24:折れずの竹林-8
「では、こちらの二人が?」
「ええそうです。大きい方が
おおよそ50人ほどいるであろう自衛隊の中でも隊長格と思しき人を連れた大多知さんが、俺、ツノ、先生の事を紹介する。
ただ、ツノは見た目からして混ざっていると分かるが、俺の場合はどうなのだろうか?
服の下にある紋様とレゲスを見られたならともかくとして、それ以外は染髪にカラコン、マニキュアと言う事で誤魔化せなくもない気もする。
人では有り得ないレベルの美少女と言うのなら話はまた別だが、流石にそのレベルで容姿が整っているわけではないしな。
「自分は
立壁隊長さんはそう言うと、綺麗な敬礼を俺たちにしてくれる。
あ、うん、かっこいい。
野戦服の上からでも体を鍛えているのが分かるし、顔つきも先生のようなイケメンと言うよりはゴツい系だが、この場においてはただの二枚目よりもよっぽど格好良くて、頼りがいがあるな。
ちなみに大多知さんは先生と立壁さんの中間ぐらいで、やはり頼りになる大人の男性と言う感じである。
なお、念のために言っておくが、これは恋愛感情としての好きではなく、憧れと言う意味での好きであるので、勘違いはしないように。
「では、我々の拠点である校舎に向かう前に、現在の状況について改めて話をしましょうか」
「よろしくお願いします」
さて、まずは情報の共有である。
「では、外は脱出のための情報待ちと言う状況だったのですか」
「ええ、その通りです。それでも装備の調整で相応の時間を取られる事になってしまいましたが」
と言っても、俺が口を出すような事ではない為、俺は黙って聞いて、頭の中で情報を整理するだけだ。
で、それをまとめるならばだ。
・外は第7氾濫区域の発生に当然のように大騒動
・異形の存在含め、大多知さんたちが初めての脱出者
・氾濫区域全域に発生しているレゲスについての情報共有は済んでいる
・外から入って来た者が同様の方法で脱出できるのは確認済み
・なのでこの後に何も問題が起きなければ、追加人員も送られてくる予定
と言う所か。
勿論、俺とツノが脱出できない事、それに俺の精神の性別が男である事も周知されている。
なのでまあ、これは言っておいた方が良いだろう。
「さっき大多知さんも言ってたが、俺の性別は男だからな。だから、そう言う視線とか仕草は直ぐに分かると言っておくぞ」
「「「……」」」
まあ、自衛隊の隊員で、しかもこういう状況で真っ先に入って来るだけあって、俺とツノにその手のあからさまな視線を向ける人間は居ない。
だが、俺もツノも容姿は整っている方なのだ。
だから、注意しておくに違いない。
違いないのだが……こう、なんだろうな、むしろ警告したことによって妙な気が膨れ上がったと言うか……より具体的に言うならば……『俺っ子キタ!』『中身が男とかむしろご褒美です』『イーダちゃんprpr』『俺、角っ子萌えなんだ』『ピチピチ制服素晴らしい』『異形良いじゃないか!』『白髪だー!天然物の白髪ロリだー!』『あんな可愛い子に叱られるとか……ブヒィ』と言う感じの気配が一部からしているような……いや、気のせいだ、気のせいに違いない。
「どうしたのイーダ?」
「いや、何でもない……」
此処に居るのは自衛隊の中でもきっとエリートの方たちだ。
こんな失礼な考えは俺の妄想、自意識過剰に過ぎない。
うん、気にしないでおこう、そうしておこう。
「なるほど。では、貴方方はこの後すぐに高校に向かい、生存者を連れての脱出に移るのですね」
「ええその通りです。なにせ第7氾濫区域全域に存在するレゲスのせいで、高台以外では我々の武器はめくらましにしかならないようですから」
「となれば急ぎましょう。今の花弁は9枚。時間にして後15時間もすれば、新月となり、エリア移動が起きてしまう。そうなれば、今日のような、外に出るのに危険なレゲスが無い一つのエリアを通り抜けるだけと言う脱出するのに格好な日はもう来ないかもしれませんから」
「違いないですな。では」
「ええ、案内を……」
まあ、いずれにしても俺のやるべき事は変わらないか。
自衛隊の人たちと一緒に高校に戻り、生存者を連れて黒い壁の近くまで行く。
そうして他の人たちを無事に脱出させたら、学校で俺の本名に関する資料を捜索し、本名が分かったら機会を見て脱出する、これでいいはずだ。
ダイ・バロンの事とか、行方知れずになっている唐傘の事とか、他の自分を持っている異形の人たちの事とか、そもそもどうして『インコーニタの氾濫』が起きたのかとか、色々と分からない事はあるが、そう言うのは後回しあるいは投げ捨てるしかない。
なにせ今はそう言う状況なのだから。
「それじゃあイーダ」
「そうだな。足並みを揃える意味で、俺はツノに抱えて貰った方が……」
そんな事を考えつつ俺が、ツノの近くに寄った時だった。
「イーダ!ツノ!」
「へっ!?」
「はっ?」
それまで大多知さんと話をしていた先生が突如俺たちの方に向かって駆け出し、俺とツノの二人を勢いよく突き飛ばす。
直後。
「これはこれは、やられましたな」
俺たちが居た場所目がけて、上から人影が降ってきた。
「すまない。二人とも」
その人影は手にしていた金槌を先生に向けて振り下ろした。
「「「!?」」」
すると先生の全身が一瞬にして真っ赤に染め上がり、爆発し、血の一滴も残さずに蒸発。
「まさか、ただの人間が吾輩の邪魔をして見せるとは」
そして、爆風が止んだ後には獣のような仮面を付けた人間が……ダイ・バロンが立っていた。
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