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31:朧新月-5

「ラルガ!?」

 車は壁を破壊しつつ階段を駆け上がっていく。

 そして、屋上から外に飛び出すと、建物の屋上から屋上へと飛び移りつつ走っていく。


「ちっ、流石にそう甘くはないわね」

「そりゃあそうだろ……」

 だが、幾つかの建物の屋上を飛び移ったところで、ラルガの車は建物の下から放たれた何かによって貫かれ、破壊、爆発する。

 尤も……


「「「ヒギイヤアアァァァァァ!?」」」

「ま、戦果は十分ね」

「そのようだな」

 その直後に男たちの悲鳴が真っ暗な街中に響き渡り、爆発音は掻き消される。


「うーん、流石はお嬢様の技術とイーダのレゲス……」

「カラジェのレゲスがあってこそだけどな」

 悲鳴を上げた男たちに何があったのかは……まあ、そう難しい話ではない。

 カラジェのレゲスで複製した俺の『魔女の黒爪』と適当な物質を一つのガラス瓶に投入。

 密閉した瓶の中で黒い液体を発生させ、保存したものをラルガの車に乗せておいた。

 そして、ラルガの車が自動運転で走り始め、敵の攻撃を受けて撃墜され……俺のレゲスによって生成された黒い液体入りの瓶が周囲にばらまかれ、地面にぶつかった衝撃で割れ、大量の致死性の煙を生じさせた。

 と言うわけで、悲鳴を上げた男たちについてはほぼ間違いなく即死である。


「さ、とっとと逃げるわよ。新月が終わるまで後40分はある。敵がゲームマスターなら、相手の打てる手はほぼ無限のようなものだし、見つからないことを第一にしないと」

「だな」

「うん」

「……」

 カラジェを先頭として、俺たちは移動を開始する。

 入口でも、階段でもなく、小さな窓をすり抜けて裏路地に出る。

 で、その直後に建物の入口の方で爆音がする。


「はい、引っ掛かった」

「本当にえげつない……」

「流石はお嬢様……」

「……」

 うん、今度はセンサーと連動した爆薬である。

 当然ながら、適当な鉄屑や釘の類を使って、殺傷能力を十分すぎるほどに上げた罠である。

 なんかもう、ラルガの技術力の方が下手なフィラよりもよほど理不尽なんじゃないかと思えてきたな……。


「裏路地だ!表に居ないなら裏だ!!」

「カラジェ」

「うん、分かってる」

 こちらに近づいてくる足音がする。

 そして、路地の角から姿を現すと同時にこちらに向けて手に持った銃を俺たちの方に向けてくる。

 うん、やはり相手は人間であると同時に、俺たちに敵対する存在か。

 騙されているのか、自ら進んでなのかは……この状況を完全に切り抜けてから、生き残ってた奴が居るならでいいな。


「なっ!?」

「効かない!?」

「よっと」

 俺、ラルガ、ギーリの三人は素早く物陰に身を隠す。

 それと同時に銃声が幾つも鳴り響く。

 しかし、カラジェは相手の銃弾をその甲殻で弾きつつ、手に持ったそれを……複製した『魔女の黒爪』が突き刺さった瓦礫を投擲する。


「爆だ……」

「そんな甘いものじゃないって」

 で、敵の場所に到達したところで瓦礫にマーキングが施され、『魔女の黒爪』表面の水によって即座に黒い液体に変換され、気化し、黒い気体になって男たちに死をもたらしていく。


「見つけた……」

「うるさい」

「ぞぎゃ!?」

 と、ここで別の方向から男たちが現れる。

 だが、その男たちはラルガのショットガンによって即座に射殺される。


「ぎゃっ!?」

「がっ!?」

「みぎゃ!?」

「うるさい、うるさい、うるさいっての。人間の癖に。フィラ以下の獣になって。なんでお前達なんかが。なんでパパが。なんでママが。カーラが。ギーリが。死ねっ!死んでしまえ!脳漿も臓物も骨も肉も何もかも撒き散らして死ねっ!!死んで私様の次の弾丸になれ!!」

 二度、三度、四度……いや、確実に相手が死んでいるはずの状態になってもまだラルガはショットガンを撃ち続けている。

 腰のポーチからショットガンの弾丸を取り出し、殺した相手の肉体をポーチに入れ、そして再び次のショットガンの弾丸をポーチから取り出す。

 どうやら、ラルガの腰のポーチは、弾丸を生成するマテリアであるらしい。

 あるらしいが……これ以上はよくない。


「ラルガッ!いい加減に……うおっ!?」

 そう判断した俺がラルガに声をかける。

 するとラルガは血走った目でこちらに一度ショットガンを向けてくる。

 が、直ぐに相手が俺だと気づいたのだろう。

 ショットガンを下す。


「ああっ、イーダ……悪いわね。どうにも私様にはあの手の人間を見るとトリガーハッピーになる気があるみたい……」

「お、おう……」

 トリガーハッピー……か。

 どう考えても、そんな様子ではなかったが……そういう事にしておくか。


「状況は……?」

「後、2グループってところだな。片方はそこの路地に居るが、カラジェに銃は効かないからな。こっちの様子を窺うだけになってる。もう片方は……分からない」

「そう……」

 敵の残りは最低ならば13人。

 多くても……20は絶対にもう居ないな。

 いずれにしても今は小康状態。

 この間に上手くこの場を切り抜ける方法を見つけたいところだが……。


「手前ら!何をやっていやがるんだ!このド屑共が!!」

「面倒なのが来たようね」

「そうみたいだな」

「うわっ……」

「……」

 ジャングル……マルメルフータンで聞いた覚えがある男の怒声が響き渡った。

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