<< 前へ次へ >>  更新
20/108

20:折れずの竹林-4

「以前からおかしさは感じていた」

「と、言いますと?」

 大多知さんは腰からゴツい方の拳銃を取り出すと、何か思う所がありそうな目でそれを見ている。


「私たちがこれまでに倒した異形は、この竹林に居た亀と兎の2体を除けば全部で9体居る。この内、5体は高校の敷地内に入り込んだものを返り討ちにしたものであり、2体はキンキラ君とユウコ君が高校以外のエリアを調査中に単独で仕留めたものになる」

「残りの2体は?」

「高校の外で私の友人が倒したのが1体、自爆したのが1体だ」

 大多知さんは何かを思い出す様に、目を瞑る。

 そして、ゆっくりと目を開けると、これまでに大多知さんたちが戦ってきた異形についての話をしてくれる。


「高校の外での戦いにおいて、私たちの攻撃は殆ど奴らには通用しなかった。それを私は今まで、そう言うレゲスを持っている異形であるから、攻撃が通用しないのだと思っていた」

「実際、そう言うレゲスを持っていた奴も居たとは思いますよ。俺もレゲスを無効化するレゲスを持った変態仮面を知っていますから」

「ダイ・バロンとか言う人の言葉を話す異形だな。まあ、奴については今は置いておこう。アレは異形である以上に狂人だ」

「まあ、そうですね」

「話を戻すが、私が特に違和感を覚えたのは、高校の外で倒された4体の内の1体、自爆した個体との戦いの時だ」

「自爆……ですか」

 レゲスの扱いを誤ったが故の自爆……うん、凄く覚えがある。

 と言うか、完全なる自爆で1回死んでいる俺としては割とその異形の事が他人とは思えない。


「そう、奴のレゲスは自分が睨み付けた者を発火させると言うものだった。だからまあ……古典的な手法で私たちは奴を倒した」

 あ、はい。

 なんかもう、そのレゲスの時点で色々と察しました。

 定番の方法で自爆させたんですね。

 分かります。


「問題は、奴と初遭遇した際の攻撃と、自爆させる際に奴の気を惹くべく遠隔手段で攻撃を行った時の事だ」

「効果がまるでなかった?」

「ああそうだ、奴の姿は簡単に表してしまえば、一つ目の牛の巨人と言った風貌であり、そこまで強靭な皮膚を有しているとは思えない姿だった。装飾品の類も一切身に着けていなかった。にも関わらず、奴にこちらからの攻撃は一切通用しなかった。斧も、槍も、弓も、それに拳銃や投擲武器の類もだ」

「ふむふむ」

「重ね重ね言うが、これについて私たちは今まで、奴が2つのレゲスを保有しているのではないかと思っていた。あるいは腹の中にでもそう言うレゲスを持った品を隠していたのではないかと思っていた。物の場合、見つからなかったのは、倒す際に燃えてしまったからだと思っていた」

 その可能性は……実際ゼロではないだろう。

 一体の生物に一つのレゲスと言うルールは聞いたことが無いし、異形たちが基本的に肉食である以上、獲物と一緒に食べたなどで腹の中にそう言うレゲスを持った物品があっても不思議ではない。

 だがしかしだ。


「だが、それ以上に違和感があった。レゲスと言うのは、身勝手で理不尽であるが……それと同じくらい公平で公正な物だ。なにせ条件さえ満たせば、敵も味方も、それどころか自分自身さえも関係ない。そして、私たちに具体的なロジックを知る機会はないが、強力なレゲスであればあるほど、その一点以外においては貧弱なものになるものであるとも思っている」

「……」

 そう、大多知さんのこの言葉は、たぶん正しい。

 最も分かりやすい例が俺だ。

 俺のレゲスは攻撃面だけを見れば、間違いなくトップクラスのレゲスだ。

 なにせ、直接黒い液体に変化させれば問答無用。

 直接変化させることは出来なくても、黒い液体が気化した煙に生物が触れれば、それだけでほぼ確実に殺せるのだから。

 だが、それと引き換えなのだろう。

 俺の身体能力は見た目通りのものであるし、この美少女の姿は人目をとても良く惹いて、危険を招くものだ。


「そう考えた時にあの異形はおかしかった。なにせ攻撃面でも防御面でもそれぞれに強力なレゲスを有している事になるのだからな。知能の低下や危機意識の欠如を含めても、とてもではないが釣り合うようなものではない」

「だから違和感を覚えていた。ですか」

「そうだ。何もかもがおかしかった」

 勿論、俺たちのこの考えが正しいとは限らない。

 状況証拠の積み重ねから、勝手に組み上げた推論に過ぎないからだ。


「他にも高校の外で戦う時にはおかしな点が幾つもあった。異形たちが妙に攻撃的で、身を守ろうと言う意思が薄かったりなどだな。それと……」

「それと?」

「イーダ君が高台にある高校に入った時に感じた奇妙な感覚。今にして思えば、あれこそ正に、今私たちが話しているレゲスの存在証明だったのかもしれない」

「なるほど」

 けれど俺たちが導き出した通りであるならば……非常に拙い事になる。


「でも大多知さん、そうなるとやっぱり……」

「ああそうだ。このレゲスを含まない攻撃はレゲスを持つ者には通用しないと言うレゲス。これはこの氾濫区域全域に適用されているレゲスなのかもしれない」

「ローカルレゲスの対になるもの、と言う所ですか」

「ああそうだ。敢えて名づけるならばグローバルレゲス、と言う所だろうな」

「グローバルレゲス……」

 なにせ、高台の外では、人間は基本的に異形から逃げ回る以外の対抗手段がないと言う事になってしまうのだから。

 けれどグローバルレゲスと言う名前には……少しずれてはいるが、だいたいにおいてしっくりくるものがあった。

<< 前へ次へ >>目次  更新