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7:商店街探索-1

「な、なな……何だこれ……」

 一瞬で足下が果実で溢れかえると言う現象に俺は慌てずにはいられなかった。

 勿論、これがローカルレゲスによるものだと言うのは分かる。

 だが、一体何がどうなれば、こんな結果になるのかがまるで分からなかった。


「え、えーと……」

 しかし、それでも俺はどうにか平静を取り戻すと、足下に転がっている果実をよく見てみる事にする。


「リンゴ、ブドウ、バナナ、キウイ、モモの五種類だけか?それで……うわぁ、そういう事か。そういう事だよなぁ、これ」

 よく見てみれば、果実は五種類しかなかった。

 どれも瑞々しい見た目で、とても美味しそうに見える。

 で、試しに一つ取ってみると、先程まで石畳にこびりついていたはずの血が綺麗さっぱりに無くなっていた。

 此処から察するにこの果実の元になったのは……まあ、あの血なのだろう。

 そして、そう言う事ならば、この商店街のローカルレゲスは生きている者のものではない肉を果実に変換するとかなのだろう。

 正確ではないだろうが、大きくは外れていないはずだ。


「……。あ、うん、普通のバナナだ」

 なお、味や食感については、どれも俺が知るものと大差なかった。

 元を考えると少々気が滅入るが……重要なのは食べれる事であり、栄養になる事だ。

 今は元など気にしている時ではない。


「……」

 そう、気にするべきではないのだ。

 例え、紅い月以外に灯りが無いために全体的に薄暗く、赤みがかった不気味な世界の中で、つい先ほどまでそこには何かしらの動物が倒れていましたと言わんばかりの形に沢山の果実が転がっていてでもだ。


「うん、気にしない。気にしちゃだめだ……」

 重要なのは俺自身の腹を満たす事。

 『月が昇る度に』が発動すれば、腹の具合もよくなるが、それはそれ、これはこれだ。

 と言うか、そう何度も死んでいられるか。


「「「ーーーーー」」」

「ん?」

 そうして無人の商店街を歩いていると、俺の耳に何かが聞こえてくる。

 それが異形の物なのか、人の声なのか、あるいは機械などが発する音なのかもよく分からなかった。

 だがいずれにしても情報を得られる機会には変わりない。

 そう判断した俺は、音が聞こえてきた方へと足を向ける事にした。


「……」

 やがて俺は音の元まで後、曲がり角一つと言う所にまでやってくる。

 音は最初に聞こえた時から少しずつ鮮明に、それ以上に破壊的で悲しみと怒りに満ちたものになっていく。

 もっとはっきり言ってしまえば音は……何かを壊す音と人間の叫び声に変わっていっている。


「二択……だな……」

 良く捉えるのであれば、音の元には人間が居る。

 それも複数人で何かと戦う、そんな協力と言う理性的な行動を必須とする行いが出来る人間たちが、だ。


「すぅ……はぁ……」

 悪く捉えるのであれば、音の元には敵が居る。

 それも複数の人間を相手に暴れる事が出来る……恐らくは異形の存在が、だ。


「出来る事なら、人間側が勝っていると良いなぁ……」

 俺は曲がり角に背を付けると、幾らか静かになりつつある曲がり角の向こうをゆっくりと覗く。

 そして見ることになる。


「逃げろ!化け物だ!俺たぎゃ!?」

「「「う、うわあああぁぁぁ!」」」

「まったく……困ったものだ」

 金槌を持った人間が、別の人間を叩き、叩かれた人間が……一瞬にして真っ赤な炎になって爆散する姿を。

 それを見た他の人間たちが一目散に逃げ出していく後ろ姿を。


「この第七氾濫区域でただの人間が吾輩に勝つことなど不可能であると言うのに」

 金槌を持った金髪の人間は……奇妙な姿をしていた。

 着ている物は燕尾服に毛皮付きのマント。

 履いているのは金属製のパーツが所々にあしらわれた革靴。

 胸には鳩のような鳴き声を上げる懐中時計が提げられている。

 性別は声からも体形からも分からない。

 そして顔には……沖縄のシーサーのような、赤を主体とした色合いの獣の仮面が付いていた。

 だが、きっとあれはシーサーではないだろう。

 上下で一対ずつ太い牙が生えて、口の外に出ているし、装飾が日本や沖縄の神話由来としては妙に豪勢だ。

 たぶんだけど、東南アジア辺りの何かだろう。

 そしてそいつは……仮面の異形は……


「そうは思わないか?我が同族よ」

「っつ!?」

 俺の事に気づいていた。

 気付いて、ここの月のように紅い目で、こちらをしっかりと見据えていた。

 そして語りかけて来ていた。

 同族、と。


「お、お前は何だ!」

 訳が分からなかった。

 だが、この状況でやるべき事は分かっている。

 だから俺は曲がり角から飛び出ると、右手の人差し指で仮面の異形を指さす。


「ん?ああ、これは失礼。小さくともレディはレディでしたか」

 鳩の鳴き声が聞こえてくる。

 けれど、仮面の異形は俺に指さされたまま、丁寧に一礼をしつつ自己紹介をしようとする。

 ありがたい話だ。

 そんな事をしている間に、10秒と言う時間は間違いなく過ぎる。


「男爵である吾輩から名乗るのが礼儀であったか」

 懐中時計から鳩の鳴き声が聞こえてくる。


「吾輩の名は……」

 そして10秒が経ち、マーキングは……


「ダイ・バロン。名前と見た目通りの男爵である」

 されなかった。


「え?」

「さて、それでは貴方のお名前をお聞かせ願えますかな、レディ?ああ、名乗りたくないなら、別に構いません。名乗らないのであれば、その時は……殺すだけですから」

 困惑する俺の前でダイ・バロンは駆け出す。

 先程、叩いた人間を爆散させた金槌を振りかぶりながら。

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