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第49話 孤児院開設と冬のお仕事

推敲までなんとか終わりました。

 美濃国 稲葉山城


 戦が終わった翌日には和泉いずみ周辺で雪がちらつき始めた。慌ただしく撤収し、後を東常縁とうつねより殿に任せた。彼もギリギリで石徹白いとしろ砦を落としたらしい。戌山いぬやま城周辺の沈静化も含め、朝倉は当分動けないだろう。



 年明けまでの冬の間はいつも通り狐の湯で疲れを癒した。初めて豊に背中を洗ってもらい、幸と3人で湯船に浸かった。流石にもうこちらも覚悟を決めた。2人は末永く奥で世話になることだろう。前世は忙しすぎて婚活すらできなかったのにもう嫁さん2人確定だ。世の中不思議なものだ。

 とはいえまずは正室だ。二郎サマが決まらないとこちらも決められないのだ。なんとかしてほしい。切実に。二郎サマ早く結婚しろ。もうすぐ縁談がまとまりそうという噂は聞いているぞ。



 その二郎サマは今回の戦で名を上げて下げた。穴間あなま城攻めの手際の良さなどは賞賛されるものだったが、それ以上に和泉での戦で最も損害を出したからだ。率いた600のうち、半数が死傷して以後戦に出られない状態といえばその壮絶さが伝わるだろう。4100で攻めてこちらの被害は二郎サマの300と村山殿の150、遠藤殿の50あまりがほぼ全てだったのだから二郎サマは突出している。追撃をしたのが二郎サマと村山殿がメインだったのもあるが、いたずらに突っ込んで兵を死なせたのは事実だ。

 おまけに鏑矢かぶらやの前に敵に攻めかかったのは野蛮の一言だ。名門土岐氏の誇りはどこにいった。


 朝倉方の損害は推定で700ほど。少なめに済んでいるだろうが一手の大将だった黒坂景久くろさかかげひさが討ち取られたことを考えれば敗北になるだろう。げに恐ろしきは農民かな。



 戦が終わった後も首実検やら論功行賞やらと色々やることがあり、慌ただしく過ごす中で人死にや人を殺す命令を出したことへの色々なモヤモヤは薄れていった。

 10連勤とかしていると特に何も考えなくなるのに似ている。或いは父が意図的にそうさせてくれたか。


 温泉で朧気おぼろげに色々なことを考えた。自分の命令で人を殺した者、自分の命令で死んだ者、自分の命令で殺された敵。


 1つ言えるのは、これをただのよくある局地戦で終わらせないことだ。

 1つの戦に必ず日本から戦が終わるために意味があったと言えるようなものにしていかなければ、死んでいった者たちに申し訳が立たない。


 絶対に意味ある戦にするのだ。しかばねの上に立つなら、せめてその屍が天下統一に向かって積み上げられたものになるように。そして今後の屍の数をできる限り減らせるように。


 ♢


 1540(天文9)年になった。数えで14歳。そろそろこの時代の感覚だと結婚してもいい年齢である。というか二郎サマ早く結婚しろ(2回目)。



 戦で親を亡くした子供が出たと聞き、孤児院のような施設を作ろうと父に提案した。

 元々それに近い組織はあったそうで、幸の叔母にあたる人も食べるに食べられなくなって売られる前にそこで引き取っていたらしい。今では土岐の御屋敷で働いているとか。


「とはいえ、わしももう少し規模を大きくしたいとは思っておった。」


 ということで、孤児を引き取る孤児院の拡充と、夫を亡くした女性の働き口となる施設が新しく造られた。

 特に女性の働き口は重要だ。再婚も斡旋あっせんできるが、農兵の戦死の場合は看護師としての教育か漢方園の世話などを手伝ってもらい、生活費を稼いでもらっている。綿花の栽培やアブラナの栽培、兎の世話も彼女たちにしてもらっている。


