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10:商店街探索-4

「男……あんなに可愛いのに……」

「でも肉体的には女の子らしいぞ」

「てことは、望まない性転換を喰らったのか。やっぱり『インコーニタの氾濫』って怖いな」

「アンタたち、無駄口を叩いている暇があるなら、ちゃんと周囲を警戒しながら歩きな!」

 俺は無事に彼ら……このグループのリーダーである大多知さん曰く、『インコーニタの氾濫』を運よく逃れた避難民の仲間に入る事が出来た。

 と言うわけで、現在は彼らが拠点としている場所に向かって歩いているのだが……


「あのー、大多知さん?どうして俺はこんな状態何でしょうか?」

 どういうわけか、俺はとある女性に左手一本で持たれて、鞄か何かのように運ばれていた。


「私たちの拠点までもう暫くあるし、道中には小石や瓦礫の類が転がっている場所も多い。靴を履いていない君を歩かせるのは問題が多いと判断させて貰った」

「それはそうかもしれませんけど……」

 大多知さんの言葉は正しい。

 靴を履いていない俺の両足はこれまでの道のりで傷だらけになっているし、歩幅や体力の問題もある。

 念のために『月が昇る度に』の効果は大多知さんたちには話していないが、単純に気を使ってもらった部分もあるだろう。

 だがそれだけではないだろう。

 と言うのもだ。


「私のレゲスの都合もあるんだよ。イーダちゃん」

「……」

 俺を左手一本で持っている女性は俺と同じで普通の人間ではなかった。

 三つ編みにして首の横に提げられた黒髪に、今の俺よりも頭二つ分は大きい身長は普通の人間の部分だが、頭の側面に生えた三本の角と綺麗な赤い目は普通の人間には絶対に無い部分だろう。

 ちなみに角については右手側に二本、左手側に一本で、左右非対称となっている。


「レゲスの都合……ねぇ」

「そうそう」

 そして彼女のレゲスなのだろうが……彼女は左手で俺の事を持ち上げると同時に、右手一本で巨大な風呂敷で包み込まれた大量の果実を運んでいた。

 どう少なく見積もっても100キログラムを超えている量の果実を、重量どころか空気抵抗すらも感じさせずに、である。


「あ、そう言えば、ちゃんとした自己紹介はまだだったよね。私の名前は三連(みつら)ツノ。イーダちゃんと一緒で本名ではないけど……残っている記憶からして、本当の名前ともそんなに離れていないって感じかな。歳も17でイーダちゃんと一緒だから、もしかしたらクラスメイトだったのかもね」

「だとしたら俺としては憤死ものだけどな」

「その見た目だから?」

「この見た目だからだ」

 なお、彼女は俺とクラスメイトだったかもしれないと言っているが……同級生なのは確実である。

 と言うのも、彼女が着ているサイズが合わず、とある部分などはちきれそうになっている窮屈そうな制服は、左手だけに着けている手袋などの細かいパーツを除けば、その大部分が俺が通っていた高校の女子制服であり、彼女自身がこの制服を『インコーニタの氾濫』が起きた時に着ていた服とほぼ一緒だと言っているからである。

 うん、同級生の女の子に荷物扱いで運ばれるとか……正直、精神的にはかなり来るものがあるな。

 来るが、受け入れておくしかない。

 今の俺はレゲスの詳細も含めて、まだ色々と隠している状態だしな。


「で、なんで俺の呼び方がイーダちゃんなんだ?精神が男ってのはちゃんと伝えただろ?」

「えー、その見た目で君はちょっと……」

「なら、呼び捨てでいいだろ。同い年なんだし」

「んー、イーダ……なんか違和感が無い?」

「無い。無いからちゃん付けは止めてくれ」

「分かった。頑張ってみる。イーダ。あ、私はツノでいいよ」

「分かった。ツノ」

 が、とりあえずちゃん付けは止めてもらう事にしよう。

 この年の男子にそれはツラい。

 たとえ俺の見た目がどれほどの美少女であったとしてもだ。


「ふむ、仲がいい事は良い事だな。もしかしたら、二人は氾濫前から親しかったのかもしれないな」

「それ、余計に立ち直れなくなるから勘弁してほしいです」

「そうかね?」

「そうですって……」

 俺は改めて大多知さんを見る。

 大多知さんは警察官だったらしく、腰にはリボルバーとゴツい自動拳銃の二丁が提げられている。

 日本の警察官が使う銃はリボルバーと聞くから、自動拳銃の方は……たぶん、『インコーニタの氾濫』が起きた後に手に入れた物なのだろう。

 体つきはがっしりとしていて、正に頼れる警察官と言った風貌である。


「そう言えば、外からの救助や救援の類は……」

「氾濫から今日で三日目になるが、まだ来ていない。だが、それも仕方がない事だろう。この氾濫区域にはあまりにも脅威が多すぎる」

「そう、ですか」

 三日……か。

 『月が昇る度に』と言う名前からもしかしてとは思っていたが、どうやら『月が昇る度に』の効果で復活するタイミングは一日の始まりと言ってもいい、紅い月の花弁が12枚揃ったタイミングで決まっているらしい。

 そして、花弁は一時間ごとに1枚だけ増えたり減ったりするようだ。


「脅威と言うのは異形の化け物たちに、様々なレゲスですね」

「それもあるが……何よりも厄介なのは地形の変化だろうな。地図が役に立たないと言うだけでも十分に脅威だが、立ち入る事も危険な地形が来てしまうと、その日は何も出来なくなってしまう。初日など、アレのせいで何十人……いや、市全体で見れば何千人が行方不明になった事か……」

「……」

 地形の変化?

 どういう事だろうか。

 大多知さんの話を聞く限りでは、毎日起きてはいるようだが、ローカルレゲスとはまた別の事柄のようだ。

 となると……俺に心当たりはない点からして、俺が死んでいる間に起きている現象なんだろうな、たぶん。


「残りの花弁は六枚か。全員、もうすぐ学校に着くが、油断はしないように!いいな!」

 そうして話をしつつ移動を続けていると、やがて俺の視界にとある建物が目に入ってくる。


「さて、イーダ君。此処が我々の拠点。運よく氾濫の影響が部分的にしか及ばず、高台と呼ばれる地域になった高校だ」

「ここは……」

 それは、一部が崩れ落ちてしまってはいるものの、間違いなく俺が通っていた高校だった。

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