35:犯罪を愛するもの-2
「おおっと!真正面からネームレスベイビィだ!!諦めて自殺しに来たかあぁ!!」
『……。油断は出来ないな』
「……」
ギーリがダイ・バロンの操る銃のフィラの真正面に立つ。
そして横に居るクライムの事を煩わしそうしつつもダイ・バロンは両腕をギーリに向ける。
対するギーリも、両腕をまっすぐ前に向ける。
「イーダ。ギーリは……」
「捌けると言ったのは本人だ。こうなれば俺たちはそれを信じるしかない」
両者の間にある空間は50メートルほど。
無数の瓦礫で足場が悪いことを含めて考えると、間違ってもギーリにとって有利な状況ではない。
そして、二人が睨み合っている中、俺とカラジェはクライムたちに見つからないように物陰から物陰へと移っていき、これからの行動にあたって適切なポジションを取りに行く。
『まあよい!どうせ、この体で出来るのはこれだけよ!』
「ーーーーーーーーーーー!!」
「いやああああぁぁぁぁぁ!!」
「いだいいだいいだあああぁぁぁぁ!!」
銃のフィラの咆哮が、生きながら弾丸に変えられる女性の悲鳴が響き始める。
同時に女性の体だったものが目にも止まらぬ速さで、一発で致命傷になりえる攻撃が何十と、ギーリに向けて逃げられるだけの隙間もなく飛んでいく。
きっと、この場を視聴している殆どの出資者が、ギーリがミンチになって死ぬ事を確信していたことだろう。
それはダイ・バロンとクライムも同じことだっただろう。
「……」
『なっ!?』
「はあっ!?」
だが、その予想は裏切られる。
ギーリの掌から発せられた稲妻によって、銃のフィラから放たれた全ての弾丸が粉々になるほどに打ち砕かれ、傷一つ付ける事が出来ないと言う結果によって。
「ーーーーーーーー!!」
『何が起きている!?』
「うおおおぉぉい!?ちょっと待てや!?ネームレスベイビィのレゲスであんな事が出来るなんて聞いてないんですけど!?」
「ど、どうなってるの!?イーダ!!」
「ああ、なるほど……」
ギーリのレゲスは『片目を瞑っている時に両手で触れたものに電気を流す』。
これはラルガからの申告だから信じてもいいし、ゲームマスターであるクライムだって知っている情報だ。
だが、クライムは知らなかった……というより思いつかなかったのだろう。
「ギーリは空気を両手で触っていると認識した。するとギーリのレゲスはその記述通りに、絶縁体である空気に電気を流す。で、その電気の流れは一般的にどう言われていると思う?」
「どうって……まさか……」
「そう、雷だ」
「ふえっ……!?」
ギーリのレゲスが雷を好きなタイミングで発生させる事が出来るレゲスである事に。
そうして発生した雷がギーリ以外を対象として、文字通りの雷速でもって周囲に破壊をばらまく事に。
その破壊の対象として、空気よりもはるかに電気を通しやすい人体を基にした弾丸がとてもよく選ばれる事に。
「ーーーーーーーーーー!」
『ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!』
銃のフィラが半ばやけくそと言った様子でギーリに向けて発砲する。
だが、ギーリの歩みを止める事は出来ない。
当然だ。
攻撃の速さも精密さも威力も数も、銃のフィラのレゲスとギーリのレゲスとでは比べ物にならない。
ギーリが操っているのは、正しく神の寵愛を受けたからこそ許される力なのだから。
「……」
『クライム!貴様はこれでいいのか!!』
「よくはない!けれど、この場に出てる俺は……」
「さて……こっちも頃合いだな」
そうしてギーリが圧倒的な力でもって銃のフィラの攻撃を全て撃ち落としながら進む中、俺とカラジェは一つの建物の屋上の一つ下の階の窓際に立っていた。
そこで、俺はラルガが改造した水鉄砲に『魔女の黒爪』をセットした状態で構えると、その時を待っていた。
「今だ」
俺の水鉄砲から銃のフィラの横に立つクライムに向けて俺の体液が混じった水……いや、半ば凍った弾丸が放たれる。
発射の反動はどう考えても水鉄砲のそれではなく、カラジェに抑えてもらわなければ、そのまま倒れてしまいそうな程だった。
「せいげ……水?」
だが、ラルガの改造の甲斐もあって、俺の弾丸はクライムの体に見事に命中する。
それと同時に『魔女の黒爪』が10秒間クライムを指差し続けたことにより……
「なびゃ?」
『っつ!?』
クライムの体にマーキングが施され、クライムの体は黒い液体となって崩れ落ちる。
本当にゲームマスターだったのかと疑問に思いたくなるほどあっさりと。
『魔女かああぁぁぁ!!』
即座に銃のフィラが俺たちの方へと腕を向けようとした。
だが、それは悪手以外の何物でもなかった。
何故ならば。
「……」
「どのtr……!?」
『うっ……ぎっ!?』
既にギーリは銃のフィラのすぐ近くまで来ていた。
そして放たれた電撃はギーリの近くに居たものすべて……銃のフィラも、ダイ・バロンも、弾丸としてまだ装填されていなかった女性たちも見境なく巻き込んで痺れさせ、焼いていく。
そうして動きが止まっている間にクライムだった黒い液体が気化していき……
「「「!?」」」
『くっ、ここまでか……』
黒い気体に触れた銃のフィラと女性たちの体を黒く染め上げ、崩壊させていく。
当然、俺のレゲスの危険性を知っているギーリは既に安全圏まで離脱しているが……
「たす、助けっ……!?」
「お金!お金ならあげるからあぁぁ!!」
「いやあぁ、いやああああああああ!!」
「私は死にたくなかっただけなのにいいいぃぃ!!」
銃のフィラに鎖で繋がれていた女性たちは次々に黒い気体に呑み込まれていく。
俺の黒い気体が金属を対象としないために。
銃のフィラ本体が死んでもなお鎖の巻き上げが止まらないために。
悲痛な、助けを求める声を上げながら、全身を見るも無残な姿に変えて死んでいく。
「やっぱり俺のレゲスは死しか齎さないな。救助とか救援とか、そういうのにはまるで向かない」
「そんな事は……」
「とりあえずギーリたちと合流するぞ」
「うん……」
そうして女性たちの叫び声を聞きながら、俺とカラジェはギーリとラルガと合流した。
02/14文章改稿