47:核を目指して-3
「dytyszyy!」
俺たちが今いる場所は、かつてのラルガの屋敷であり、庭にプールがあることと、壁に植物と動物の組織が混ざっている事を除けば、後は横に広いだけの極々普通の建物である。
そんな建物の屋根を突き破るように、メカラのフィラの口から機械の触手が伸び、俺たちを突き刺そうとしてくる。
そう、突き刺そうとしてきた。
「っつ!?体積がおかしいだろ!?」
「どうせ何かしらのレゲスでしょ!」
機械の触手の先端に鉗子、ハサミ、ドリル、針、ドライバー、メス、アンカーと言った凶器なのかただの作業用の道具なのかも分からない物を付けて。
3メートルを超えるような巨躯でもなお、収まらないと言い切れる量の機械の触手を口から吐き出して。
触手の一本一本を別々に動かして、こちらを殺そうとしてきた。
「うおっと!」
「品の無いマニピュレーター捌きだこと」
勿論、素直に受けてやる理由などない。
だから俺もラルガも屋敷の中を跳び回り、あるいは転がることで触手を避けていく。
「3……」
「喰らいなさい」
そしてメカラのフィラの攻撃を避けつつ反撃もする。
俺は触手を指差し始め、ラルガは少しの躊躇いもなくメカラのフィラの頭部に向けてショットガンを放つ。
「えlmb」
「4……っち」
「やっぱり効果なしね」
だが、俺のカウントが進む前にメカラのフィラは口を閉じて機械の触手を自分の体から切り離す。
それと同時にラルガの銃弾がメカラのフィラの体を穿つが……その黒い煙のような身体は本当に煙のようで、銃弾は少しだけメカラのフィラの体を散らすが、直ぐに元通りになってしまう。
「こっちの情報は取得済みで、対策は練ってありますってか?」
「ま、こっちの情報収集のカウンターとして寄越しているんだから、当然と言えば当然よね」
「hytytytytyty……」
「で、一応聞いておくけど、イーダのレゲスって気体には効果があるのかしら?」
「マーキングは無理だな。煙の方は生物だからもしかしたら効果があるかもしれない」
「ぃおjぷ……」
メカラのフィラは口を閉じた状態で、何時でも飛び掛かれる姿勢を取りつつ、庭からこちらの様子を窺っている。
しかしこれは……厄介だな。
メカラのフィラと繋がっている触手を一本でもマーキングして、黒い液体に変えてしまえば、体内に直接黒い煙を送り込めるから、口の中が異空間だろうが、身体が気体だろうが、確実に仕留める事は出来るだろうが……今さっき躊躇いなく機械の触手を切り離した点からして、そう上手くはいかなさそうだ。
「とりあえず、余力を残しておける相手ではないと考えるべきね」
「jycl!?」
ラルガが手元のスイッチを押す。
すると庭に仕掛けられていたとても簡単な仕掛けが作動し……俺のレゲスによる黒い気体が大量発生する。
「lytぃjs!」
「うおっ!」
「へぇ……」
メカラのフィラから俺たちに向けて機械の触手が何十本と真っ直ぐに伸ばされる。
それは俺たちへの攻撃と考えるには少々ぬるい一撃であり、俺もラルガも簡単に避ける事は出来た。
では、その意図は何処にあるのか。
それは、触手が伸ばされ切った後、直ぐに分かった。
「ういlyじ……」
「マニピュレーターの中にストローもあったみたいね」
「何でもありだな……」
触手が引っ込んでいく。
黒い気体に覆われた庭ではなく、触手が伸ばされた先に向かって。
そして、そこには先程まで庭に居たメカラのフィラが、少々窮屈そうな姿で、少しだけ総体積を減らした感じを伴いつつ、口を閉じて立っている。
どうやら気体の身体の特徴を生かして、筒状の機械の触手の中を移動して見せたらしい。
「とは言え、逃げたからにはイーダのレゲス自体は有効と捉えてよさそうね」
「そう信じるしかない、と言う方が正しいけどな」
メカラのフィラは再びこちらの様子を窺っている。
だが、こうしている間にも読み取れる情報はある。
メカラのフィラが触れている動物素材や植物素材の壁や床に変化が見られない事からして、気体の体に俺のレゲスによる黒い気体のような分かり易い毒性は無い。
気体の体ではあるが、壁や床をすり抜けたりは出来ない。
機械の触手は口を開かなければ出せず、家財道具を動かせていない事からして、物に干渉出来るのはその触手部分のみ。
と言うところか。
「づmw!」
「受ける気はない!」
「さて、今の手札だと……」
メカラのフィラの口から再び機械の触手が伸ばされる。
数も多く、細かい動作も出来るそれを紙一重で避けるような真似は俺もラルガもしない。
だから、素早く距離を取ると、黒い気体の発生が収まった庭へと移動。
「これが一番かしらね」
「えlpbm!?」
ラルガがショットガンを撃ち、部屋の中に用意してあったそれ……爆薬を撃ち抜く。
すると当然のように爆発が起き、家全体が爆発し、メカラのフィラはそれに巻き込まれる。
だが……
「jydっちちちちち……」
「これも効果なし、と。やっぱりアレしかなさそうね」
「みたいだな……」
メカラのフィラは平然と爆炎の中から出てくる。
だから俺は右手に持ったナイフで軽く左手の甲を切って血を出すと、ナイフと『魔女の黒爪』を入れ替えて血を塗り付けることで、周囲に血の匂いを漂わせ始める。
そして『魔女の裁血』の力によって、俺の心拍数が高まり始め……
「mbcry?」
その姿に違わず嗅覚が鋭いメカラのフィラが、ほんの僅かにだが俺の血の匂いに反応した。