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第19話  出来レースに見える華麗な?初陣

前の話で奥田三右衛門利直の身長設定した数字が間違っていたので訂正しています。

13歳で171cmの設定です。


いよいよ初陣(?)です。お城の位置はこちらで確認ください。池原城は篠脇の支城となります。


■美濃・越前関係城配置図

挿絵(By みてみん)

 美濃国 郡上郡・篠脇しのわき


 天文5(1536)年11月某日、父上の命で郡上郡にある池原城を奪還するという形で初陣を飾ることになった。しつこく言うがまだ数え10歳だ。早すぎる。早すぎるとしか言いようがない。子役のデビューですら労働時間と拘束時間と放送時間に配慮がされるというのに……これだから戦国時代は。


 池原城は先の朝倉による攻勢で失ったとう氏の支城の1つだ。山奥で攻めにくく、西と南が川で塞がれている天然の要害だ。東氏は周辺の要である篠脇城を朝倉から守ったが、周辺の支城全てを取り戻すには損害が大きかったため放置された城だ。


 朝倉も熱心に守る気はないらしく、城には足軽小頭級の将が1人いるだけらしい。

 初陣にはうってつけということになる。



 具足を身につけた姿は意外と悪くない。周りと比べて背もそこまで低くはない。

 というのも、身長は今の所5尺には4寸届かないくらい。センチだと138cmくらいになっている。感覚だから誤差はあるが、満年齢9歳と考えるとかなり大きい。大人でも5尺ちょっと(155cmちょっと)あれば普通の時代だ。遺伝もあるだろうがカルシウムとビタミンDが足りていないんだ。俺は魚ときくらげ食べて補っているけれど。


 もっとも、小姓の奥田三右衛門利直がいるので、結局目立つ集団ではある。

 城に来た日に挨拶した篠脇城主の東常慶とうつねよしはかなりご機嫌だった。そりゃ父上が1500も兵を連れて来て自分の領地を取り戻してくれるんだ。機嫌も良くなろうよ。


 ♢


 美濃国 池原城周辺


 篠脇城を出てから父上の1200と東常慶の400は北上し、越前と美濃の国境付近にある油坂峠に向かった。

 初陣のこちらに大部隊が来ないように牽制するためだ。こちらは叔父と共に300で池原城に向かった。


 先行して偵察してくれた東氏一族の東尚胤とうひさたね殿の報告で、敵の数は総勢25と判明した。あれ?事前に聞いていた兵数より少ないような。


「向こうの侍はわかっているな。こちらが攻めた後は書状の通り進めれば良さそうだ。」


 叔父の道利はうんうんとうなづきつつ口の端を上げる。


「叔父上、何故敵は兵の数を減らしたのでしょう?」

「分からぬか。戦が終わった後、逃げ帰った時に一族から5名が討ち取られたと報告するためよ。こちらも戦が終わったら5名の敵兵を討ち取ったことにするのよ。首実検くびじっけん用に何か砦には置いてあるだろう。」


 え、なにそれ八百長ですか。


「敵とて死にたくはない。こちらも損害は出したくない。きちんと城の兵とは話が済んでいる。安心して名乗りを上げて号令すると良い。」


 一気にテンションが下がる情報である。完全に出来レースじゃないか。


 ♢


 早朝に出発して昼過ぎには池原城に着いた。山の上なので固そうだが、特に守る気がありそうな動きは見えない。


「さ、頼むぞ大将。相手を震え上がるような口上を皆に見せるのだ。」


 圧倒的な無茶振りにジト目になりつつ、小姓と叔父上の兵の前に立つ。


「朝倉の孤立した城で震えている敵に、土岐の精兵の力を今一度思い出させようぞ!」


 前日に作ってあった原稿に一言加えて終わりにする。歓声が上がったからこれで大丈夫だろう。


鏑矢かぶらや放て!」


 叔父上の一言で城に開戦を告げる鏑矢が放たれる。笛の音にも聞こえる甲高い音が響くと、相手からも鏑矢が飛んで来た。叔父上がこちらを見て頷く。


「者共、かかれー!」


 まだ声変わり前の高い声で突撃を命じる。50人ほどが先鋒として城への山道を登り始めた。

 相手からは散発的に矢が飛んでくるが、先頭は木の板を持っていて矢を弾いたり受け止めたりして進む。


 体感で10分くらいした頃、第二陣150人が山道を登り始めた。これに自分たちも加わって登り始める。後詰めと警戒に100の兵と共に叔父上は残った。


 ♢


 山道を登った先では、朝倉の兵とうちの兵がなんとなく槍を合わせていた。弓矢は全く飛んで来ない。相手は人手不足でそんな余裕ないらしい。やる気のカケラも感じられないが、何人かはそこそこ真面目に戦っているように見える。

 事前に言われた通り、弓で密集地帯の奥に向けて一発矢を放つ。誰かに当たるのが重要なのではなく、相手に俺が来たのを告げるための矢である。後で相手を討ち取ったことにされる一発だ。


 相手の指揮をとっていた兜をつけた人物が、こちらに気づいたのか大声で猿芝居を始めた。


「やや。あれは斎藤守護代を簒奪さんだつせし美濃の油売りの小倅こせがれではないか!あれだけ多くの兵を率いてくるとは!これでは城がもたん!ここまで奮戦し味方も5名失ったがここは無理せず退くことにするぞ!退け!退けー!」


 当然だが城門の前には死体は見当たらない。言葉もほぼ棒読みでなんとも言えないが、何はともあれ敵は逃げ出した。味方の兵士たちがこちらを見てくる。あ、叔父上に言われたあれの時間か。


「皆の者!まずは城の中を確実に確保する!敵を追うのは後回しにせよ!」


 安全に逃げるのを約束して城をとったんだし、こちらは逃がしてあげないとね。死兵になると被害が出てシャレにならない。

 しばらくして城の中に敵が居ないのか確認された。どこから集めたか死体も5つ。まぁ当然とはいえ、万が一もあるのでこれが大事なのだ。


「よくやった!この戦我らの勝ちだ!勝ちどきをあげよ!」

「えいえいおー!えいえいおー!」


 なんという猿芝居。世が世なら観客のクレームで電話回線がパンクしていただろう。これで俺は初陣で味方に損害を出さず城を1つ落とした若き名将の仲間入りである。さぞかし各地で吹聴されるんだろうよ。

初陣は失敗しないことが大事なので、最上義光クラスでも刈田狼藉して初陣終わりだったそうですね。

義龍君はそれに比べれば支城とはいえ城1つ落とす大戦果(?)であります。


今日も16時半頃にもう1話投稿予定です。三連休なのもあり、主人公の見せ場までは出来る限り短い間隔で投稿したいのもありです。

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