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1:プロローグ

初めましての方は初めまして。

ご存知の方はお久しぶりです。

ニッチな作品となりますが、どうか気に入っていただけたならば幸いです。

初日は6話まで一時間ごとの投稿となります。

以降は一日一話12時投稿予定となっております。

「ふわぁ……」

 2017年12月22日。

 今日は俺が通う高校の2学期終業式だった。

 だったと付くのは、先程全体集会が終わり、後は通知表を貰って今日は終わりだからだ。


「冬休みの予定だけどさぁ……」

「クリスマスなんだけど……」

「正月、俺、ばあちゃん家に行くんだけどさぁ……」

「宿題面倒くせえよなぁ。折角の休み……」

 俺は現在高校2年生の17歳。

 3年生は既に受験やなんだでピリピリとしているが、2年生である俺たちは一部を除いて気楽なもの。

 冬休みに絶対にやらなければならない事と言っても、長期休暇恒例の宿題ぐらいなものである。

 なので、窓際最後方の席に座る俺の目に映るクラスメイトたちが、俺と一緒で非常にまったりとした気分になっているのも当然の事だろう。


「おいこれ、見てみろよ。中国の第3氾濫区域の中だってよ」

「うわ、グッロ。肉の壁とか趣味悪いな……」

「うげー、マジかよ。てか、中国も大変だなぁ……流石に同情するわ」

 と、ここで俺とは付き合いが無い男子生徒たちがスマホで何かを見ている。

 話から察するに、近頃世界中で散発的に発生している『インコーニタの氾濫』と言う奴だろうか。


「おい、聞いたか。中国の軍から第3氾濫区域の内部情報がSNSに漏れて来たみたいだぜ」

「みたいだな」

 で、どうやら俺の友人である唐傘(からかさ)も同じ情報を得てきたらしい。

 俺にスマホの画面を見せてくる。


「『インコーニタの氾濫』。未知が溢れ出して、全てが分からなくなる恐怖の事象。だったか?」

「そうそう、まるでファンタジーだ。それもダーク系のな」

「ダークってか、趣味が悪いって言った方が正しいだろ……」

 スマホの画面に映っていたのは不気味に脈打つ肉の壁が何処までも続く世界。

 そして唐傘がスマホの画面をスワイプする度に、上に地面が来ている森だの、熱湯にしか見えないのに入っているもの全てが凍りついている池だの、置いてあるものが異様に巨大な誰かの部屋だのが映ってくる。

 もしもこれが世界でもトップクラスの信頼度を誇るニュースサイトから出された情報でなければ、即座に『CG乙!』とでも言いつつ、評価ボタンを押しに行っているような光景だ。


「何だ?嫌いなのか?」

「嫌いと言うか……現実に起きている事なのにどうにも現実味が無くてな。少しずつ範囲も広がっているって言うけど。うーん……」

「あー、そりゃあ、まあ……な」

 だが、これは全て現実に起きている事。

 おおよそ半年ほど前にアメリカの片田舎で起きた一件目を皮切りに、イギリス、中国、中東、ロシア、インドと、今までに六回観測されている災害。

 地面から突如として混沌としか評しようの無いものが湧き出て来て、周囲の物すべてを呑み込みつつ拡大していく災い。

 ここからは公式の発表ではないが、中では既存の物理法則では説明の付かない事象が発生したり、異形としか称しようのない化け物がうろついていたりするらしいが……唐傘の見せてくれた映像通りの光景が中に広がっているのなら、中は本当にそうなっているのかもしれない。


「心配しなくても、範囲の拡大は年1メートルかどうかと言う所らしいですよ?」

「そうなのか?なんか一夜で街一つ飲み込んだとか聞いたけど」

「最初は速いそうです。でも、ある程度広がると大きくなるスピードが落ちて、年に直径1メートル広がるかどうかだそうです」

 と、ここで隣の席の三つ編み眼鏡の女子が話しかけてくる。

 名前は……駄目だな、直ぐに出て来そうにない。

 図書委員だと言うのは分かるんだが、どうにも人の名前を覚えるのは苦手だ。


「でも、対処方法が見つかっていないんだろ?だったらゆっくりでも拙いんじゃ……」

「世界中の政府と学者と軍が協力しているんですよ。だったらいずれどうにかなりますって」

「そう言うものか?」

「そう言うものですって」

「ま、そうなれば万々歳だな」

 とりあえず唐傘と三つ編みが会話を始めたので、俺は微妙に黄昏た気分になりつつも、窓の外を眺めつつ考え事をする事にする。

 まあ、考え事と言っても、この後の予定を考えるだけで……帰宅部の俺はとりあえずとっとと家に帰って、買ったばかりの新作のゲームを楽しむだけだな。

 それから……


「ん?」

 そうして窓の外を眺めつつ考え事をしていた時だった。


「何だあれ?」

 俺は高校がある場所から少し離れた藪の中から、天に向かって黒くて細い柱のような物が伸びているのを見つける。


「え?何ですか?」

「は?おいおい、何だあれ」

「誰か録画しとけよ」

「何だありゃあ」

 俺の声を発端として、クラスメイトたちも窓の近くに寄ってくる。

 そして、他のクラスからも同じものが見えているのだろう。

 だんだんと学校全体が騒がしくなっていく感じがしつつ、無数のシャッター音と沢山の雑談が俺の周囲からしてくる。

 そんな中……


「氾濫だ……」

 誰かが口を開いた。


「『インコーニタの氾濫』の前兆だ!!」

 あれは災いの前兆だと。

 そして、それに合わせるように柱は太く……否、大きくなり始めていた。

 まるでレーシングカーか何かが走り抜けるような猛烈なスピードで。


「「「!?」」」

 直後、パニックが起こり、クラスメイトたちは我先にと教室の外へと逃げ出そうとしていた。

 少しでも混沌としか言いようがない黒い柱の……いや、もはや壁にしか見えないそれの拡大から逃げる為に。


「「「ーーーーー!!」」」

「ま……」

 そんなパニックの中、席にしっかりと座ってた俺には、精々腰を浮かすぐらいの時間しか無かった。

 手を伸ばす暇もなかった。


「!?」

 そして俺は黒い壁に呑まれ。


「くぁzxcfちゅkmんhtr$%TFxsw!?」

 混沌の濁流の中で全身を引き裂かれるような痛みに襲われ。


「r、pmpfs”r、pmpfs”!r、pmpfs”!!」

「wにびf:じゅr:¥い!」

「czfdcz!?」

 俺には理解できない何かが幾つも横を通り抜けていく中で溶けて。


「嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!消えるのなんて……」

 それでも生きたいと俺は手を伸ばし、口を開き、もがいて……


「はっ!?」

 気が付けば、12枚の花弁が付いた紅い月の光に晒された状態で、冷たい石の床の上に寝転がっていた。


「な、なんじゃこりゃあああぁぁぁ!?」

 ただし、可憐としか称しようのない銀髪青目の少女が、青を主体とした巫女装束を身に着けた姿で、である。

12/03誤字訂正

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