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16:高台の高校-6

「さて、全員集まったな」

 亀の異形の襲来から3時間が経った。

 亀の異形のドロップ品である『薪を湯に』は煮炊きなどで早速用いられ、残りの水の量を気にせずに使える湯として避難している人たちの間で喜ばれていた。

 その為、高校全体で喜ばしい空気が広がっていたが……俺たちの居る図書館の会議室の空気は張りつめていた。


「何の集まりだ?大多知さんよ。今日の襲撃はもうないって事で、俺様としては一度本格的寝ておきたいんだが?」

「私たちが揃って集まる用件など一つしかないだろう。キンキラ君」

「ま、そりゃあそうだけどよ。俺様は切った張ったが専門で、考え事には向かないんだがなぁ……後は任せて寝てていいか?」

「駄目だ。ちゃんと聞いて、意見を出しなさい。大人だと言うのであれば、ね」

「へいへーい……大人ってめんどくさ」

 集まっているのは大多知さん、俺、ツノ、キンキラ、生徒会長、鮒釣のオッサン、朝駆さん、それに教師に大人が何人か。

 どうやら、この避難所でそれなりの立場にある人間と異形が全員集まっているらしい。


「さて、今回の襲撃は無事に乗り切ったと言っていいだろう。それについては皆の協力、感謝する」

「ま、今回私たちは何もしていないけどね」

「だね。今回はイーダの所にしか来なかったし」

「……」

 大多知さんが頭を下げ、俺に視線が集まる。

 俺としては……正直、どうすればいいか、よく分からない。


「だからこその次だ。今回のエリア移動によって此処の隣に現れたエリアを調査。脅威があるならばこれを排除し、可能ならばローカルレゲスを解明と物資の回収。そして……氾濫区域の外にまで通じる道を探し出す。これがこれからの我々の行動だ」

 だから俺は大多知さんの話に集中することにする。


「今回のエリア移動で、我々の居るエリアの隣に現れたエリアは四つ。一つは亀の異形が現れた竹林。一つは見た目はただの住宅街。一つは巨大な立像が遠くに見えている広大な墓地。一つは工場のようだが……碌に視認も出来ていない」

 大多知さんは報告書を黒板に書いていく。

 そこには高校の敷地内から見えるそれぞれのエリアの様子と、適当な肉と生きた虫を長柄の棒の先に付け、一時間ほど放置した結果が載せられている。

 だがその結果は……正直芳しくないものだった。


「この内、工場の探索は論外だ。ローカルレゲスによるものなのだろうが、10分ほどで、虫も肉もドロドロに溶けてしまった。この分では立ち入る事すら危険だろう」

 まず工場は絶対に駄目。

 靄がかかって中の様子を探れない上に、ローカルレゲスが危険すぎる。

 この靄自体がローカルレゲスによって生じている物であるためか、こちら側に流れてくることが無いのが救いだろうか。


「墓地については死んでいる者を分解するローカルレゲスが働いているらしく、肉の切れ端は当然の事、木製の棒や革製品なども分解されてしまうようだった。プラスチック製品などは大丈夫のようだが……分解の範囲はかなり広いな」

 墓地もあまり良くはないようだ。

 なにせ、俺たちが身に着けている物、扱う物の多くは、見方によっては元々生きている者の死骸を基に作られているのだから。

 それらが分解されてしまうのでは、色々と問題がある。


「残るは住宅街と竹林だが、これらについては一先ず探索をするだけならば問題はないだろうと言う結論に至っている。特に竹林については亀の異形と……初日のエリア移動で行方不明になっていた生徒の死体が発見された事から、生存が可能なのは間違いない。あー、ただ、ローカルレゲス及び生息異形についてはどちらのエリアも不明だ」

 生徒の死体と言う単語に全員の顔が微妙に曇る。

 俺としても、初日の訳の分からない状況の中でエリア移動に巻き込まれ、あの時まで生きていた生徒の事を思うと苦しかったり、悔しかったりする思いはある。

 なにせ、後もう数分だけ生きていれば、そのまま生き延びる事が出来たのかもしれないのだから。


「となると……力を入れて調査をするなら竹林か?」

「うん、そうだね。もしかしたら生き残りがまだいるかもしれないし」

「ああ、その可能性は十分にある」

 そして、一人でも生徒が居たならば?

 ツノの言うとおり、もしかしたら他にも行方不明になった生徒や教師が居るかもしれない。

 そう考えるのは至極当然の流れではあったし、見捨てることなど出来るはずもなかった。


「更に幸いな事として、この竹林がある方角は外までの距離が近い方角でもある。もしも一人でも脱出する事が出来たならば……」

「中の様子とこっちで集めた情報を伝える事で、外からの救助がしやすくなる、だろう。分かっているさ」

「そういう事だ」

 どうやら、竹林探索の方が利は大きいらしい。

 この流れならば、ほぼ間違いなく竹林の方を調べることになるだろう。


「そう言うわけでだ、今回の調査のメンバーを発表する」

 大多知さんが名前と役割を伝えていく。

 顔と名前が一致する面々だと……鮒釣のオッサンと朝駆さん、それに生徒会長が高校で待機。

 キンキラが住宅街へ。

 本命である竹林には俺とツノ、それに大多知さんが竹林に向かう事となった。

 目標は脅威の排除、生き残りの保護、ローカルレゲスの解明、竹などの物資の回収、そして可能であるならば外との連絡である。


「分かっているとは思うが、全員細心の注意を払って事に当たるように。氾濫区域では何が起こったとしてもおかしくはないのだからな」

 そうして俺たちは必要な準備を整えると、亀の異形が現れた竹林へと立ち入った。

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