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12:ハイウェイ-2

「殺すっ!」

 何故第7氾濫区域で死んだはずのダイ・バロンが生きているのか。

 何故あの時とは大きく異なる見た目なのか。

 この場においてそれらは大した問題では無い。

 この場において問題なのは、ダイ・バロンが強力なマテリアを持った上で敵として現れ、こちらに攻撃を仕掛けて来ていると言う点である。


「カラジェ!奴の槍は絶対に触れるな!」

「わ、分かった!」

 そう、槍だ。

 ダイ・バロンの持つ朱い穂先の槍は、先程突き刺した相手を爆発四散させてみせた。

 具体的にどんな効果を持つかまでは分からないが、前回のダイ・バロンが持っていた金槌と同じく一撃必殺の力を持つ事だけは間違いない。


「死ねええぇぇい!」

「っつ!?」

 バイクで俺の方へと突っ込んできたダイ・バロンが槍を振るい、俺は紙一重でそれを避ける。

 そして俺に当たらなかった槍の穂先は道路に触れ……道路を爆破。

 飛び散った瓦礫が俺の身体を打つ。


「ぐっ……コイツは……」

 俺は苦痛に顔を顰めつつも、ダイ・バロンの姿を見る。

 攻撃を外したダイ・バロンが俺から遠ざかっていく。

 朱い槍の穂先に触れた部分の道路を爆破しつつ、道路に槍を引っかけていると思えない速さで。

 間違いない、ダイ・バロンの持つ槍のレゲスは、穂先に触れた相手を問答無用で爆破すると言う物だ。

 つまり、防御による対処をしてはいけないと言う事である。


「だが、あのスピードなら……うげっ」

「外したか。ならば……」

 ある程度俺から離れたところでダイ・バロンがUターンしてくる。

 それも壁に衝突して止まった車をバンクとして使い、三次元的にひっくり返り、明らかに空中で加速を行いつつ。

 そして、再び俺に向かってくる。

 やはり、あのバイクもマテリアであるらしい。

 レゲスは空中でも走れると言う所か。


「せいっ!」

「新しい使い魔か」

 カラジェが複製した鉄材をダイ・バロンに向けて投げつける。

 だが、ダイ・バロンは難なくカラジェの投げつけた鉄材を槍で打ち払い、爆破して防ぐ。

 けれど、その行動で時間は稼げた。


「死……っつ!?」

「ちいっ!」

 ダイ・バロンがよろめきつつも俺の仕掛け……飾り部分を回す事で大きくなった『魔女の黒爪』を回避して、俺の横を通り過ぎていく。

 俺もダイ・バロンがよろめきつつも振るった槍をギリギリのところで回避して、死を免れる。


「小癪な……」

 距離が出来たダイ・バロンを乗せたバイクが宙を駆けあがり、高速道路の防音壁よりも高い場所の空中を走り始める。

 その動きに俺は即座に『魔女の黒爪』のサイズを戻すと、ダイ・バロンの事を指差し始める。


「カラジェ!逃げるぞ!」

「う、うん!」

 そしてカラジェに俺を抱えさせて、マーキングが完了するまでの間、逃げるを任せようとした。


「ならばこうだ……」

「うげっ……」

 しかし、ダイ・バロンは俺のレゲスを知っている。

 だから10秒経過する前に防音壁の向こうに移動。

 マーキングを途絶えさせる。

 けれどマーキングが途絶えた以上に拙い事がある。


「全力で左右に跳びながら走れ!下から来るぞ!!」

「っつ!?」

 俺の指示に従ってカラジェが反復横飛びをするような動きのままに前に進み始める。

 何故、そんな事をするのか。

 決まっている。

 既に破砕音が道路の下から迫って来ている。


「ぬんっ!」

「ひうっ!」

「ぐっ……」

 ダイ・バロンが槍で道路を爆破しつつ、高速道路の下から飛び出してくる。

 飛び出してきて、空中で身を翻し、即座に防音壁の向こうへと再び姿を隠す。


「こ、こんなの……」

「とにかく走れ!止まったらいい的だぞ!!」

「わ、分かった!!」

 何度も何度もダイ・バロンが飛び出してくる。

 下からも左右からも飛び出してくる。

 俺のレゲスで迎え撃とうとしたが、上手くタイミングをずらされているのか、何かしらのレゲスでこちらの攻撃を把握しているのか、適当な石や廃材をレゲスで黒い液体に変えて、気化した煙による罠を張った時に限って仕掛けてこない。

 カラジェは『鳥の翼』を利用して負荷を軽減した上で走り続けてくれているが、ダイ・バロンの狙いは少しずつ正確さを増している。

 このままでは二人纏めて爆散させられるのも時間の問題だろう。


「こうなったら……」

 高速道路そのものを俺のレゲスで黒い液体に変えて、無理矢理巻き込むか。

 俺の思考はそこまで追い詰められていた。


「きゃっ!?」

「うおっ!?」

「しぶとい……」

 だが、それよりも早くダイ・バロンが何度目かの道路の下からの突き上げを行う。

 槍そのものはカラジェの奮闘もあって避けることに成功した。

 けれど、今までで一番正確な攻撃は大量の瓦礫を俺たちに向けて飛ばして来ていて、勢いよく走っていたカラジェは転倒し、俺も投げ出され、『魔女の黒爪』がセットされた水鉄砲も遠く離れた場所に行ってしまう。


「だがこれでお終いだ」

「ぐっ……」

 防音壁の上にまで飛び上がったダイ・バロンが空中で小さくUターンをして、俺の方へと向かおうとしてくる。

 避ける暇はなかった。

 俺は死んでも復活するので問題ないが、俺の死はカラジェの死も意味し、カラジェには復活する手段はない。

 だから、俺を狙うこの攻撃も避けなければならない。

 しかし、上から迫ってくる相手の攻撃を避け切る手段は、痛みを堪えなければならない状態の俺には無かった。


「悪い。カラジェ……」

「イーダ……」

「死……」

 ここまでか、俺がそう思った時だった。


「ね?」

 ダイ・バロンの頭から赤い何かが弾け飛ぶ。


「は?」

 それに遅れて乾いた音が周囲に鳴り響く。


「へ?」

 ダイ・バロンが制御を失ったバイク共々高速道路の下に落ちていく。


「動かないで。そこの蠍と銀髪」

「「!?」」

 そして、呆然とする俺たちに向けて聞き覚えのない少女の声がかけられた。

01/22誤字訂正

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