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19:折れずの竹林-3

「様子は?」

「その、半信半疑だったんですが、一度部屋の扉を閉じた直後に腕の再生としか言いようのない現象が始まりました。あの様子だと30分もあれば、完全に治ると思います」

「そうか、ならば一安心だな」

 ツノは無事に安息の間に運び込まれ、ローカルレゲスによる治療も始まった。

 俺はその事に、安堵の息を吐く。


「では、ツノ君が出て来るまでは私たちも休憩するとしよう」

 なお、安息の間のローカルレゲスだが、どうやら3人以上同時に安息の間に入ってしまうと、回復が始まらないらしい。

 そのため、最初は再生が始まらず、俺たちは大いに慌てることになった。

 恐らくは暗黙の了解のような物なのだろうが……こういう重要事はきちんとローカルレゲスに記載しておいてもらいたいものである。


「はぁ……」

「これで一安心、と言う所だな」

 何にせよ、これでツノについてはもう大丈夫だろう。

 ツノと仲が良いらしい女生徒が再び安息の間の中に入って、その様子を見守る事にもなっているから、何かがあれば教えてくれるだろう。


「さて、イーダ君。ツノ君が出て来るまでの間に少し聞いておきたい事がある。いいかね?」

「そうですね。俺にも少し確かめたい事があります。なので、こちらからもお願いします」

「分かった」

 ツノが出て来るまで推定30分。

 今の紅い月の花弁は5枚。

 ツノと付添を除いた、この竹林の調査をするメンバーの生き残りである7人は、巨大な岩に張り付くように生じた岩の扉の周囲で、周りを警戒しつつ休んでいる。

 周囲に敵影のような物はない。

 そんなわけで、俺と大多知さんはお互いに確かめたい事を確かめることにした。


「では私から。イーダ君、君は何かしらの方法で死を回避することが出来る。そうだな」

 大多知さんの眼光は鋭い。

 隠し事は決して許さないと言わんばかりの目である。


「どうしてそうお思いに?それと、それを聞いてどうするつもりですか?」

 だがこの件について素直に答えるわけにはいかない。

 素直に答えた場合、俺が今後どうなるか分かったものではないからだ。


「そう思った理由は先程の兎の一件だ。君は兎が死んだ時、真っ先に口を開き、禁句である可能性が最も高い言葉を発した。アレは何かしらの方法で死を回避する事が出来る者の動きだ」

「……」

「まあ、聞いたところでどうするつもりもない。ただ、そういう事が出来るかどうかを私が知っておきたいだけだ」

「そう、ですか」

 さて、どう答えたものか。

 大多知さんならば素直に話しても、本当に何もする気はないだろう。

 だがそれでも……それでも素直に話すべきではない。

 俺の中の何かはそう囁いている。


「俺も自分の力の全てを把握できているわけではありません。なので、結果的に死を回避する事が出来るとだけ言わせてもらいます」

「それで十分だ。この手の力は取り扱いが難しいと相場が決まっているし、イーダ君の生死に直接関わる話でもある。詳細はどれほど親しい相手であっても話すべきではない」

「はい」

 大多知さんは全てを話さなかった俺に対してそれで構わないと言うと、腕を組んで何かを考えるように目を瞑る。

 今の俺の言葉で大多知さんが何処まで俺の首輪……『月が昇る度に』のレゲスを把握したのかは分からない。

 けれど、ある程度は察してはくれたのだろう。

 だからこそ、大多知さんは黙り、考え込んでるのだろう。


「大多知さん。俺からもいいですか?」

「何かね?」

 本音を言えば、その時間を邪魔したくはないが……俺にも確認しないわけにはいかない事がある。


「大多知さんの腰にあるリボルバーで、俺の脚を撃ってみてくれませんか?」

「……。理由を聞こう」

 それは、今後の調査を考えた際に、非常に重要な事項である。


「さっきの兎。あの兎は真正面から頭に斧を受けたのに、傷の一つも付かなかった。アレは明らかに異常な出来事です。なので、何かしらのレゲスが関与しているのは間違いないです」

「そうだな」

「けれど、あの現象はこの竹林のローカルレゲスでもなければ、あの兎のレゲスでもないと思います。なので……」

「自分で確かめてみる、と?」

「そういう事です。幸いにして、この場には安息の間も在りますしね」

「……」

 俺の言葉に大多知さんは再び目を瞑り、考え込む。

 俺の望みを叶えるべきか否かと。


「分かった」

 やがて大多知さんは目を開け、腰のリボルバーに手を伸ばす。


「あの件については私も疑問を感じていた。そして、一つ嫌な予感を覚えていた。もしもその通りであれば……我々の今後の行動は大きく変えざるを得ない」

「ええ。そして、今この場でなら、その予感が正しいかをたった一発の弾丸で確かめる事が出来ます」

 そして、少しだけ間を空ける形で、俺の右足にリボルバーの銃口を向ける。


「では」

「はい」

 俺たちは一度だけ深呼吸をする。

 そして発砲音が鳴り響く。


「「……」」

 その結果は……


「私が想像している中で最悪の結果になったか」

「そうみたいですね」

 身体面においてはただの少女に過ぎないはずの俺の柔肌の上で、普通の人間の脚程度ならば簡単に打ち抜けるはずの弾丸が潰れて止まっていると言う光景だった。


「はぁ……なんという事だ……これでは……」

 火薬によって弾丸を射出、殺傷する武器であるリボルバーに手加減する余地は存在しない。

 それはつまり……


「レゲスを有さない攻撃はレゲスを有する生物には通用しない。そんなレゲスが存在している事になるでしょうね」

 レゲスを有するものと有さないものの間に絶対的な格差が存在していると言う事だった。

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