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46:核を目指して-2

「此処がカロキソラタウンか」

「ええそうよ。で、ここが私様の家があった場所であり、私様が……両親だったフィラを殺して、ギーリと出会った場所よ」

 俺とラルガがやってきたのはカロキソラタウンと言うエリア。

 ローカルレゲスはペアを組んだ相手と現在何メートル離れているのかを正確に把握できると言うもの。

 危険性は全くないと言い切れるレゲスである。


「で、マテリアを探すのか?」

「まさか。此処は私様が探索した上に、高台の連中も探っているのよ。フィラもだけどマテリアなんて残ってないわ。食料は……まあ、その辺の果実が食べられるから安心しなさい」

 街の様子としては……『インコーニタの氾濫』に巻き込まれたエリアにしては落ち着いている方である。

 建物に様々な生物が混ざっていたりはするが、逆に言えばそれだけである。


「マテリアを探す気はないのか。となると本命は……あっちか」

「そりゃあそうよ。相手の本拠地が分からないんじゃ、復讐のしようがないもの」

 そんな街の中で、俺たちは適当な家屋の中に入ると、その中を一通り探索して安全を確保する。

 その上で、今後についての話をする。


「そもそもとして、私様はクライムの奴を新しいマテリアでどうにかしようとは思ってないわ」

「へぇ……」

 ラルガはそう言うと窓の向こうに見える、花弁が5枚の紅い月の方を一瞬眺め、直ぐに手近な家財を使って窓を塞ぐ。

 どうやら紅い月が向こうの監視手段である可能性も考えているらしい。


「考えてみなさい。クライム=コンプレークスはこの第8氾濫区域の管理者なのよ。そのクライムが自分の管理する氾濫区域で発生したマテリアを把握していないなんて可能性があると思う?」

「ま、それはそうだな。そこで把握していない可能性に賭けるのは馬鹿のする事だ」

「そして、こっちが使うマテリアのレゲスが分かっているのなら……クライムの能力上、どうしようもないわ。仮にこちらが事故を装って……いえ、本当に事故でクライムを傷つけ、殺したとしましょう。でもね、たぶんアイツはこう言うわよ『業務上過失傷害致死だ。ありがとう。マッドガール』ってね。その後は反撃であの世行きね」

「まあ、言うだろうな……。で、簡単に復活か……」

「仮にこっちが犯した罪が重ければ、重いほどクライムの能力が増すというのなら、直接故意に殺すよりはマシでしょうけど。これも期待するべきではない事柄ね」

「だな」

 俺はラルガの言葉に同意する。

 しかし、こうして改めて考えてみると、本当にクライムの能力は破格すぎるな……打つ手がない。

 と言うか、そもそもとしてアレはレゲスなのか?

 もしかしたらレゲスの上位互換のような何かかもしれないな。

 そうなると……やはり策もなくマテリアを使ったのではどうしようもないのかもしれないな。


「ついでに言えば私様のマテリアが優秀すぎると言うのもあるわね」

「『弾倉(マジャラ)』か。調子は?」

「良好よ。たぶん上手く行くわ」

 ラルガが腰の鞄型のマテリア、『弾倉』を叩く。

 実際、『弾倉』はかなり優秀なマテリアだ。

 なにせ、原本となる弾丸と適当な材料さえあれば、後は幾らでも弾丸が複製できるのだから。

 普通の弾丸が回収できるとは限らない氾濫区域で銃を扱う者にとって、これほどありがたいマテリアもないだろう。


「こっちにとっての救いはクライムの立ち位置ね。そのおかげで幾つかの手が思いつくから」

「そっちについては直前まで聞かないでおく。盗み聞きをされている可能性は普通にあるからな」

「ええ、そうしてちょうだい。クライムの相手は私様がするから」

 クライムの立ち位置と言う穴については……俺でも幾らかは思いつく。

 その穴の一つが今の俺とラルガが襲われていない事だ。

 もしもクライムがその気ならば、あの新月の時のように、適当なフィラを俺たちの周りに転移させて襲わせる事が出来るはずである。

 だが、今もなおそんな様子はない。

 もしかしたら転移させる行為に何かしらの対価なり制限なりがあるのかもしれないが……それよりは、もっと別な事情でもって使えないと考えた方が正しいだろう。

 具体的に言えば……出資者、それにクライムの上位の存在だ。

 ま、詳しくはまだ考えるのもよしておくべきか。


「さて、幾らか休憩をした上で……一つ試みましょうか」

「命懸けになるが大丈夫か?」

「問題ないわ。私様なら覚悟は出来ている」

「分かった」

 俺たちは休憩を始める。

 仮眠をとり、幾つかの仕掛けを施しておく。

 そして紅い月の花びらが11枚になり、12枚になる直前で……


「では、始めるとしようか」

「ええ、始めましょうか」

 俺は屋外に出て、ラルガから十分に離れ、その上で自分自身を指差してレゲスを発動する。


「さて、まずは本拠地……いいえ、核の捜索ね」

 俺の身体にマーキングが施され、体液と反応して身体が黒い液体に変換される。

 そして黒い液体が気化することによって俺は死に、その心身魂は散り散りになって第8氾濫区域の混沌に飲み込まれていく。

 同時に俺の中に第8氾濫区域の全てが流れ込んでくる。

 そこには当然第8氾濫区域の核の位置も存在しており……それと同時に俺は見られた。


『bんづうvskぅあ』

 クライムよりも明らかに上位の存在である、何もかもが不明瞭な何者かに。


「戻ってきたけど……」

 そして戻された。

 『月が昇る度に』の力によって、傷一つない姿で、死んでから20秒も経たない間に。


「やっぱりカウンターがあったわね。まさか飼い犬がこんな姿で帰ってくるとは思わなかったけど。」

「げほごほ、飼い犬?」

「hytytytytytyty……」

 体高が3メートル近い、体が黒色の煙によって構築されている巨大な犬のフィラを連れて。


「しぴぴぴぴぴぴしししししし!!」

「来なさい、メカラ。躾け直してあげるわ」

「ああ、なるほど。そういう事ね……」

 そして、犬のフィラ……いや、かつてラルガの家で飼われていた犬を基にしたであろうメカラのフィラは大きな遠吠えと共に、口の中から実体を有する機械の触手を無数に溢れさせた。

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