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27:朧新月-1

「んあっ」

「あ、イーダ」

「ようやく起きたわね」

「……」

 目を覚ますと、カラジェに加えて、ラルガとギーリも周りにいた。


「此処は……」

 周囲の状況は……タイヤと融合した人間が高速回転している点や、防音壁のようなものが見えていること。

 それに燃え尽きた車が何台も停まっている点からして、高速道路か。


「見ての通りの高速道路よ」

「みたいだな……」

 ああうん、周囲の状況と面子からだいたいの流れは察した。

 マンションが崩壊して、カラジェが俺を連れて脱出。

 階段の柱を上って高速道路に移動。

 そこでラルガとギーリの二人と合流した。

 と言うところだろう。


「今の時刻は……新月3時間前か」

「うん、だから、もう少ししたら次の沈没するエリアで地震が起き始めると思う」

「まあ、アレが一度しか起きないと考える方がおかしいからな」

 当然ながら右手は無いまま。

 だが、カラジェかラルガがやってくれたのだろう。

 万が一にも失血死がすることが無いように処置が施されている。

 これならば次の満月である15時間後まで、右手の傷そのものが原因で死ぬ心配はしなくてよさそうだ。


「やっぱりカーラの言葉が分かるのが羨ましいわね……」

「お嬢様……」

「……」

「そこでその目は勘弁してくれ……」

 ラルガが俺に羨ましそうな目を向けてきて、それに対してカラジェが目を潤ませ、ギーリは何をやっているんだという感じの目をしている。

 ああうん、訳の分からない空気とはこれの事だな。

 深く気にしない方が良さそうだ。


「まあいいわ。イーダ、私様に現在の状況を教えなさい。今後の行動方針を決めるから」

「分かった」

 とりあえず俺はラルガに幾つかの情報を渡す。

 海水に触れればどうなるのかを。

 新月に起こるエリアの沈没にどういう意味があるのかを。

 ほぼ間違いなく高台が武装組織によって制圧されている事。

 そして、第8氾濫区域から脱出するための条件と、現地当局が派遣した軍が第8氾濫区域の南西部に橋頭保を築こうとしている事を。


「なるほどね。それならこのまま高速道路を移動しましょう。距離がおかしくなっていても、3時間もあれば第8氾濫区域の南西部に移動することぐらいなら出来るはずだから」

「出来るって……」

 俺から話を聞いたラルガは俺の背後に向かっていく。

 そしてラルガの事を目で追った俺は……思わず口を開く。


「……。車か?」

「私様特製の車よ。とっとと乗りなさい。このまま防音壁の外を走っていくから」

「えええ……」

 そこには車があって、ラルガが車の中に入っていく。

 それもただ車があるのではない。

 防音壁を切り裂いて、防音壁の外にくっつく形で。

 どう考えてもレゲスを利用している……筈なのだが、俺の勘はあの車はレゲスを利用していなくて、純粋な技術でくっついていると言っている。


「カラジェ……」

「あ、お嬢様ならこれくらいは普通ですよ。よく工具を集めたなぁ。とは思いますけど」

「マジですか……」

 どうやらラルガの技術力は俺の想像を遥かに超えたレベルであるらしい。

 呆然とする俺の横を通って、カラジェもギーリも車の中に入っていく。


「ああうん、分かった……」

 そうして俺も、ラルガの作った車の中に入っていく。


「さて、氾濫区域の南西部に向けて、このまま高速道路の外側をすっ飛ばしていくわけだけど……着くまでの間に幾つか私様から話しておくことがあるわ」

「話しておくこと?」

「ええそうよ」

 車が動き出す。

 高速道路の防音壁の外側には当然ながら障害物の類はない。

 なので、道路を走るよりはゆっくりではあるが、車はスムーズに動いている。


「私様は氾濫区域を管理しているゲームマスターとでも言うべき存在を見つけた。けれど、目を付けられたわ」

「「!?」」

 ラルガの言葉に俺とカラジェが驚く。

 カラジェは恐らくゲームマスターと言う強大な存在にラルガが目を付けられたという事実に。

 俺は第7氾濫区域ではついぞ出てくることがなかった、ゲームマスターが第8氾濫区域では出てきたという事実に。


「経緯を説明しておくわ」

 ラルガが説明する。

 死体から情報を収集する装置を作って、いくつかの情報を手にした。

 その中に水色を主体として、毛先だけが紅い髪の毛の男が何者かと会話している光景があった。

 そして、その何者かが正体不明の技術でもって、過去から未来に向けての逆探知とでも呼ぶべき行為をしてきた……らしい。


「少なくとも、あの二人がゲームマスタークラスの化け物である事。これだけは間違いないと私様は考えるわ」

「まあ、逆探知に関してはちょうど襲撃があったことからして、本当にやっていそうだしな」

 うん、明らかにその二人はヤバいな。

 特に過去から未来に向けての逆探知なんてふざけた真似をしているのに、何者かとしか分からないその存在は。


「……。このまま南西部に向かって大丈夫だと思う?」

「待ち伏せもあり得るが……たぶん、それは他のルートを狙っても同じだと思う。本当にゲームマスターなら、それこそピンポイントでフィラを出現させるなり、武装組織を転移させるぐらいの事は覚悟しておいた方がいいだろうけどな」

「まあ、ゲームマスターが空間を操れないと、そもそもとして氾濫区域の内部が元の数倍の面積になるなんて有り得ないものね……」

「そういう事だな」

 いずれにしても戦闘は避けられない。

 俺たちはそう判断すると、第8氾濫区域の南西部に向かう。

 そして、俺たちは紅い月の花びらが1枚になったところで、そこへ辿り着いた。

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