45:核を目指して-1
「此処が高台……」
火山を脱出した俺たちは現地当局の派遣した軍に接触した。
で、何があっても自己責任と言う念書を交わした上で、ラルガが幾らかの袖の下を渡し、俺とラルガは軍の装備の一部を譲ってもらう事で装備を整えた。
まあ、整えたと言ってもだいたいは食料の補給であり、防具類はヘルメットと膝と肘を守るプロテクターが加わった程度。
武器についてはラルガは相変わらずのショットガンで、俺はラルガが適当な廃材から作った水鉄砲である。
「ホテル・カロキソラ。氾濫前はカロキソラ島で一番のホテルでした。まあ、このカロキソラ島で一番大きいというのは、最高級である、と言う意味ではなく、一番多くの人間を収容できる施設、と言う意味ですが」
「でしょうね。ちゃんとお金があるなら土地と建物を購入した上で、管理するための人間を雇うもの」
そうして準備を整えた俺たちは、新月を挟みつつ、まずはクライムによって銃のフィラに変えられた男……記憶が確かならヴァレンタインとか言う男がリーダーとして占領していた高台のホテルまで、軍に同行する形で進んだ。
「で、脱出は出来ると思う?イーダ」
「無理だろ。ホテルの外に出た途端に死へのカウントダウン開始だ」
で、当のホテルだが、上層部を除いて磯臭い水……海水の中に沈んでいる。
ああいや、正確に言えば沈んでいるわけではない。
隣の沈没して海水が流れ込んでいるエリアから、大量の海水がホテルに向かって常時浴びせかけられており、ホテルの外に出れば一瞬にして全身が海水まみれになりつつ、海水が放たれたエリアに地形と重力の関係で引きずり込まれるだけだ。
「グロバルレゲスで海水に触れればペアを解消。ペアが解消された状態が20秒以上続けば死亡。でしたか」
「ええ、その通りです。そして、高台の中に居る間はグロバルレゲスも無効化されますが、高台の外に出ればグロバルレゲスは機能し始めます」
「まあ、どうしても救助をしたいというなら、この氾濫区域の中にヘリを持ってくるなんて無茶をするか、ホテルの中にあの激流でも流されないように対策をした完全密閉の車で突っ込むか、この二択でしょうね」
しかし、これは……クライムの奴、この展開を当初から狙っていたな。
高台であるホテルのエリアは、基本的な土地の高さが周囲よりも低い、盆地にあった。
「沈没したエリアのローカルレゲスはどのようなものだと思われますか?」
「そうね……遠目で見る限りでは水限定重力操作か指向性を持った超強力な撥水、と言うところかしらね。エリアに流れ込んだ海水が一滴残らず高台の側に向かっているあたり、前者かしら」
そして、ホテルと海の間にあったエリアは、ラルガの言うとおり、水限定の重力操作を持ったローカルレゲスでいいだろう。
エリアの沈没とローカルレゲスが組み合わさることによって、エリア内に流れ込んだ海水が一滴残らずホテルに向かっている。
「……。最終的には洗濯機……ですかね」
「瓦礫と海水による人間の命を洗浄するための洗濯機ね」
「誰が上手いことを言えと……」
で、ホテルに向かっている海水の量だが……海水が沈没したエリアと高台のホテルの間だけで行き来しているせいか、少しずつ増えている。
いずれはホテル上層部も飲み込むとともに、量が増すことによって圧力も増大し、ホテルの破壊が始まるだろう。
「で、救助はするのかしら?」
「……検討はします。それが役目ではありますので。ただ……抵抗される可能性が未だに存在している事と、この状況を考えた場合……部下の命を優先すると言う選択は普通にあります」
そうして、ホテルが崩壊すれば、今もまだホテルの中に取り残されている人間は確実に死ぬ。
それこそ自暴自棄からクライムが望むような犯罪行為をたっぷりとやった上で、出資者たちが望むような絶望に塗れた姿を晒して死ぬだろう。
「ま、あそこで死ぬ連中の一部については自業自得ではあるのよね。たぶん、未だに理由もなく自分たちの国を築けると思っているだろうし」
「まあ、あの銃のフィラになった男の部下たちは普通にまだ居るだろうし、そういう連中が軍の人間の言う事を聞くかと言われたらなぁ……」
「……」
勿論、中には嫌々従っていたものも居れば、無理やり連れ込まれた人間だって居ることだろう。
ただ、ホテルから時折銃声のようなものが聞こえている事や、循環している海水の中に時折人影のようなものが見えていることを考えてしまうと……マトモな人間が内部に残っているかは怪しいところである。
「ま、どうするかは軍に任せるわ。私様たちはただの同行者であり部外者だもの。私様たちは私様たちのやることとして、核の捜索と装備品の調達を始めるわ」
「そうだな。そうするか」
「そうですか、ご武運を。此処までの協力、感謝いたします」
そうして俺とラルガは軍から離れ、まだ踏み入っていないエリアの捜索を始めることとした。
なお、至極今更な話だが、これまでに話していたのは現地当局が派遣した部隊の隊長であり、俺たちに装備を融通してくれた人物である。
頭が柔軟で、部隊指揮も悪くはない人物だったので、高台近くに来るまでに俺とラルガが狩ったフィラが落としたマテリアも持ってもらっている。
彼ならば、無茶をしなければ、次の満月までには第8氾濫区域から脱出してくれることだろう。
「さて、集められるだけ集めないと……二人の敵討ちのためにも……」
「……」
俺とラルガだけの探索が始まった。
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