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44:別解の天才-4

「いい返事だ。じゃ、早速で悪いが、この火山から安全に脱出する方法を考えてくれ」

「躊躇いゼロで私様を頼ってきたわね……」

「ラルガは俺より頭がいいと思っているし、技術もあるからな。なら、ラルガを頼るという判断こそが、最善の判断だ」

「……」

 ラルガは復活した。

 目に陰りはあるままだし、危うい気配そのものは残っているが、少なくとも第8氾濫区域をどうにかするまでは大丈夫だろう。

 そして俺の要請を受けたラルガだが、まずは周囲を見渡す。


「まずは高速道路まで行きましょうか。あそこまで行けば状況を打開するための素材も回収できるはずよ」

「分かった」

 で、俺たちは火山の中腹に突き刺さるように伸びている高速道路を目指すことになった。


「一応確認だが、この火山のローカルレゲスは生物の熱耐性を上げるだけ。で、いいんだよな?」

「ほぼ間違いないわ。生物が溶岩に触れても大丈夫なように法則を改変するだけなら他にも色々と思いつく。けれど、私様が考える通りなら、それらのローカルレゲスだと他のトラブルを引き起こす事になるはずだから」

「なるほど」

 さて、この火山のローカルレゲスだが、生物が熱に強くなる、ただそれだけである。

 だからこそ真っ赤でドロドロとした溶岩流の中であるにも関わらず平然と植物が生い茂っているし、一部のフィラが溶岩の中を泳いだりすることも出来る。

 で、本当にこれだけならば誰も困らないし、むしろ役に立つローカルレゲスなのだが……ここは第8氾濫区域、いい話には当然のように罠だって仕掛けられている。


「しかし、こうなってくると、あのまま境界まで行っても脱出できていたのかについて怪しくなってくるが……うおっ!?」

「脱出できていたわよ。私様の計算ではあのタイミングなら、まだ多少の熱中症で済んでいた。どちらかと言えば問題は脱出後の位置と地形の方よ」

「わ、分かったが、ショットガンを人の頭上に向けて撃つのは止めろ……」

 そう、罠だ。

 熱に強くなっているのは、この火山のエリアの中に限った話。

 火山の外に出れば、熱への耐性は一瞬で元に戻る。

 もしも体温が溶岩と同じ温度のまま外に出たりすれば……一瞬にして消し炭になってしまうだろう。

 そして、そこまで極端な体温でなくとも、体温が40度を上回るような状態でエリア外に出れば、良くて熱中症、悪ければ全身のたんぱく質が茹で上がって即死である。

 当たらない方向に向けてとは言え、いきなりショットガンを撃つのと同じくらいにはたちが悪い。


「この際だからはっきり言っておくわ」

「なんだ?」

 と言うか、何故いきなり撃ってきた。

 当たらないようにしていたのは分かるが、万が一と言うのがあるだろうが。


「私様はイーダ、貴方の事が嫌いだわ」

「……。理由は?」

 で、何故か突然、面と向かって嫌いと言われた。

 しかも、眉間にしわが寄った表情からして、本気の嫌悪である。


「貴方がもっと強ければカーラは死なずに済んだかもしれない。貴方がもっと早くに来てくれればギーリは助かったかもしれない。身勝手な感情と論理であり、一番悪いのはゲームマスターであるクライムであると理解してはいる」

「だがそれでも、か」

「そう、だがそれでもなのよ。それでも私様は貴方に対して強い怒りを覚えている。いいえ、イーダだけじゃない。それこそ二人の命を奪ったこの世の全てに対して、私は嫌悪と憤怒を覚えている。神も含めた全てを壊しつくしてやりたいと思っている」

「……」

「だから私様はイーダが嫌い。そしてそれ以上にクライムの事が嫌い。誰かと協力をする事は出来る。けれど笑い合う事と喜びを分かち合う事は出来ないし、殺意は向けざるを得ない。私様の心はそれほどまでに傷つき……壊れているわ。それこそこうやって、自分の精神面を切り離して、冷静に語っている自分に対しても殺意を覚えるぐらいね」

「そうかい」

 まあ、ラルガの状況とこれまでを考えたら、そこまでおかしな話でもない。

 この世の全てを恨んで恨んで恨みつくすぐらいになってもおかしくはない。

 第7氾濫区域の生存者の中にも似たような精神状態になっている人間が居るという話を聞いたことはあるしな。


「ま、好きにすればいい。どうせ俺は殺されても死ねないし、監禁の類が怖くないことも今回分かっちまった。おまけに血に色々と細工も施されたから、人間相手の流血沙汰は以前よりも安全になったしな」

「どういう事かしら?クライム打倒の為にもその辺りの情報は共有しておきたいのだけど」

「そうだな……」

 俺はラルガに死んでからの事……妙な空間で5柱の神々と出会い、『魔女の裁血』を埋め込まれたことを話す。


「ランダ、ペルセポネー、イザナミノミコト、それに混沌と終わり、ね。私たちの足掻きを見て楽しんでいるとしたら、随分といい趣味だ事」

「様を付けてくれ……会話用の分体と言う最低限の物とは言え、直接対面した身としては敬称無しで呼ぶのは恐ろしすぎる……」

「嫌よ。私は彼女たちの信徒じゃないし、そうでなくとも神なんて……クソッタレだわ。一番のクソはクライムの奴だけどね」

「……」

 で、それに対する返しが怖すぎるので、俺は内心でランダ様たちにすみませんと謝っておく。

 小心者だと笑われたり、怒られたりしそうではあるが、その通りなので返す言葉もない。


「さて、着いたわね、じゃ、イーダ。『魔女の黒爪』を貸して、上手く回収するから」

「分かった……」

 そうこうしている内に俺たちは高速道路の入り口に着く。

 高速道路には人の体が付いた複数の車が事故を起こし、大破した状態で転がっており、タイヤは相変わらず猛烈な回転を続けている。

 で、ラルガは……手持ちの紐とモーター、それに『魔女の黒爪』の飾りの珠を回すと巨大化する機能を合わせて火山から一歩も出ることなく高速道路に大破した車を引きずり込むと、それを元手に俺たちの体を問題の無い温度まで冷やす機械を作り上げてしまった。

 目の前で全ての工程を見ていたはずなのだが、俺にはまるで何が起きたのか分からなかった。

 正直に言って……やはりラルガの開発と改造の能力はレゲス並みにおかしい代物だと思う。

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