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41:別解の天才-1

 驕った自己評価であるかもしれないが、私は私の事を天才の部類に入ると思っている。

 とは言え、私は何十年も先に実証されるような理論を考える目標の天才ではない。

 十分な人材と資材を周囲に集めることによって真価を発揮する先端の天才でもない。

 既存の技術同士を組み合わせることで新たな何かを生み出す応用の天才でもない。

 運動、工業の分野で人が立ち入れるのか怪しまれるような領域に踏み込む一芸の天才でもない。

 芸術の分野において人々から絶賛され、下手をすれば狂気とも捉えられかねない美術の天才でもない。

 ひたすらに基本を積み重ねることによって深奥に到達する基礎の天才でもない。

 そして、何もかもを人並み以上にこなせる秀才と言う名の天才でもない。


「考えなさい私様……」

 私は目の前の難題を解決するにあたって、本当に必要最低限の条件を再計算し、限られた材料と工具からその条件を満たせるものを作り出す。

 だから、語弊を承知で敢えて簡便に表すならば、私は別解の天才。

 既に証明されている方程式を補強し、最適ではないが通用はする方法を考えだし、その場を切り抜ける事に特化した天才。

 満たされた世界においては価値を低くし、今のように苦しい状況であればあるほどにその価値を求められることになる天才。


「クライムを打倒する方法を考えなさい。私様……」

 そんな私だからギーリは私を抱えてクライムの前から逃げ出した。

 カーラはクライムに私の後を追いかけさせないために、足止めに残った。

 そしてイーダも少しでも長く命を繋ぎ、痛みを堪えて情報を引き出した。

 だから私は考えなければいけない。

 犯罪行為を糧とする事で、イーダのレゲスによって全身が黒く染まって崩壊しても容易に復活してみせるクライム=コンプレークスと言う化け物を、ゲームマスターを打倒する方法を、今の限られた手札から生み出さなければならない。


「そうでなければ……カーラは無駄死になってしまうのよ……」

 今も私を抱えて、第8氾濫区域の境界を目指して火山地帯の中を駆け続けてくれているギーリのためにも。

 自分の生存を諦めて足止めをしてくれたカーラのためにも。

 氾濫区域の外から私たちのために氾濫区域の中へと飛び込んできてくれたイーダのためにも。


「……!」

「っつ!?ギーリ!?」

 ギーリの足が止まる。

 その事に私が慌てて正面を見る。


「しじぶうえy?」

「フィラ……」

 私たちの前には一体のフィラが居た。

 カメラを頭にし、人の上半身を持ち、複数のピストンが付いた蛇の胴体を下半身とした、ラミアに近いフィラであり、ピストンからは絶え間なく蒸気のようなものが吹き上がっている。

 そして、そのフィラは、真っ赤に輝く溶岩の中に熱さを感じた様子もなく立っていて、油断なく周囲の様子を窺っている。


「fplpもおち?」

「……!」

「っつ!?もう一体!?」

 いつの間にか私たちの背後にも新たなフィラがやってきていた。

 そちらは人の頭を持たない代わりに、何十と言う蛇を首から生やし、それと同じくらいの数の腕を胴から生やし、ナメクジのような下半身で這っていた。

 このフィラも周囲の様子を窺いつつ、少しずつこちらに寄って来ていた。


「……」

「分かってる。これは私様たちに対するゲームマスターの攻撃よ。恐らくだけどカーラたちが上手くやって、クライム本人が直ぐに来たくても来れないから、こういう手を打ってきたんだと思う」

 今の時刻は紅い月の花びらが10枚になったところ。

 周囲は真っ赤な溶岩がゆっくり流れているところもあれば、黒い岩に覆われた岩地もあるが、普通の植物のようにしか見えないものが普通に溶岩の流れの真ん中で生えている場所もある。

 私たちがまだフィラに見つかっていないのは、どちら側からも見えない岩陰に立っているから。

 溶岩の中を平然とフィラが歩いている事と、普通の植物が燃えもせずに生えていることからして、この火山地帯のローカルレゲスは恐らく全ての生物が熱に対して極端に強くなる、と言うところだろう。


「あlfぁlbljうぇwvl……」

「dshsdsmslrtrんs……」

 敵のレゲスは不明。

 こちらの武器はショットガンに私のマテリア『弾倉(マジャラ)』、ギーリのレゲスにマテリアの『ガラ(カチャ)スの(コラパ)(マタ)』、後は幾つかの工具程度。

 戦闘行為は適切ではないが、既に逃げ道は無い。

 だからやり合うしかない。

 リスクを受け入れて戦うしかない。


「まずは後ろのフィラからよ。ただ、相手に直接触れるのは何があっても禁止。とどめを刺すのも私がやるわ」

「……」

 ギーリが私を下ろす。

 そして私はショットガンを構える。


「fplpfs……」

 そうして後ろから多頭多腕のナメクジフィラが姿を現した瞬間。


「消し飛べ」

 私は岩陰から飛び出し、そのフィラの胴体に向けて発砲。

 直後、二体のフィラのレゲスが発動した。


「shsちぃ!?」

「っつ!?」

 多頭多腕のナメクジフィラ、その腕と頭がショットガンの弾丸によるダメージを逃すように、あらゆる方向に向けて勢い良く伸びる。

 そして、伸びた腕と頭が伸びた先にある岩と木々に突き刺さり、私の体を掠め、一瞬後には触れたものの表面を少しだけ溶かしながら戻っていく。


「うrlみじじじじじ!!」

「らるが……!」

 私の姿を見つけたカメラ頭のフィラが叫び声を上げると同時に、カメラのフラッシュを点灯させ、シャッター音を鳴らす。

 するとシャッター音が響く度に、私の脳内にカメラ頭のフィラから見た私の姿が……醜悪な笑顔を浮かべ、血に酔いしれる醜い人間の姿が映り込む。


「そんなの……今更よ!」

 反撃のレゲスと撮影のレゲス。

 反撃は敵を倒すはずだった一撃が自分と味方を傷つける攻撃となり、撮影は誰かを殺そうとする醜いとしか称しようのない姿を無理やり見せつける。

 どちらも嫌なレゲスだ。

 けれど、どちらのレゲスも私には効かない。


「私様だってもう人殺しの化け物!醜い人間だってのは分かっている!!だから死ね!死ねっ!今すぐ死ねっ!!」

「blzry!?」

「msちぃ!?」

 だから私は一動作で人が感電死する程度に漏電するモードへ切り替えられるように細工したバッテリーを多頭多腕のナメクジフィラの下半身に投げつけて感電死させる。

 そして、私の醜悪極まりない笑みを浮かべた姿を私の脳が焼き切れるのではないかと言う勢いで送りつけてくるカメラ頭のフィラに向けて発砲。

 だが、こちらは距離があったために頭部の一部を欠けさせることしかできず、カメラ頭はそのまま溶岩流の中に沈んで居なくなる。


「逃げられた……ギーリ!今すぐ逃げるわよ!直ぐに次が来る!!」

「……」

 警報機としても用いれるレゲスを持ったカメラ頭のフィラを逃したのはかなり痛い。

 だが、脱出を考えた場合、溶岩の中まで追いかけることを出来ない。

 だから私はギーリに抱えられて、その場を後にした。

 とてつもなく嫌な予感を覚えつつも、再び外に向かって逃げ出し始めた。

02/20誤字訂正

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