ある男の二度目の生
スランプで連載作が書けないので短編を投下
ある男が居た。
その男は高校生時代の虐めが原因で引きこもった。
引きこもった結果、出席日数不足で留年となり、流れるように退学した。
幸か不幸か、男の家は名家と言えるほどの家ではないが、裕福な家であり、ギャンブルなどに手を出さなければ数世代は暮らしていける財産があった為、家族に放置される形で生活を支援されてニートなった。
ニートなった男は、世のニートの例に漏れずアニメやゲーム、マンガやライトノベルなどの、いわゆる二次元にはまりこんだ。
その中でも男が最もはまりこんだのはプラモデルやフィギュア作成の|立体物(2.5次元)だ。支援される資金で趣味に費やす額の約七割をつぎ込むほどだ。
しかし、男のニート生活は長く続かなかった。
男は年齢が四十を数える前に命を落とした。不摂生な生活を送っていたのが原因だ。
日用品や食料品、また趣味のプラモデルやフィギュア作成に関わる物などの、本人にとって必要な物の買い物以外は外に出なかった上に、暴食はしなかったものの、無類の酒好きでほとんど酔わない体質だった為に暴飲の毎日だったのだから、当然の帰結だろう。
しかし、男の人生はそこで終わりではなかった。いや、一度は終わったが、再開したと言うべきか。
神の気まぐれか、悪魔の悪戯か、男は記憶を持ったまま生まれ変わったのだ。
そこは地球とは別の世界であり、男が生前読んでいた漫画やライトノベルのような剣と魔法のファンタジー世界だった。しかし、エルフやドワーフ、獣人などの亜人種は存在しなかった為、それを知った時男はひどく嘆いた。
男はかつての人生を振り返った。生まれ変わったばかりで赤ん坊だったので、生理現象を除けば考える以外に何もできなかった為に、時間だけは沢山あったのだ。……暇をもて余したとも言うが。
そして男は悲嘆した。何も成せず、残せず、ただ家族に迷惑をかけただけのかつての人生を後悔したのだ。
後悔し後悔し後悔し……幾日も追想と後悔を繰り返し、男は決意した、今生は後悔しない生を送ろうと。家族に迷惑をかけない生を送ろうと。……幾日も後悔で泣きじゃくっていた為に、既に迷惑をかけまくっていたが。
時が経ち、自由にあるけるまでに成長した男は、後悔しない生を送る為の活動を始めることにした。今生でも貴族などの名家ではないが裕福な家に生まれた為に、貴族のような英才教育や、貧しい家の子のような労働とは無縁であったので自由な時間が豊富だったのだ。
そこは剣と魔法の世界、男は以前の人生には存在しなかった故に憧れた魔法から手をつけることにした。そして躓いた。
男には魔法の才能がなかったのだ。全く使えないわけではなかったのだが、前世の常識が邪魔をしているのか、上手く使えない。有効範囲が狭く、規模の小さな魔法しか使えないという有り様だ。
しかし、男の心は折れなかった。
ここで折れたらかつての二の舞だ。挫折するにはまだ早い。絶望するのはやれることをやりきってからだ。
魔法がダメなら、肉体の力を鍛えればいい。幸い、魔法な苦手だが、己の肉体に作用する身体強化の魔法は例外的に得意なのだ。
今はまだ幼いので武器の類いは持たせてもらえないが、持たせてもらえるようになる時の為に、どんな武器でも持たせてもらえるよう体を鍛えよう。また、もて余さないよう武器について学ぼう。
新たな目標を掲げ、男は歩きだした。
来る日も来る日も引きこもっていた前世の分を取り戻すかのように日夜外で体を鍛え、武器について学び……十と数年の時が流れた。
男は青年となった。
日々鍛え続けた男の体はがっしりとし、日に焼けた肌は冬でも色が落ちることがなくなっていた。
また、古今東西のあらゆる武器を扱えるようになった男は既成の武器では満足できず、武器を自作するようにもなっていた。前世から立体物の創作は得意だったのだ、当然と言えば当然だろう。
ある日、男は一振りの剣を作った。成人男性の身の丈ほどもある幅広の大剣だ。男のように体を鍛えていなければ扱うことは難しいだろう。身体強化の魔法があれど、地力が弱ければこの手の武器は満足に振ることはできないのだ。
本来は無骨な大剣なれど、男が作り上げたそれは鏡のように澄んだ剣身が美しく輝くため、一種の芸術品とも言える。
快心の出来に男自身、その剣に一瞬心が奪われた……が、鏡面となった剣身に映った我が身に現実へと戻された。
「俺……ドワーフじゃん」
幼い頃から鍛えた結果、過剰な筋肉故に背が伸びずがっしりとした日に焼けたその姿は間違うことなくドワーフだ。
亜人種が生まれた瞬間だった。