第2話 美濃のマムシと人生の目標
今日中に5話までは投稿します。次は11時予定です。
斎藤道三。美濃の蝮。織田信長の義理の父親。下剋上の権化。
色々あるが、目の前にいる本物はとんでもなく野心的なオーラと、子供を心配する表情がわずかに混ざった不思議な印象を俺に与えた。
「起きられるようになったか。医師はまだか。」
「ただ今呼びに使いを出したところですので、今しばらくお待ちください。」
そばに控えている武士が応える。と同時に、彼の名前が頭に浮かんだ。川村
「無理はするなよ。医師から問題ないと言われるまで稽古も勉学もなしでいい。お前はわしの跡を継ぐ予定なのだから。」
こちらの返事も何もないうちに、言いたいことだけ言って帰っていった。まぁ忙しい立場だろうし、それも仕方ないか。むしろそれでも顔を見せに来ただけ有情だと思う。
父斎藤道三は今、長井左近大夫
色々考えている間に女性数人と壮年の男性が現れた。先頭に立つ女性は男性より身長が頭1つ以上背が高く明らかに服装が豪華だ。顔を見た瞬間、母の
「豊太丸、起きたと聞きましたが具合はいかがですか?」
「大丈夫です、母上。」
「そうですか。でも体のことは自分でもわからぬことが多いですから、こちらの医師に診てもらいなさい。呪いの類ではないと常在寺の祈祷師が申しておりましたし、鬼子母神様にもお祈りしておきましたから。」
豊太丸が自分の名前。呪いとか非科学的すぎるが、まぁ神に完治を祈ってくれていたと思えばありがたい話だ。
ちなみに、豊太丸が倒れた時のことを後で聞いたら神頼みした理由がよくわかった。
なんでも朝まで元気だったのに昼すぎに突然高熱が出て、夕方には意識を失ったらしい。それだけ容態が急変したらそりゃ慌てるわ。医学が大して発展していないんだし、悪霊が憑いたかと思うのもやむなし。
♢
医者の診断する様子は(前世の基準で言えば)素人に毛が生えた程度だった。医大生の方がもう少し診るポイントがわかっているだろう。それでも戦国時代と考えればまともな方なのかな?
途中で処方しようとする丸薬(丸く固めた薬草だ。苦い)の中身を根掘り葉掘り聞いたら、少し困った顔をされた。この時代、そういう知識はそうそう教えられるものではないんだろう。
念のため2日は休むよう言われたが母はひとまず安心した様だった。母と医師が部屋から退出し、再び1人になったところで自分に関する知識を思い出そうとしてみた。
斎藤義龍。
一色左京大夫とか范可とか色々な名前があるし、父親同様色々な通称があるが、一番有名なのは父親の道三を殺し、織田信長と対立したことだろう。
優秀な人物だったらしく、信長も義龍が生きている間は美濃の国取りはうまくいかなかったという話だ。
そこまで考えたところで追加の知識が頭に浮かんでくる。便利だがかなり怖いなこれ。
道三殺しは信長の周囲が混乱している隙をついて行われたから、信長も義父を助けられなかった。道三は死の間際に国譲り状を信長に送り、それが信長の美濃攻めの大義名分になった。ちなみに、親殺しをけしかけたのは一説には叔父だか兄だかの長井道利だそうだ。記憶?では叔父らしい。
怖いな。親兄弟同士で何やっているんだか。巻き込まれたくない。
義龍は一説にはハンセン病にかかり、満年齢で33歳で病死したそうだ。
ん?33歳で死ぬ?
それはつまり、前世より今世の方が人生が短いということか?
それは嫌だ。
前世も働いて働いて働いただけで終わった。
それより短い人生?しかも大名だから年中無休24時間営業間違いなしだろう。しかもしかも相手はあの織田信長だ。休む暇などくれないだろう。
嫌だ。今世はホワイトに長生きしたい。
ならばどうすればいいか。そこで頭に浮かんだのは父の逸話だった。
「国譲り状……そうだ。それだ。」
織田信長と戦うなんて元々の義龍ならできたかもしれないが自分ができるとは到底思えない。
ならなんとかして本当に俺が美濃を信長に譲ればいいんだ。そして隠居として病気予防を徹底しながらホワイトに長生きする。
医学と衛生面の改善をしてなんとかすればいけるはずだ。ついでに何人か史実の病死した信長の家臣を助けてあげれば、信長も義兄を蔑ろにはしないでしょう。
豊臣秀吉の家族とかにもそういう人はいるのか?恩を売っておけば万一本能寺になっても大丈夫だろう。
よし、やることは決まった。
俺は長生きするために、織田信長に国譲りをするんだ。
転生(というより憑依に近いですが)の特典は前世の一度でも見た記憶や知識を思い出せるというものになります。結構強力ですが、これがないと医師と言っても医学を発展させるのが困難だと思いますので……。