 これらは収穫がダイレクトに斎藤の家の収穫になるし、未亡人は相応に数がいるので子供の世話係や休みの日が設定しやすい。働いている最中の子供用施設を用意したが、日本初の保育園になると思う。相応の年齢になったら種痘しゅとうもセットだ。福利厚生の充実度は世界有数のはずだ。



 子供たちは相応の年齢になったら読み書き算盤を始める予定だ。先生役はこれらを教えた幸と数人が担当する予定だ。豊は看護師を目指す女性のまとめ役をしている。2人には彼女たちを導くと同時に子育てのアドバイスを貰うよう伝えてある。もうちょっとでそういう立場になってもらわないといけないのだ。二郎サマ早く結婚しろ(3回目)。


 で、孤児院だが拡張したところ近江・伊勢や京からも人が集まった。正確には飢饉ききんで子供を育てる余裕がなくなった人が、伝手を辿たどって連れてくるのだ。

 せめて最後の愛情代わりと商人へ旅費が出せる程度の家限定だが、それでも国外からも100人ほどがやってきた。


 父は方言の違いなどもあるからと部屋を分けて生活させるそうだ。そのうち馴染んだら一緒に生活させると言っていた。間者を警戒している部分もあるのだろう。


 孤児院の子供たちは常備兵の候補・薬売り兼耳役を目指す・役人候補の3種類の教育を施すことにした。

 体が丈夫な子は忠誠の高い常備兵に、コミュニケーション能力の高い子は薬売りで金を稼ぎつつ諸国の情報を仕入れる役に、頭のいい子は役人として活躍できるように、という形だ。どれにも当てはまらない子は職人か薬草園などの力仕事につくことになるだろう。教師役もここから増やしていきたい。


「耳役の補充に薬売りを充てるか。面白い発想だな、新九郎。」

「私の官位を有効に使えれば、と思いまして。」


 現在の自分のおおやけの名乗りは斎藤典薬大允(てんやくだいじょう)利芸としのりだ。武士らしくないが、だからこそ地方で自分を知らない人には典薬大允の官位が効く。典薬寮の偉い方の薬の販売なら地方では重宝されるだろう。

 情報の収集をしながら1年くらいかけて諸国を回り、情報を集める。いざとなれば情報伝達のネットワークを作ってもいい。胡散臭い薬売りではない。朝廷が認めた医師の作った薬売りだ。実際に効果のあるものだけ扱わせるし、これで救われる人間も飛躍的に増やせるだろうから一石二鳥だろう。


「聞けば伊賀忍や甲賀忍にも薬売りを生業とする者がいると聞く。権威づけで負けぬようにな。」

「漢方園も大分拡張できましたから、いい収入になりますよ。」


 とはいえ孤児たちが成人しないとできないので最低5年はかかる。勝負はこれからだ。


 ちなみに、孤児院でも黒板とチョークは使っている。教科書を作ったは良いものの、幼児向けの絵本用にしか版画を作っていなかったので、冬の間は先日雇った絵の上手い男以外にも器用そうな人間を総動員して木版を作ることになった。


 明智十兵衛光秀などは案外楽しそうに手伝ってくれた。奥田七郎五郎利直は細かい作業が苦手だったので木版を上から圧して印刷し製本していく工程を頼んだ。

 小姓には御礼として算盤をプレゼントし使い方を教えておいた。冬の間を目いっぱい使って作業を進めたので、休日らしい休日が少なかった。


 蝶姫と福姫にはいつもより遊んであげる時間が少なかったとへそを曲げられた。新しい絵本でなんとか許してもらったが……労働時間長すぎじゃないか最近。早く結婚してハネムーンとかしたい。二郎サマ早く結婚しろ!(4回目)

現状では毎週木・日曜日の0時過ぎには更新を確実にする予定です。


何かあれば活動報告や最新話などで連絡させていただきます。



幸と豊について覚悟は決めましたがまだきちんと2人に伝えてないので、そのうちちゃんとプロポーズ的な話は入れます。

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