47:魔女と神獣-2
「それで!どうやって倒すの!」
「そりゃあ、勿論俺のレゲスでだ!」
「殺ス殺ス殺ス殺ス殺スウウゥゥ!!」
俺を抱えたツノとダイ・バロンの命がけの追いかけっこが始まる。
脚の速さについては、単純な身体能力はほぼ互角だが、俺と言う荷物を抱えている分だけツノの方が若干遅い、と言う所か。
既にダイ・バロンは俺たちのすぐ後ろにまで来ている。
「死ネッ!」
「おっと」
「いい石だ……」
ダイ・バロンが腕を地面に叩きつける。
ツノはその一撃を回避したが、その一撃によって地面は叩き割れ、細かい石やコンクリートの破片が周囲に飛び散る。
俺はそうして飛び散った破片の幾つかをキャッチすると、素早く舐めた上でカウントを開始。
「せいっ!」
「ッツ!?」
そして10秒経過する直前で後方にばら撒き、ばら撒いた破片の一部だけを指差し続けてレゲスを発動。
ダイ・バロンにかかるように黒い液体を発生させ、仮にかからなくてもダイ・バロンを巻き込めるように黒い煙を生み出す。
「喰ラウカアアァァ!!」
「ちっ、やっぱ動きが速いな」
だが、獣の姿となったダイ・バロンの反応速度はこちらの想像以上に早く、難なく俺の生み出した黒い液体も黒い煙も避け切って見せる。
「うん、でも続けて!流石に距離が近すぎると怖いし!」
「まあ、そうだろうな」
しかし、無駄な動きをすれば、それだけツノとダイ・バロンの距離は開き、攻撃を避ける事が容易くなる。
だから、無駄ではない。
「なら折角だし次は岩でもいってみるか!」
「了……解っ!」
「ッツ!?喰ラウカ!」
そして距離が開けばこちらが出来る事も多くなる。
例えば、俺の唾液を付けた上でマーキングを開始した100キロ近い岩を、ツノのレゲスによって持ち上げて投擲。
これはダイ・バロンが前足の一撃で岩を破壊した上に、素早くその場から飛び退いて見せた為にダメージは与えられなかったが、更に距離を開く事が出来た。
「生徒会長……借ります!」
「ヌグオッ!?」
逃げ回っている間に生徒会長が使っていた旗が地面に突き刺さっているのを見つけて、その旗を槍のように投げる事で、ダイ・バロンの左目を潰す事も出来た。
「せいっ!」
「小癪ナアァァ!!」
小さな池に唾液を落とし、そこにマーキングした小石を投げ入れる事でダイ・バロンの足止めをする事も出来た。
そうして、これらの行いの結果として……
「殺ス殺ス殺ス!魔女ハ殺ス!!使い魔モ殺ス!!人間共ヨ!吾輩ヲ畏レヨ!称エヨ!血肉トナレル事ニ歓喜セヨ!死ヲ!吾輩ヲ称エヌ愚者ニ死ヲ!!吾輩ハだい・ばろん!庇護ノ対価ニ命ヲ捧ゲヨ!!」
ダイ・バロンは激しく怒り狂い、俺とツノ以外は視界にも入らないと言った様子で、口と四肢から大量の火の粉を撒き散らしつつ俺たちを追いかけてくるようになってくる。
途中にあるもの全てを薙ぎ払い、噛み砕き、まるで炎の竜巻の様に。
「確かに恐怖はするかもね。神様じゃなくて化け物としてだけど」
「まったくだ。一体何がどうなれば、神獣であるはずのバロンからあんな物が生まれるのやら、だ」
だが、その怒りは致命的な物と言えるだろう。
ツノに運んでもらった俺は手ごろなサイズの岩の陰に隠れると、簪の形をした
「氾濫区域を破壊した者には
「ふうん、そうなんだ」
俺は『魔女の黒爪』に飾りのような形で付いている球体を回す。
すると『魔女の黒爪』が少しだけ大きくなって、岩にしっかりと突き刺さる。
「コロスウウゥゥ!!」
「おっと」
「助かる」
直後、ダイ・バロンが岩の影に居た俺たち諸共噛み砕こうと、『魔女の黒爪』の刺さった岩に噛みつき、噛み砕き、その破片の一部を……『魔女の黒爪』の刺さった石ころを飲み干す。
「で、これで詰みだな」
「そうなんだ」
「フシュルルルル……」
逃げ出そうとすらしない俺たちの事を訝しむ事もなく、ダイ・バロンはこちらに近づいてくる。
「ああそうだとも」
「!?」
だが、その動きは唐突に止まる。
止まって、胸を抱えるような形でうずくまり始める。
「『魔女の黒爪』が持つレゲスは3つ。その内容を要約してしまうのならば、『魔女の黒爪』は俺の指であり、大きさを自由に変えられ、常に湿っている、であり、10秒間突き刺さり続けたものは俺のレゲスによって黒い液体に変化する。と言う事になる」
「うげっ……エグイね……」
「が、ギ……ごげ……」
口から黒い煙のような物を吐き出しつつ、猛烈な痛みによってダイ・バロンがその場で暴れまわり始める。
けれどこうなれば、もう俺でも止める事は出来ない。
「らんだアアァァ!いーだアアァァ!!あぎhsbkvがふぃtq……!?」
「俺は魔女だからな。獣を狩るなら、使うのは槍でも弓でもない」
俺のレゲスは対象となった者に必ず死を与える。
ダイ・バロンは身体の内側から黒く染まって、激痛と共に肉体が崩壊していく。
それは正しく……
「ーーーーーーーーーー!!」
「毒と呪いだ」
滅びである。
01/09文章改稿