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38:犯罪を愛するもの-5

「借りるよ」

「ああ……」

 カラジェが『魔女の黒爪』を持ち、適切なサイズにした上で複製。

 四つの手、それぞれで剣のように握る。


「はあああぁぁぁっ!」

 そして即座にクライムに向けて切りかかる。

 クライムはそれを……


「ふんっ!」

「ぐっ……ぎっ……」

 身構えすらせずにそのまま受けた。


「せいっ!せいっ!せいやああぁぁぁぁぁ!!」

 そして、そこからすぐさま連打を始める。

 四本の腕で隙間なくクライムを叩き続ける。

 これで普通のフィラが相手ならば、カラジェの腕力もあって、全身の骨が折れて死んでいる事だろう。


「せっ……っつ!」

「そらよおおぉぉ!」

 だがクライムはダメージを受けた様子もないどころか、それまでよりも素早い動きで、腰に提げていた鉈をカラジェに向けて振るう。

 カラジェは複製した『魔女の黒爪』の一本を犠牲にすることで攻撃を凌いだが……


「はぁはぁ……」

「いやぁ……いい暴行、傷害、殺人未遂って感じだ。おかげで随分と血色がよくなった感じがあるな」

「ぐっ……」

 かなり拙いな。

 予想通りではあるが、犯罪行為を糧とする事が出来るクライムにとって、普通の攻撃はダメージにならないどころか、回復と強化に繋がってしまっている。


「別に殺してもいいんだぜ。ただの殺人罪成立。俺はその犯罪行為を糧として新しい体を作るのみ。さっき逃げ出したマッドガールのところで、な」

「理不尽にも程がある……」

「そして、別にこの場に俺をとどめ続けたって構いやしない。それならそれで業務妨害や監禁といった犯罪行為。俺の糧になる事には変わりないんだからな」

「……」

「ああ、興奮しすぎて心臓とかの動きがヤバいなぁ。効果なんてないが、血圧の薬を使った方がいいか?そしたら今度は薬事法違反だぁ。ひーひひひっひっひ」

 あまりにも……あまりにもクライムの能力は反則的過ぎる。

 この分ではこちらの行動も、あちらの行動も、何かしらの犯罪行為として結び付けられて、クライムの糧にされてしまう。

 おまけにクライムは正当防衛や緊急避難と言った罪に問われなくなるための条件をワザと無視している節もある。


「さて、そろそろコラプスウィッチは限界か?」

 掠れていく視界の中でクライムが無造作に拳銃を俺へと向ける。


「ま、失血死なんてつまらないから俺が殺すがな」

 クライムの拳銃の引き金が引かれる。


「させないっ!」

 だがその前にカラジェが俺とクライムの間に入り、弾丸を受け止める。

 本来ならばカラジェの甲殻の前に拳銃の弾丸など通りはしない。


「おっ、流石の硬さだな。だが、いつまで保つ?」

「ぐっ……うっ……」

 そう、通らないはずだった。

 しかし、乾いた破裂音が響き渡る度にカラジェの体が少しだけ揺れ、痛みを耐える声が聞こえ、人のものとは違う色をした血がカラジェの足元に流れ落ちていく。


「カラ……ジェ……悪い……」

 許されるのであれば、俺は今すぐにでも自殺をして、ただただカラジェの足手まといとなっているこの現状から脱出したかった。

 けれどそれは許されない。

 第8氾濫区域のグロバルレゲスによって片方が死ねば、もう片方も死ぬ以上、自殺は許されない。


「ぐっ……うっ……気に……しない……で……」

 そして残された力を振り絞ってクライムを殺すことも許されない。

 それをしてもクライムは復活する。

 それもただ復活するのではなく、俺たちがこの場に留まっている理由である、ラルガを襲う形で復活してしまう。


「はははははっ!いいねぇ!やっぱりいいねぇ!一方的に!圧倒的に!弱者を嬲る!許されざる罪を犯して己の糧とする!あの会社じゃ絶対に許されない行為だった!これが出来るからこそ俺はこっち側に来たんだ!」

 だから、耐えるしかない。

 カラジェが耐え続けている限り、俺は無理やりにでも命を繋ぎ続け、見続けるしかない。

 クライムの不意打ちを避けられなかった、この状況から逃れられなくなった原因を作り出してしまった罰として。

 それ以上に、カラジェの生き様を伝えられる者として見届けなければならない。

 心の底から悔しくても……どれほどつらくとも……


「どうした!?抵抗の一つでもしてみろ!したらしたで俺の栄養になるだけなんだけどなぁ!!」

「はぁはぁ……ごぼっ……げぼっ……」

 何十発と言う弾丸が撃ち込まれ、血も大量に流したカラジェが膝をつく。


「それとも諦めたか?だったらつまらねえなぁ。お前ら二人とももう放っておいても死にそうだし、それならお前らは放置でマッドガールの方を追いに……おっと」

「させないっ!」

 だが、クライムの一言をきっかけにカラジェは最後の力を振り絞るように切りかかる。


「させない!それだけは!絶対に!させないっ!!」

「はははははっ!まだまだ元気じゃねえの!!そうじゃないとなぁ!!」

 切りかかり、殴りつけ、今まで使ってこなかった尾による攻撃もクライムに対して試みる。

 しかし、その攻撃は……


「あっ……」

「カラジェ……」

「でも、そろそろ飽きたわ」

 無意味だった。

 クライムの振るった鉈がカラジェの四本の腕も蠍の尾も一瞬の内に切り飛ばしていた。

 その動きは今までとは比べ物にならないほど素早かった。


「ゴメンなさい。お嬢様……イーダ……ギーリ……」

「カラジェ……」

「死ね」

 クライムの鉈がさらにカラジェを切り刻む。

 脚を落とされ、胴を寸刻みにされ、首を刎ねられ、頭を潰された。

 そして蠍のフィラであることが災いし……頭を潰されるその瞬間までカラジェは生き続けていた。

 生かされ続けていた。


「さて……」

「絶対に吠え面をかかせてやる……」

 俺はクライムの行為にこの上ない怒りを覚えていた。

 覚えた上で、最後の力を振り絞って手近な場所にあった小石をマーキングした上で口に含んだ。


「俺の制限の事をよくお分かりで。コラプスウィッチ」

 そうして口の中で小石は俺のレゲスによって黒い液体と化し、黒い液体はすぐに黒い気体となり、俺の全身だけが黒く染まって崩壊した。

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