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45:第7氾濫区域中枢塔-5

「ーーーーーーーーーーーーー!!」

 核が変化した黒い液体を呑み込んだ瞬間。

 俺の中に夥しい量の情報と力が流れ込んでくる。

 情報は文字通りに第7氾濫区域の全てが、何処に誰が居るのかも、何をしていたのかも、レゲスとは何か、誰がどのようにして死んだのか、黒い壁に飲み込まれて混沌に取り込まれた人間がどうなったのか、これまでに第7氾濫区域で起こった全てがダイレクトに俺の頭に……否、精神と魂に流れ込んでくる。

 力は一言で表してしまえば太陽のような物だった、第7氾濫区域と言う小さくとも新たな世界と呼ぶべき領域を作り上げるのに必要なだけの力であり、その力と比べてしまえば俺は文字通りに木端のような存在で、俺が制御するにはあまりにも大きな力で、俺の肉体だけでなく、精神と魂を焼き尽くそうとしてくる。


「はははHAHAHA!Orocafsms、zsくphs yそうぴえp すしぃtrちyp pzpyysls」

 ダイ・バロンの哄笑が聞こえてくる。

 俺の意識が薄れていく。

 俺の身体が崩れていく。

 その中で俺は一つだけローカルレゲスを弄った。


「んz?」

 そうすることで、どれだけの情報が流れ込んで来ようとも、俺と言う存在が完全に呑まれて何処かに流れていく事は無かった。

 どれほどのエネルギーが俺の身体の中で駆け回ろうとも、俺と言う存在を破壊し尽くす事は出来なかった。

 何故ならば……


「blぶfl いじゅrうえy?」

 『月が昇る度に』によって復活してしまう俺は、もう死にたくても死ねないのだから。

 呼吸すら出来ないような情報の荒波に呑まれて、自己が溶けていったとしても、溶ける前の俺に戻るから。

 死を懇願するような痛みが体を襲って来て心が壊れても、心が壊れる前の俺に戻るから。

 体を焼き尽くされ、磨り潰され、塵に帰っても、それらが始まる前の俺に戻るから。


「hqhktq……」

 そう、『月が昇る度に』だ。

 一瞬ごとに俺にだけは新たな月が昇ると、俺はローカルレゲスに書き加える事で、一瞬の間に破壊と再生を繰り返した。

 何十度も何百度も何千度も繰り返して、少しずつ少しずつ第7氾濫区域の核を侵食していった。

 俺のレゲスによって生じる黒い煙が触れた者の生命を蝕むように、蝗の大群が草木を食みつくすように。

 俺の領域を広げていった。


「pぉyろち……」

 俺のレゲスによって黒い液体と化した核は、破壊されないと言うレゲスに従って、気化する事なく俺の身体に取り込まれ、あるいは黒い液体を主として俺の事を吸収した。

 もはや第7氾濫区域の核とは俺の事であり、俺は第7氾濫区域の核である。

 そしてそれ以上に俺は……イーダである。

 人間である。

 第7氾濫区域の破壊を望むものである。

 故に……


「ローカルレゲス1000:フィラ・ダイ・バロンは壁から離れられない!」

「っつ!?」

 俺の言葉と共に生じた不可視の壁によってダイ・バロンは壁に叩き付けられた。


「ぐっ……何が……」

「はああぁぁ……ローカルレゲスを再編……固定……」

 俺は制御コンソールがあった場所から、まだうずくまったままとなっているツノに近づく。


「編集開始……ローカルレゲス6:フィラ・三連ツノの肉体を全快状態へと回帰。ローカルレゲス7:フィラ・三連ツノへの攻撃を障壁により自動防御。ローカルレゲス6を破棄。ローカルレゲス7の維持の為に24時間分のエネルギーを分配」

「あ……う……」

 気絶しているツノの両手を癒すと共に、周囲に青い障壁を展開。

 この後に何があっても大丈夫なようにする。


「魔女め、貴様まさか……」

 そうしてツノの安全を確保したところで俺はダイ・バロンの方を向く。

 ダイ・バロンは俺が定めたローカルレゲスによって、壁際から動く事が出来ないようになっている。

 だが、俺が何をしているのかは理解しているのだろう。

 俺の事を呪い殺すような勢いで睨み付けて来ている。


「ああそうだ。第7氾濫区域、乗っ取らせて貰った。ざまあみろだ」

 対する俺は魔女の名に相応しい笑みを浮かべつつ、宣言する。

 俺の勝ちだと。

 だからとっとと居なくなれと言わんばかりに。


「くくくっ……はははっ、ははははは!」

「ふふふっ……ふふふっ、あはははは!」

 だが、そんな俺の思惑など知ったばかりにダイ・バロンが笑い声を上げ始める。

 対する俺も笑い声を上げ始める。


「それで!その状態は!後何秒保てる!出資者の気まぐれで!力を与えられただけの貴様如きにだ!」

 そう、核と同化するなどと言う無理をそう長時間も通せるわけがない。

 既に俺の力の劣化は始まっている。

 新たなローカルレゲスの追加は出来ないようにしているし、俺が核であると言う事実も変わっていないが、第7氾濫区域を発生させた何者かが俺から所有権を取り返そうとやっきになっていて、ものすごい勢いで力が奪われている。


「ひひひひひっ、10秒もあれば十分さね。なにせ、俺の出資者様の一人はダイ・バロン、お前の出資者が大っ嫌いな魔女のランダ様だからねぇ!」

「まさか!?」

 だが何も問題はない。

 俺の根源の一つが、魔女ランダが俺の口調に影響を与えるほどの力を貸してくれている。

 良いものを見させてくれたと、ダイ・バロンの根源である神獣バロンに一泡を吹かせてやれと、こんな出来の悪い殺戮ショーなんざ台無しにしてやれと言ってくれている。

 そして、魔女ランダ以外にも、密かに俺に力を貸してくれているものが居る。

 だから俺は自分自身を指差す。

 10秒間、指差し続けて己を黒い液体に変化させる。


「止めろおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 第7氾濫区域の核を破壊するためには、このエリアの全てのローカルレゲスとグロバルレゲスを把握していなければならない。

 だが、今の俺は第7氾濫区域の核であり、第7氾濫区域そのものであり、第7氾濫区域の全てのローカルレゲスとグロバルレゲスを把握している。

 故に、今の俺が俺自身に対してレゲスを用いると言う事は……


「お断りだね。己の役割も忘れて人々を傷つける獣なんざ、三文芝居の小屋と一緒に滅びちまいな」

 第7氾濫区域の内と外を分ける黒い壁を含めた、第7氾濫区域の全てが黒い液体に変化し、気化して黒い煙となると言う事。

 第7氾濫区域の崩壊を意味するのである。

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