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冥婚(後編)

「え!?素子、お前まさか…」


 心臓の鼓動は高まり、僕の額には嫌な汗が流れ出る…。


「まさかじゃないでしょ」素子の顔に笑みが戻った。

「まさかはこっちよ。まさかここまで引っ張るとはね…」


「どういうこと?」


「あの冥婚…ああ、死者と結婚させる習慣て言うのは冥婚と言って海外では本当にあるんだけど、島での話は私のでっち上げ。先に島に着いていたから色々と地元の習慣を聞いてたんだけど、冥婚に似てるけどあれは本当は願掛けのおまじないなんだって。自分の髪の毛と好きな食べ物を書いた紙を箱に入れておくのよ。それを好きな人が持っていてくれると二人は結ばれるんだっていう言い伝え。でも紙に書かれた内容は願いが成就するまでは他言無用で、髪の毛の主はそれまで紙に書いたものを食べちゃいけない事になってるの。二人が結ばれて、拾った人が紙に書かれた内容を髪の毛の主に伝えたところがおまじないのお終い」


「なんだよそれ、てことは駐在さんもグルだったの?」


「あの駐在さん島の劇団にも入ってるとかでノリノリで協力してくれたわよ」


「でも素子、年下なのに俺の事好きだったんだ…」


 彼女は頬を少しだけ赤らめ、それには何も答えずにこう言った。


「ああ、これでやっとチョコレートが食べられる」


 僕は笑いながら箱を開ける。


「ん?髪の毛が無くなってるな?」


 時間が経つと髪の毛は消えてしまうものなんだろうか?髪は無くなっていたが、束ねた紙ひもは残っている。良く分からないがその下にある紙をめくってみる。…何も書かれていない。それはただの白い紙だった。


 その時素子の膝枕で寝ていた娘が呟いた。


「私もチョコレート食べたいな…」


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