<< 前へ次へ >>  更新
11/108

11:高台の高校-1

「やはり、イーダ君の通っていた高校かね?」

「はい、間違いないです……」

 大多知さんたちは周囲への警戒を切らさずに、学校の敷地内に入っていく。

 そして、それに続くようにツノに持たれた俺も学校の敷地内に入る。

 これで色々と安心出来ると、俺は思った。


「ん?」

 だが、学校の敷地内に入って俺がまず感じたのは強烈な違和感だった。


「どうかしたのかね?」

「どうしたの?イーダ」

「いえ、その……何と言えばいいのか……まるで、今まであって当然だったものが無くなったと言うか、あるべきものが無くなったと言うか……とにかく、何か違和感があったもので」

 大多知さんとツノの二人が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

 だがこの感覚の説明は……正直難しい。

 なにせ、何かが無くなったのは間違いないのに、その何かに対する心当たりが全くないからである。


「ふむ、その感覚は大事にしておくといい。もしかしたら高台特有の感覚かもしれないからな」

「高台特有、ですか」

「ああ、高台についての詳しい事は……顔合わせ含めて、後でツノ君に聞いてくれ。私はまず探索の結果をすり合わせなければいけないからな」

「分かりました」

 とりあえず、この件についてはここまでであるらしい。

 大多知さんは半壊している校舎の方へと歩いていく。

 そして、俺を持ったツノは、恐らく避難している住民たちが集まっているであろう体育館の方へと向かっていく。


「随分と物々しいな」

「でも、これぐらいは無いと色々、ね」

 体育館の近くは……俺が見知ったものから大きく変わっていた。

 なにせ、体育館の回りには、机や土嚢、それに廃材を利用して作られたであろうバリケードが幾重にも張り巡らされており、体育館を中心として簡易のトイレに、炊飯の為の場所が作られていたからだ。

 それだけではない。

 バリケードの中には物見台のようなものもある。

 バリケードの裏には緊張した面持ちの男子高校生が、包丁と長柄の棒を組み合わせて作った原始的な槍のような物を片手に外の様子を窺っている姿もある。

 談笑をしつつも、何時何が来てもいいと言わんばかりに弓を手に持った高校生のカップルだって居た。

 何と言うか……俺は実物を知らないが、戦争の時に臨時で作る野営地、そんな雰囲気がこの場全体に漂っているようだった。


「ツノ、それが今回の収穫か?」

「うん、そうだよ」

 やがてツノは体育館の前、他のバリケードが張り巡らされている場所に比べれば、広い場所に着くと、右手に持った巨大な風呂敷を置く。

 すると、直ぐに体育館の中と校舎の方から沢山の人が寄ってくる。


「じゃじゃーん!沢山の果実でーす!」

「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 そして、風呂敷が開けられた瞬間、一気に歓声が沸き起こる。

 流石に避難生活三日目ともなると、食料事情に少し不安が出て来ていたと言う事だろうか。

 どうにも俺が見る限りでは、この高校だけでも数百人は人が居そうな感じだし。


「はい、と言うわけで生徒会長。いつも通りな感じで配分の方はよろしくね。私はイーダを連れて行かないといけないから」

「それは構わない。それとイーダと言うのは……もしかしてその子の事か?」

「うん、そうそう。今回の探索中に出会ってね。私たちの仲間になってくれるって」

「ほー……」

「ど、どうもです」

 なお、俺はまだツノの左手で持たれたままである。

 どうやら靴を履いていないと言う事で、このまま中に入るまでは持っていくつもりであるらしい。

 なので俺はこの高校の生徒会長であろう男子生徒に片手を上げて、挨拶をする。


「この状況で三日生き延びたと言う事は、それなりの実力があるんだろうが……こんな子供に何が出来るんだ?」

「その辺は追々だね。まだ、イーダのレゲスは詳しく教えてもらってないし。後、イーダは元々此処の生徒で私の同級生、ついでに言えば中身は男子らしいよ?」

「なっ!?」

「ははははは……」

 で、俺としては正直隠しておきたかった事情をツノは躊躇いなくぶちまけてくれた。

 生徒会長は俺の見た目と中身の齟齬に理解が及んでいないのだろう。

 完全にフリーズしてしまっている。


「まあ、そんなわけでイーダは色々と特殊っぽいからね。まずはこっちで顔合わせと情報のすり合わせ、皆に紹介するのはそれからになるのかな?」

「そ、そうか……それならよろしく頼む。なんというかその……君は大変だったんだな……」

「はい……」

 この状況でもなお生徒を束ねる立場として行動できるだけあって、生徒会長の復帰は早かった。

 そして、俺は名前どころか顔も覚えていなかったのだが、相応に優しい人物であるらしい。

 俺のこれまでの苦労を察してか、労いの言葉を掛けてくれた。


「じゃ、行くよ。イーダ」

「分かった」

 そうして俺は再びツノに運ばれていく。

 向かっているのは……図書館の方か。

 俺の記憶通りなら、図書館の二階には会議用のスペースがあったはずだから、恐らくはそこに集まる事になるんだろうな。

 なお、だ。


「ねぇねぇ、三連さんが連れてた子。あの子、凄く可愛かったよね」

「うん、凄く可愛かった。ハグハグとかしたら、良い匂いがしそう」

「銀髪美少女とか眼福ものだわー、スリスリしたい」

「激ヤバ、避難生活始まってから初めて良かったと思えたわ」

「抱き枕にしてぇなぁ……」

「と言うか校舎の裏に連れ込みたい」

「お巡りさんこっちでーす」

「一応言っておくが、彼?彼女?まあ、とにかくあの子の精神は男らしいぞ」

「だがそれがいい」

「むしろ大好物です」

「俺の性癖を歪めるのは止めろー!」

「ふひ、ふひひひひひ……」

 これらの途中で聞こえてきた言葉の数々については気にしないでおくとする。

 一々気にしていたら、とてもではないが精神が保たない。

 それと、寝床は身の安全を間違いなく確保できる場所にしてもらおう。

 でないと……レゲスを使って性犯罪者どもをまとめて殺す羽目になりかねない。

12/08誤字訂正

<< 前へ次へ >>目次  更新