37:外を目指して-5
新年あけましておめでとうございます。
本日は三話更新になります。
こちらは一話目です。
「前門の唐傘に、後門の蛸ってか?」
「イーダ、それ意味からして間違ってる」
「dsyr……」
鮒釣のオッサンは唐傘のフィラに殺された。
だが、唐傘のフィラにキンキラが付けた傷以外に傷は無く、返り血の一滴も浴びていない。
鮒釣のオッサンはレゲス的に単独行動を出来るタイプではないし、一方的な虐殺が行われたと考える方がいいかもしれない。
そして、次の獲物は俺たちなのだろう。
腰を僅かに落として、両手に持った番傘をどのようにでも振るえるように体勢を整えている。
「づlhl づlhl づlhl」
「そうかい。まあ、それはさておいてだ……」
後方に居る蛸のフィラもこちらの様子を窺っている。
俺たちが僅かにでも隙を見せたならば、その僅かな隙を狙い捕えて食い殺すと言わんばかりに舌を揺らめかせている。
「どmrちぃ!」
「gztfj gztfj gztfj!」
唐傘のフィラが動き出す。
それに合わせて蛸のフィラも動き出す。
「屋根だ!」
「うんっ!」
ツノは手近な塀を経由して、住居の屋根の上に跳び上がろうとする。
しかし、ツノの移動よりも相手の攻撃がこちらに届くのが速いと俺は感じた。
「ふんっ!」
「ー!?」
だから俺はタオルの一つを投擲、レゲスによって黒い煙を発生させる。
すると、その危険性を察して蛸のフィラは慌てて舌を引っ込める。
「jsちぃ」
だが、唐傘のフィラは躊躇わずに番傘を動かし続け、傘の石突がまるで槍のようにこちらに向かって迫ってくる。
当然だ、番傘は番傘であって、生物ではなく、俺のレゲスの影響など受けやしないのだから。
「ぐっ!?」
「イー……きゃあっ!?」
けれど唐傘のフィラのレゲスはそれとなく読めている。
だから俺は背負っていたリュックを素早く自分の身体の前に出すと、盾のように構える。
すると、番傘がリュックに触れたタイミングで、圧力のような物が俺の身体に生じ、その圧力はツノにも伝わる。
そして、俺もツノも一緒に吹き飛ばされるが……当初の予定通りに住居の屋根に上ることに成功する。
「はぁはぁ、やっぱりか」
「や、やっぱりって?」
「ぃdp」
住居の屋根に上った俺とツノに対して、唐傘のフィラも蛸のフィラも今すぐに攻撃を仕掛ける様子はない。
迂闊に俺たちに攻撃を仕掛ければ、その隙を狙って自分が攻撃をされるかもしれないからだ。
だが、この睨み合いは長くは続かないだろう。
と言うのもだ。
「唐傘のフィラのレゲスは簡単に言ってしまえば撥水だ」
「撥水?」
「正確には水及び水を含む物質に、濡れている物質を特定のルールに従って弾く、という所だろうけどな。だからキンキラの攻撃は剣に血が付いていなかった一度目は通って、血が付いた二度目は反射されたんだろう」
「……」
唐傘のフィラのレゲスは水を弾く事であり、ほぼ全ての生物はその身体に大量の水を保有している。
故に道具かレゲスを使わなければ、攻撃の為に拳を突き出すなどしても、反射されて、唐傘のフィラには傷を付けられないからだ。
で、そう言うレゲスだからこそ……
「、sぃjsぉds、sfs」
「jbdwgj!?」
唐傘のフィラは蛸のフィラに襲い掛かり、蛸のフィラは攻撃を防いだ上での反撃を試みようとする。
だが、唐傘のフィラの一撃によって蛸のフィラの舌の一本はあっけなく弾けて切れ、伸ばした舌はあっけなく吹き飛ばされる。
この分で行けば、そう遠くない内に蛸のフィラは唐傘のフィラによって討たれるだろう。
「あれ?てことはもしかしてガス化しないとイーダのレゲスが通じない!?」
「そうなるな。体液に触れさせたくても触れさせられない」
そうなれば次はまた俺たちの番である。
そして、ツノ以上の身体能力を持っていそうな唐傘のフィラから逃げ切る事は至難の業になるだろう。
だから今のうちに手を打たなければいけない。
俺は先程盾に使ったリュックの中から、中身含めて無事であったペットボトルを一本取り出し、蓋を緩めた上でツノに渡す。
「だから頼む」
「分か……った!」
ツノが両者の間に向けて勢いよくペットボトルを投げる。
「ssmm?」
「hljmhl hljmhl hljmhl!」
ペットボトルもその中身も唐傘のフィラに当たる事は無い。
どちらも濡れている物あるいは水そのものだからだ。
けれど弾かれたそれらは蛸のフィラにはかかった。
そして、今のペットボトルの中身だが……俺の体液を微量に含んだ水である。
つまりだ。
「10、9、8……」
後は10秒間、蛸のフィラを指さすだけで蛸のフィラは殺せる。
「hljmhl……んzwgj!?」
「msもちぃ!?」
「ちっ、流石に察しが良い」
「本当だね。何なの、あの察しの良さ」
だが蛸のフィラは俺が指さし始めると同時に、舌の一本を弾き切られるのも構わずに、遮蔽物に隠れて俺のカウントを切ってくる。
遮蔽物に隠れた蛸のフィラを唐傘のフィラが追うが、これでは一網打尽にする事は出来ない。
蛸のフィラだけが死んでしまう。
「おまけにきっちりこっちの位置は把握し続けてるっぽいね……」
「臭いからしてそうだろうな。まあいい、今の内に湿地帯近くにまで逃げ込むぞ」
「うん」
だがそれでも状況は動き、俺たちが移動出来るだけの時間と隙が生まれている。
だから、その隙を突く形で俺を持ったツノは再び湿地帯に移動しようとする。
けれど移動を始めた直後。
「もhsぢls」
「ykbzxj、z」
「うわ来た!」
「走れツノ!」
唐傘のフィラも蛸のフィラもまるでこちらに吸い寄せられるかのように、向かってきた。
ツノは追いつかれないように走り続け……遂に住宅街が不自然に途切れ、代わりに見渡す限りの田んぼに沼、そして池が俺たちの視界に入ってきた。
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