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19:幕間-2

「……」

 ノイズ混じりの映像が液晶画面に映り込む。


『いやっ!止めて!いやああぁぁぁ!!』

『あぎっ、あがっ、あぐっ……』

『やっ……』

『だ、誰かああぁぁぁぁ!』

『肉を食いたかったんだろ。ほら、食えよ』

 再生される映像は……正直に言って、あまり見たくないものだ。

 レイプされる女性の映像、気に食わないというだけで一方的に誰かを殴り飛ばす映像、反撃してきたからと男性の頭にショットガンを打ち込む映像、泣き叫ぶ子供を囮として自我の無いフィラの前に投げ込んで子供ごと殺す映像、食事だと言って人間の肉を奴隷として扱っている人たちの前に投げ込む映像。


『ぎゃはははは!マジで天国だ!』

『『インコーニタの氾濫』さいっこおおぉぉ!』

『此処は俺たちの国だ!神様愛しているぜええぇぇ!』

『食え食えっ!マトモな食料はマトモな人間が食わなきゃなぁ!!』

『ふうううううううぅぅぅぅぅ!!最高にキマってきたぜええぇぇ!!』

 そして、それらの行為を行う傍らで、下品な笑い声を上げ、残された僅かな普通の食料を貪り喰らい、麻薬と煙草を好き放題に使う映像が、その場にいた当人の視点で流れる。


「下らない……こいつらが私様と同じ人間だなんて思いたくもない」

 本当に下らなかった。

 こいつらは生産的な行動など一つも取っていない。

 脱出するための行動も碌にしていない。

 神は神でも邪神としか言いようがない神に信仰を捧げている。

 獣以下の人の姿をしたゴミが……いや、ゴミと言う言葉で表現するのはゴミに対して失礼だと感じるような記憶が流れていく。


「?」

「ギーリは見なくていい。と言うより見ないで。周囲の警戒とバッテリーの充電に専念していなさい」

「……」

 画面から顔を上げた私の言葉を受けて、ギーリは私が改造した車の後部座席に再び潜る。

 レーダーには動くものの反応も生命体の反応もなく、周囲の安全は確保されているが、バッテリーの充電が完了するのは数分後の満月と同時か、少し遅れてとなるだろう。


「……」

 私はパソコンのコードが繋がっている先を……機械と生物が融合した物体を利用して作った、死体の脳みそから生前の記憶を読み取る装置を見る。

 カーラとイーダの二人との合流が失敗に終わってから、私は第8氾濫区域の外に出るべく、境界を目指しつつ、この装置を使って情報収集を行っていた。


「イーダの言葉が事実ならば、『インコーニタの氾濫』は悲劇を生み出すために生み出される」

 情報収集の結果として、確かに第8氾濫区域では多数の悲劇が生み出されていた。

 その悲劇の中には、フィラによって行われたものもあれば、人間の手によるものもあった。

 悲劇を生み出すことを目的とする者がいるならば、その目的は見事に果たされていると言っていいだろう。

 ただ……


「観客の視点で見るなら、大半の悲劇はただの焼き直しね。これを見て楽しむ奴がいるとしても、こんな映像で満足するとは到底思えない。自分で言っていてクソッタレとしか言いようのない思考だけど」

 イーダは敢えて全てを語っていない。

 あの口ぶりからして敵の正体についても正確に掴んでいそうなのに、レポートも含めて、わざと情報を欠けさせている。

 そうしなければ、情報を得た誰かが危険に晒されると考えて。

 敵が世界規模の富裕層……いえ、下手をすればもっと上の方にまで、あるいは末端にまで食い込んでいる事を想定して動いているように感じる。


「ん?」

 画像のノイズが激しくなる。

 一瞬、この暑さで死体の脳みそが駄目になってきたとも思ったが、死体の状態を見る限りでは理由は別にありそうだった。

 だから私はパソコンの画面を見る。

 そして、画面に妙なものが映り込んでいるのを見つける。


『ーーーーー』

『どうかだって?順調さ』

 それは毛先だけが紅色で、他は水色の髪の男が、高台であると思しきホテルの一室で誰かと話している姿。

 どうやら、偶々この死体の男が生きていた頃に、近くを通りかかったらしい。


『ーーーーーーー』

『心配す……なよ。ヴァ……乗り……』

 とりあえずこの水色の髪の男はフィラでいいだろう。

 毛に染めた感じがないし、なにより銃も持っていないのに、この記憶の持ち主である死体の男が敬意を払っている感じがある。


『ダイ・バ……取り……せる……馬……人形……はは……』

「ちっ、別の場所に行くんじゃないわよ。処理が面倒になるじゃない」

 私の勘が言っている。

 この会話は重要だ、聞き逃してはならないと。

 だから、いくつかの処理を行って、更なる情報の引き出しを試みる。


『htwkybt、らあkvvぷ ktwtvk。bywきゃq……』

「っつ……!?」

「!?」

 けれど、その言葉を聞いた瞬間。

 私はイヤホンを耳から引き抜き、パソコンも装置もまとめてショットガンで撃ち抜き、破壊していた。


「ーーー!?」

「ギーリ!すぐにこの場を離れるわよ!!」

「!?」

 どういう理屈かは分からない。

 けれど、私の勘はこう言っていた。

 過去から未来に向けての逆探知が行われた。

 敵……それも『インコーニタの氾濫』そのものに深く関わる敵が、今この場で自分たちの情報が私に渡った事を、正体も原理も何もかもが分からない技術によって認識した。

 となれば、敵が取る行動など決まっている。


「よう、お前がクラ……ぬおっ!?」

「「「ーーーーー!?」」」

 だから私は即座に車を走らせ始めた。

 銃をこちらに向けて構えつつ、堂々とやってきた何人かの人間を轢きながら、その場を離脱。

 置き土産に手製のグレネードも爆発させて、完全に撒く。


「クソが!あの銀髪と言い!今のガキと言い!絶対にこのヴァレンタイン様が殺してやる!捕まえて!徹底的にぶっ壊して!殺してくださいと懇願させてから、ドブに捨てて殺してやるぞ!このクソッタレがあぁぁ!!」

 そうして私は利用されているとも気づかずに粋がり、叫び声を上げている馬鹿などよりも遥かに悍ましく、強大な敵に怯えながら逃げ出した。

01/29誤字訂正

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