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38:外を目指して-6

本日は三話更新になります。

こちらは二話目です。

「ツノ、分かっていると思うが……」

「うん、迂闊には入らないよ。即死させるローカルレゲスとしか分かってないし」

 俺とツノは住宅街と湿地の境界線上、後一歩だけ下がれば、湿地に入ると言う所で湿地に背を向け、唐傘のフィラと蛸のフィラの姿を見る。


「もhsdsmm……」

 唐傘のフィラは堂々としている。

 俺たちがここからどの方向に逃げようとも、逃がす気はないと言わんばかりにこちらを睨み付け、口から赤い息を吐き出している。


「んjんkんkんkんkんk……」

 蛸のフィラは俺のレゲスの危険性を察してか、遮蔽物から姿を現す事は無い。

 だが、近くには居るのだろう。

 鳴き声は聞こえているし、時折ではあるが舌のような物が見えている。


「イーダ、上手く抱えてね」

「あ、ああ……」

 俺はツノにタオルを渡す代わりに、荷物を少しだけ受け取り、それが終わると後方の湿地に目をやる。

 一言で言ってしまえば湿地でまとめられるエリアだが、池、沼、それに田んぼが混在している。

 そして時期的には水が入っていない田んぼにも水が入っていて、殆どの場所で水が張っているか、ぬかるむかしていて、生物は葦のような植物以外には見当たらず、生物の痕跡も時折人骨や動物の骨がカカシとして飾られているぐらいである。

 うん、今が年末であり、かなり肌寒い事を考えると、ローカルレゲスの件を抜きにしても長時間の探索は控えるべき場所だろう。


「lptpぢ!」

「すぅ……」

 唐傘のフィラが番傘を振り上げながら突っ込んでくる。

 対するツノは……


「はぁ……」

 番傘が振り下ろされるまでは動かず……


「どmr!」

 唐傘のフィラのレゲスを纏った番傘が自分の身体に当たる直前になって少しだけ動いた。


「msちぃ!?」

 乾いたタオルを入念に巻き付けた右手で、唐傘のフィラの番傘を掴み取ると言う動きをした。


「予想通りだね……」

 そして……


「さよならっ!唐傘君!!」

「みpちぃ!?」

 そのまま全力で湿地に向かって投げ飛ばし、沼に叩き込んだ。


「お、おおっ……」

「これで、即死したにしろ、しなかったにしろ、暫くは動けないでしょ」

 何が起きたのか。

 それは一つ一つの要素をきちんと考えていけば分かる事ではある。

 唐傘のフィラのレゲスは水や水を含むものを弾く事であるが、その有効範囲と言うか射程は殆ど身体に接触するかどうかと言うラインである。

 だから、乾いたタオルを手に巻き付けるなどすれば、確かに触れることは可能だろう。

 そしてツノのレゲスは左手に持っているものの20倍程度の重さの物を重量及び空気抵抗なしで持てると言うもの。

 俺の体重と荷物を合算すれば……まあ、30キロは確実に超える。

 なので、その20倍である600キロまでならツノは右手一本で自由に持て、投げ飛ばせる。

 相手が生物であろうと、物質であろうと、一切関係なくだ。


「うん、イーダが丁度いい重石になってくれてよかった」

「そ、そうか……」

 沼に叩き落された唐傘のフィラが上がってくる気配はない。

 だがそれも仕方がない事だろう。

 俺やツノのレゲスのように自身の動作や行為を発動のトリガーとするレゲスでなければ、基本的にレゲスと言うのは状況も状態も関係なく発動し続けるものだ。

 そして唐傘のフィラは先述の通り、自身に触れそうになった水を自分の意思とは無関係に弾いてしまう。

 それは俺のレゲスや、血で濡れた武器で仕掛けてくる相手には無類の強さを誇るレゲスだが、今唐傘のフィラが陥っているような、水に触れなければ脱出する事が出来ない状況においては致命的な欠陥となる。

 こうなってしまえばローカルレゲスなど関係なく、後は沼の底の底にあるであろう乾いた地面に激突するまで、泥を弾き飛ばし続けてしまうだけである。


「じゃ、これで残りは……」

「ああいや、そっちの心配はもうしなくて良さそうだ」

 ツノが俺たちの近くに居るもう一体のフィラ……蛸のフィラへと意識をやろうとする。

 だが、そちらのフィラへの心配は既にしなくても問題は無さそうだった。

 と言うのもだ。


「……」

「死、死んでる……」

「どうやら、本当にも問答無用みたいだな……」

 俺たちの死角から舌を伸ばそうとしていたであろう蛸のフィラは、湿地帯の土に舌の先が僅かに触れたと思しきところで完全に停止し、力尽きていたからである。


「念のために俺のレゲスは使っておくぞ」

「うん、お願い」

 死んだふりの可能性もあったので俺は蛸のフィラを10秒間指差し、事前に触れさせておいた俺の体液と反応させる形でその身を黒い液体に変化させておく。

 これでもう蛸のフィラについて心配する必要はないだろう。

 だがしかしだ……。


「本当にこの湿地のローカルレゲスはなんなんだ」

 俺は自分たちの目の前に広がる湿地帯に恐怖を覚えずにはいられなかった。


「地面に触れた生物は死ぬ……だと、植物も枯れているはずだよね」

「ああ、そうなると思う。考えられるのは動物限定……唐傘のフィラがローカルレゲスによって即死していなければ、もっと範囲は絞れる気はするが……」

 土に触れた者を死に至らしめる。

 単純にして強力無比、そしてそれ以上に理不尽なローカルレゲスに怯えずにはいられなかった。

 上手く使えば、利用は出来るし、現に今使う事は出来た。

 だが……あまりにも危険過ぎるし、強力過ぎるとも思った。


「……。ツノ、少し試してみてもいいか?」

「万が一が起きてもイーダなら大丈夫……って事?」

「ああ」

「……。分かった」

 ツノが俺を地面に降ろし、少しだけ離れる。

 そう、この第7氾濫区域のレゲスを含む者はフィラにしろ、マテリアにしろ、帳尻を合わせるように作られている感じがあった。

 その中で、この湿地帯はローカルレゲスが強すぎるし、広すぎるとも思った。


「すぅ……」

 だから『月が昇る度に』よって復活が可能な俺は意を決して……


「ふんっ」

 湿地帯の地面に手をつく。

 そして俺の命は……


「あれ?」

「え?」

 何の変化も生じなかった。

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