばかりである。ギルドに対する不満の声をよく耳にするのだが、それと同時に仕事を真面目に働きさえすれば飯はどうにか食え生きていくことができていた。


 庶民生活の基盤を作るのは当然『国』の役目である。だがしかし、その役目・役割をギルドが担っているからと言って、今まさにこの瞬間に(・・・・)庶民達の生活が破綻しているわけではなかったのだ。もちろんギルドが利権の『肝』を握ることで多大な恩恵は受けているのは揺るがない事実である。だがその分、それなりの苦労もあるだろうし庶民達から要らぬ恨み(・・・・・)を買っているのだから、表だってギルドを強く批判できないのが本質なのかもしれない。


挿絵(By みてみん)

「ふふふっ。よくもまぁ~、私がいるって言うのに堂々と臆する事もなくそんなことを言えたものね!」

「「あっ……」」


 それまで黙っていたマリーが、「ようやく私の出番(ターン)ね!」っと話が終わったタイミングを見計らって口を開いた。俺もジャスミンもマリーが傍にいることをすっかりと忘れていたため、「やっべっ。今の話聞いちゃって?」などと揃いも揃ってわざとらしく驚いてみせる。


「あっ、いやマリー誤解すんなよな。な、ジャスミン?」

「う、うん。別にボクもギルドの存在自体を否定したかったわけじゃないよ」


 俺とジャスミンは気を圧され、言葉を濁しながらマリーに言い繕う。


挿絵(By みてみん)

「ま、ジャスミンと旦那様が述べたことも(あなが)ち間違いではありませんしね。マリーさん……ガンバッ♪ くくくっ」

「シズネ……貴女、今私のこと蔑んでいるでしょう!!」

「いえいえ、滅相もない。これ~~~っ、ぽっちも蔑んだりなんてしておりませんよ! ただまぁマリーさんも大変なんだなぁ~って思いまして、ぶっちゃけ哀れんだりはしているかもしれませんがね(笑)」

「それはね、シズネ。……同じ意味でしょうがっ!!」


 火に油を注ぐ係り筆頭であるシズネさんがマリーの肩をポンポン♪ っと叩きながら、蔑んだ目と哀れんだ目の両方を()わる()わる差し向け慰めの言葉をかけていた。そして当の火を注がれたマリーはそんなシズネさんの物言いと態度に腹を立て、クルクルした綺麗な金髪を逆撫でして、その怒りの度合いをこれみようがしに表している。ついでにマリーはとても生姜(しょうが)を欲している様子である……あっ、違った。こりゃ誤字認識だったかもしれない。うっかりうっかり。


挿絵(By みてみん)

「もきゅ~~♪」

「きゃっ!?」

 

 シズネさんとマリーの喧嘩がまた始まると察したのか、もきゅ子が「喧嘩はダメなんだよ」っとマリーに抱きつき勢いを止めようとしていた。


「ぅぅぅ~っ。あ、相変わらず可愛いわねこの子(照)。これじゃあぁ~、シズネのヤツを怒りたくても怒れないじゃないのよぉ~♪ ねぇ~♪」

「きゅ~きゅ~♪」


 ぎゅ~っ♪ マリーはもきゅ子を可愛がるように抱きしめ恍惚(こうこつ)至極の表情を浮かべながら陶酔(トリップ)状態になっていた。さすがもきゅ子はウチのマスコット兼喧嘩仲裁人(ネゴシエーター)である。それもただ仲裁するだけでなく、その可愛さの虜になったマリーの毒気まで抜きにかかっていたのだ。


「(シズネさんやジャスミンも最強かもしれないけど、もきゅ子もある意味最強なのかもしれない。ってかウチの店、ただいま最強属性持ってるヤツ多すぎだろ。アマネも勇者だし、マリーはギルド長……凡人俺だけじゃねぇ?)」


 俺は今頃になって自分の立ち位置(ポジショニング)と、周りにいる連中がいかに特殊であるのかを思い知らされてしまう。


「ま、小僧よ安心せい」

「えっ?」


 そんなことを思っていると、いつの間にか背後にいたサタナキアさんから声をかけられてしまう。


「小僧や(わらわ)のように普通の人間(・・・・・)こそ貴重な存在なのじゃぞ。ほれ、よく見るがよいわ。この中でツッコミをできるのは、妾とお主しかおらぬじゃろうに? これはまさに地獄絵図と呼んでも良い状況なのじゃ!」

「サタナキアさん……」

(いやいや、アンタも普段は完全にボケ側(アイツら寄り)じゃねぇかよ。何しれっとした感じで俺とツッコミ役(同じ立ち位置)に並び立とうとしてやがんだよ? ……いや、だから大体アンタ、()じゃねぇんだってばっ! とりあえず擬人化してからやり直してきやがれっ!!)


 俺はサタナキアさんに対しても思うことがあり彼女の名前を一言呼ぶことで、それ以降だんまりを決め込むことで、心理描写オンリーで言いたいことを補ってしまうのだった……。



 常にボケとツッコミがランデブーしながらも、わりと真面目な話も打ち込みつつ、お話は第98話へつづく

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